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徳井健太の菩薩目線 第97回 染み付いてしまった新しい常識、感覚は変えられない。目先のことを考えるのは、もうやめにしよう。

2021.05.10 Vol.Web Original

 

“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第97回目は、三度目の緊急事態宣言がもたらす影響について、独自の梵鐘を鳴らす――。

三度目の緊急事態宣言が発令された。

コロナに関する有象無象については、このコラムでもたびたび触れてきた。“たびたび”ということは、それだけコロナが収まっていないことを意味するわけで、今なおトンネルの出口は見えやしない。

先日、先輩であるくまだまさしさんと話す機会があった。この人は、吉本の営業キングといってもいいくらいで、吉本の社員の中には、緊急事態宣言のあおりをもっとも受けた芸人はくまだまさし――とまでいう人がいるほどだ。

くまださんほど、数多く営業の仕事をしている人を見たことがない。おととしの12月は、なんと営業が月18本もあったそうだ。お祭り、学園祭、ショッピングモール……そんな営業キングが今年のゴールデンウィークは、すべての営業が吹っ飛んだと漏らしていた。 

元々、さほど営業をしていない芸人が、こういった状況下で窮するのは理解ができる。でも、キングであるくまださんが窮するのは理解に苦しむ。おそらく、くまださんが営業で食えなくなるということは、すべての芸人が営業で食えないことを意味する。コロナは、大きすぎるくらいの試練を与えている。

こんな調子が続くようでは、営業以外の仕事にも、より顕著に影響が出てくる可能性が高い。先日、加藤(浩次)さんがMCを務める『北海道スタジアム』(NHK)という3時間を超える生放送番組に、プレゼンターとして出演した。もし放送時に緊急事態宣言が発令されていたら、東京在住の俺が北海道に行くことはなかったかもしれない。番組自体も延期、中止になった可能性だってある。

何カ月も前から準備していた企画や番組が、コロナによってひっそりと立ち消えになったケースだってあるだろう。そんな話は聞きたくない。「実はこんな大きなチャンスがあったんですけど、コロナの影響によってなくなってしまったんです」なんて言われたら。聞かぬが仏。これ以上、何かを下げることはしたくない。

この先人々は、コロナとどう付き合うんだろう。なんてことを考えたとき、コロナは予防意識をがらっと変えてしまったんじゃないかと思った。例えば血液。血液感染症は、血液が傷口や粘膜に付着するで引き起こされる感染症だ。調べてみるとAIDS(HIVによる後天性免疫不全症候群)、HCV(C型肝炎)、HBV(B型肝炎)、梅毒などが該当する。

こういった病気が一般的に知られるようになる前までは、誰かが出血したとして、血液を過度に恐れることはなかったのではないか。ところが、血液を介した感染経路があることが知れ渡ると、無意識下で血に触れないように、多くの人が行動することが当たり前になった。

それがいま、咳になってしまった――と思う。電車の中で誰かが咳き込むと、多くの人が視線を向け、ときには車両を変える人もいる。そういった意識が、この1年の間に不自然なものではなくなってしまった。仮にワクチンが摂取でき、コロナに対してある程度免疫がつく世の中になったとしても、染み付いてしまった新しい常識、感覚というものは変わらないんじゃないか、なんて俺は思う。

コロナ以前と変わらないように営業している飲食店や、そこに足を運んでワイワイと盛り上がっている人たちを見ると、幻想を覗いた気分になる。その行為が正しいとか正しくないとかの話ではなく、ただただ過去の世界の景色を見ているような気になってしまう。

日本人は目先が好きだ。ランチ代で毎日1000円を使うとなると、ひと月2万~3万円の出費になる。1年間で約30万円。「食費だから仕方ない」とほとんどの人は答える。でも、2万円の自転車と6万円の自転車どちらを買うか――となると、どういうわけか安いほうを選びたがる。

4万円多く出したことによって、どんなメリットが生じるか。を考える前に、安さに食指が伸びる。いわく、「食費じゃなくて雑費だから」。でもどうだろう? 実際のところは、“ただただ安い”とか“コストパフォーマンスが良い”……そんな理由だけで選んでないか。目先の事しか考えてないよね?って。

安さでモノを選ぶことも大事だ。でも、目先のことだけ考えていたら、大きなしっぺ返しを食らう。コロナに関しても、同じようなことが言える状況にあるんじゃないのって思うのだけれど。お上も目先の事ばかりを追って、俺たち生活者も目先のことばかり考えている。収まるものが収まらないのも仕方ない。

そして、メディアが報じたことを国民はネットやSNSを通じて声高に叫び、その様子を見たお上が顔色をうかがい始める。意思決定がSNSを通じて行われているようで、これはもう革命なんじゃないかと錯覚する。一体いつまで続くのか。ワクチンが摂取できたとしても、ホント、一体いつまでこんなことを繰り返すんだろうと思う。

徳井健太の菩薩目線 第96回 本気と狂気は表裏一体。『バス旅』の太川さんは、アスリートだった。

2021.04.30 Vol.Web Original

 

“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第96回目は、出演した『ローカル路線バス対決旅 路線バスで鬼ごっこ!』について独自の梵鐘を鳴らす――。

 

 1月20日に放送された『ローカル路線バス対決旅 路線バスで鬼ごっこ! 群馬・高崎~伊香保温泉に出演した。

 番組を見た当コラム担当編集A氏から、「書ける範囲で構わないので、バス旅に出演した感想を教えてほしい」というオーダーを受けた。A氏は、無類のバス旅ファンらしく、2007年に放送された第一回「横浜~富山」以来、ほぼ全シリーズ見ていると豪語するバス旅原理主義者らしい。

 それにしても、なぜ俺にお鉢が回ってきたのか? 2日間拘束だから、ある程度スケジュールに余裕があったり、勝負に対してガッツがあったり、場を和らげられたりする人が求められるだろうし、単にギャンブル好きで怠け者という性質がたまたま蛭子(能収)さんとリンクしただけかもしれない。番組サイドのみぞ知るところだが、実際問題として俺自身も「蛭子さん2世」的な役回りで旅に参加しようとした。

 ところが、テレビの法則をぶっ壊していくようなロケの連続で、それどころではなかった。俺は、恍惚と不安を覚えた。『(株)世界衝撃映像社』という番組で、なかなか壮絶なロケを経験してきた自負もあった。でも、『バス旅』はまったく異なる激しさ。“辣”の辛さと“麻”の辛さが違うように、『バス旅』のそれは文字通り痺れるようなロケだった。

 太川さんは、カメラマンを追い抜いて先を急ぐ。番組中でも触れたけど、若手の頃に、「カメラマンを追い越すな」とさんざん教わった。共演者に距離的なひらきが生じれば、どちらを撮っていいかわからなくなるため非効率的になる。だけど、太川さんには、そんなこと関係ない。

 スタッフが用意している展開を先読みすることは、台本を覆す形になりかねないため、極力流れに沿ってロケをしていく……はずが、太川さんは次の展開を先読みして、あらゆる方面のバスの時刻表をメモしておく。ロケなのに、千里眼の能力を発揮してしまう。

 当初、ダメキャラで蛭子さん的に振る舞うことを考えていたものの、バラエティの常識が通用しない、見たことのない世界線を歩いている太川さんと、勝手がわからず戸惑っているだろう筧美和子さんの間を往来し続けた結果、気が付くと俺はバランサーになっていた。

 過去イチ、過酷なロケだったかもしれない。『(株)世界衝撃映像社』はコンビでロケをしていたから、負担を折半できるところがある。例えば、吉村が筧さんをケアし、俺が蛭子さんのように適当なことを言って太川さんを困らせるといったことができる。が、バス旅ではコンビ特有の分身の術が使えない。12時間カメラを回し続け、そのテンションが2日間続く。下手な海外ロケよりも、頭も体も回し続ける。

 そして、時折、太川さんの狂気がほとばしる。狂気研究家でもある俺は、太川さんの狂気に酔いしれた。どんな部族よりもアイデンティティーが太かった。太川さんは、昭和50年代を代表するスターだ。そのため、カメラが勝手に追って自分を映すという覇道を歩む人なのではないか。対して、俺をはじめとした数多のタレントは、カメラを振り向かせるために手練手管を弄し邪道を歩む。その対比が、画面では面白おかしく伝わるのかもしれない。そして、蛭子さんの奇想天外な言動だけが、唯一、太川さんを覇道から脱線させることができたんだろうなとも思う。

「勝負に勝ちたい!」という欲本来に則るなら、ご褒美やら賛美やら、そういったものがないと人は頑張れない。がんばれる動機があるからこそリアリティが増す――と考えるのが一般論だが、太川さんにはそんなものは関係ない。負けたくない、勝ちたい、その一点で勝負をしている姿は、もはやアスリートと言っても過言ではないと思う。太川さんはタレントの域を超えて、もうアスリートの領域にいるんだなと思った。

 終盤、太川さんはカラオケボックスで鬼の形相になる。でも、『バス旅』がバラエティではなく、スポーツだと考えると、勝利のために相手チームに対して、憤怒の相を浮かべたのも納得だ。バラエティでは、なかったんだ。もっと言えば、テレビですらないのかもしれない。

 実は、あのカラオケのくだりでは、相手チームが到着する前に、「何を歌うか?」という話し合いをした。番組的にも『Lui-Lui」』を歌った方が盛り上がると思い、「太川さん、お願いしますよ」とアプローチしてみたものの、「無理無理!」とガチめに断られたので、俺がTHE YELLOW MONKEYの『プライマル』を熱唱するという、誰も聴きたくないだろう一幕があった。もちろん、全カット。からの相手チームの突撃、そして鬼の形相。あんなに濃いカラオケは、もうないと思う。

 番組は、信じられないような結末を迎える。結局、人間が本気になったら想像ってものは超えてしまうんだろうな、と思った。本気と狂気は表裏一体なんだ。

徳井健太の菩薩目線 第92回 新宿、渋谷、池袋、横浜……駅構内を複雑かつ不親切にするのは、人を不愉快にさせるため?

2021.03.20 Vol.Web Original

 

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徳井健太の菩薩目線 第90回 私欲ではなく、誰かのためにするギャンブルは、どういうわけか当たることが多い

2021.03.01 Vol.Web Original

 

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徳井健太の菩薩目線 第89回「モテたい」よりも「面白いと言われたい」という欲が、服装に表れる

2021.02.20 Vol.Web Original

 

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徳井健太の菩薩目線 第88回 漠然とした貯金って、皆勤賞みたいな不気味さがある

2021.02.10 Vol.Web Original

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徳井健太の菩薩目線 第87回 荷物検査での悲しい出来事。そして、代官山のハンバーガーとボートレース若松

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2021.01.10 Vol.Web Original

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徳井健太の菩薩目線 第82回 サドルを盗むなら、犯行後、一輪のバラを挿してくれたらなんて思う

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