「報道で匂いは伝わらないから」被災地トイレはなぜ“地獄”化? 見落とされがちな災害用トイレ課題に挑む
能登半島地震の被災地でも活躍、都内企業開発の災害用トイレ
便器から床一面にあふれる、汚物をふいた紙。使用済みの携帯トイレが入ったビニール袋の山。汚物が逆流し、足を踏み入れることすらできないトイレ。これは、過去の被災地で撮影された写真の様子だ。
「こうなるとトイレを我慢してしまうようになり、飲食を控え、抵抗力が落ち、不衛生な状況の中で感染症が広まってしまうという悪循環が生まれるんですね。被災地のトイレ問題は1995年の阪神・淡路大震災のころから言われていましたが未だに、この問題は発生しています」
語ってくれたのは、新たな災害用トイレとして注目を集める「ほぼ紙トイレ」を開発したカワハラ技研(中央区月島)で企画開発部長を務める小野奈々子さん。
今年1月1日に発生した能登半島地震でも、現地からすぐに追加注文があったという。
「たまたま、以前に七尾市の商業施設さんに納品していたんですが、今回被災されて施設内のトイレが使用できなくなったので、すぐに追加で送ってほしい、と。ところがうちは基本的に受注生産のためちょうど在庫がなく、すでに納品しているお客様に相談したところ皆さんから被災地に先に送ってくださいと快諾していただきまして。その施設をはじめ今回、合計で7~80台ほど現地に届けることができました」
「ほぼ紙トイレ」は、し尿を貯留する樹脂製タンクと、壁や屋根の板紙、便器などがセットなった組み立て式の備蓄型個室トイレ。工具は必要なく簡単に組み立てることができ、組み立て後でも約43.5キロの軽さ(転倒防止対策のため別途、重しが必要)。タンクは400リットルと大容量で、約1600回分(50人で1週間想定)の使用が可能。タンクは回収までの長期保管が可能で、中にバイオ製剤を入れるため1カ月ほどでし尿は分解されるという。建材の紙は選挙ボードに使用されているものと同じ素材のため屋外でも使用可能。個室内は正六角形のデザインにより、小スペースながら親子や介添者も入る余裕がある。発泡スチロール製の洋式便器はしっかりとした作りで、便座に座ってみても使い慣れたトイレと違和感がない。人感センサーの照明やドアのカギ、トイレットペーパーホルダー、“男女マーク”のプレートなどもついている。使用後は一部の部品を除きほぼすべて焼却できる素材が使われている。
「自分で簡単に組み立てられて、水道や電気、下水道が無くてもすぐに使用できて、災害発生から1~2週間、安心安全、清潔に使える災害用トイレを目指しました」と小野さん。“自己完結型”の災害用トイレを開発した背景の一つには災害時のトイレ対策の難しさがあった。
「ほぼ紙トイレ」
便座は普段、使い慣れているものと違和感なし
ドアの内側からカギをかけると…
「使用中」の印