「報道で匂いは伝わらないから」被災地トイレはなぜ“地獄”化? 見落とされがちな災害用トイレ課題に挑む

「ほぼ紙トイレ」組立・解体実演会には毎回、さまざまな企業や団体が参加(写真提供:カワハラ技研)

被災地トイレはなぜ衛生的に保つのが難しいのか…全国的に備えに遅れも

「一般的に災害時に使われるトイレというと、工事現場などでも使われる仮設トイレや、マンホールの上に設置して下水道に直接汚物を流す“マンホールトイレ”、あとは個人でも常備しやすい携帯用トイレなどがあると思いますが結局のところ、どう処理できるかは被災地の状況によって左右される面がとても大きいんです。例えばマンホールトイレは基本的に下水道が破損していない場合の使用が推奨されており、本当の非常時は仕方ないかもしれませんが、本来は下水道が機能している必要があります。タンクに貯めるタイプの汲み取り式などは、満杯になったらバキュームカーで吸引したり、タンクを回収する必要がありますが、一般的な仮設トイレの容量は250~300リットルほど。50人で使用すると3日前後で満杯になってしまうくらいの容量です。平時なら適宜バキュームできるので問題ないですが、災害時はそうとは限らない。満杯になったまま不衛生な状態で放置されれば、仮設トイレそのものが環境を悪くしてしまうし、メンテナンスも大変です。また、個人用の携帯トイレも基本的には使い捨てですから、1週間分を用意するとなったらけっこうな量になります。しかも携帯トイレの使い方が分からず便袋をトイレに流そうとして詰まらせたり、きちんと凝固せずに漏れ出したり汚臭を放ったり…ということも少なくないので、携帯トイレの備えとともに使い方の把握や、使用済みのものをどうするかも念頭に置いておいた方が良いと思います」

普段は水洗トイレで流して“無かったこと”になっていたものが、流せなくなったらどうなるか。それが、先述の悲惨なトイレの状況だ。

「非常時だからってトイレを1週間我慢できる人なんていません。非常時だからと、不衛生なトイレで我慢していればさらに問題が発生します。災害発生からの1~2週間に、いかに衛生的で安心安全なトイレ環境を整えられるかは、誰にとっても他人事ではない重要な問題なんです。水や電気がない、マンホールが使えない、バキュームできない…いろいろな状況を想定した災害用トイレの備えが必要だと思います」。

 しかし現状、災害用トイレ対策の遅れが全国的に指摘されている。

「本当に何十年も前から言われてきたんですが報道でも、あまりこの手を問題が取り上げられてこなかった。映像でも記事でも“匂い”って伝わってこないんですよね。そのせいで深刻さが伝わりにくかったり、自分事として受け止めづらいのかもしれません。でもこの先も大災害が懸念される中、インフラが整っている大都市であればあるほどトイレ対策を怠ると大変なことになると思います。やっぱり普段からの備えが重要なんですよね」

だからこそ、使用後の処理や備蓄のしやすさ、サステナビリティーまで意識して開発された「ほぼ紙トイレ」。今のところ「震災でトイレ問題を経験した施設や機関、“陸の孤島”になりそうな自治体さん、また、食事からトイレまで自分たちで用意しなければならない救援側の方々から発注を頂くことが多いですね。最近、都内でも多くはないですが、組み立て講習会に参加してくれる自治体さんなども出てきました」とのこと。カワハラ技研では、『防災産業展 2024』(2月20~22日、東京ビッグサイト)など展示会への出展のほか、定期的に「ほぼ紙トイレ」の組立(解体)実演会を行っている。

絶対に必要なものだからこそ、どんな状況にも対応できるようにしておきたいトイレの備え。自分が暮らす自治体がどんな災害用トイレの備えをしているのかを確認し、個人やコミュニティーでの対策に生かすなど、いろいろな状況を想定した対策が必要だ。

セット梱包時のタンク内部

 

「男女別に1組ずつの備えがおすすめ」とのこと。男女マークもセットについてくる