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ハイワイヤ 第二回公演「墓場までのかえりみち、ゆりかごからブランコへ。」

2025.07.20 Vol.762

 ハイワイヤは俳優の高畑裕太が2021年5月6日に旗揚げした演劇団体。現在は主宰・作・演出の高畑を中心にサポートスタッフ2名の協力の下、活動、運営、企画考案を行っている。

 2023年夏に第一回公演「トラ」を上演。その作品は高畑が中学時代に受けた「イジメ」と「幼少期の家庭環境」にまつわるエピソードを起点に物語を立ち上げて「遠い過去の記憶と現在の自分との繋がり」を想起させる事をテーマとしたものだった。

 高畑の手掛ける作品は個人が体験したとある経験をベースに「社会の片隅で過ぎていく誰かの半生」を描いていくというもの。生きている中で誰しもに生じる不条理、ストレス、孤独、愛などといった人間の普遍的な感覚を具現化する事で観ている側に強い共感性と没入感を呼び起こす。

 今回の作品は高畑本人が介護従事者として働いていた経験を元に、家族介護を通して、その当事者である主人公のみならず、その周りの人々が、それぞれの「死生観」(生き方/逝き方)が変化していく様子を群像劇ながらもドラマチックに描く作品。高齢社会だけではないさまざまな問題を抱えた現代を生きていかなければならない私たち全員に通ずるクオリティー・オブ・ライフを問う作品となっている。

シリーズ「光景-ここから先へ-」Vol.3「消えていくなら朝」

2025.07.07 Vol.762

 劇作家・演出家の蓬莱竜太が2018年に新国立劇場に書き下ろし、私戯曲的な内容としても話題を呼んだ傑作をフルオーディション企画第7弾として、蓬莱自らが演出を担い上演する。社会での最小単位である、家族が織り成すさまざまな風景から、今日の社会の姿を照らし出し、未来を見つめるシリーズ「光景-ここから先へ-」の第3弾でもある。

 物語は家族と距離を置いていた劇作家の定男が恋人を連れて帰省し、18年ぶりに全員が顔を揃えた家族の前で“次回の新作で、家族のことを書いてみようと思う”と切り出すところから始まる。表面的な会話から、だんだんと長年抱えてきた不満や本音が飛び出していくヒリヒリとした会話の応酬。「家族」だからこそ遠慮がなく、胸を抉るような言葉が飛び出していく。

 蓬莱自身を投影して描いたという、主人公の劇作家の定男(僕)は関口アナンが演じる。
 作中では宗教二世の問題にも斬りこんでおり、2018年初演時よりもさらに鮮明で切実な物語となっている。

深作組『ルル―地霊・パンドラの箱―』

2024.11.25 Vol.760

 2021年よりドイツ戯曲を立て続けに7作品上演した深作組が〈ドイツ・ヒロイン三部作〉第二弾として『ルル—地霊・パンドラの箱—』を上演する。『ルル』 は『地霊』『パンドラの箱』の二篇からなる、時代に翻弄されながら男たちを破滅させてゆく娼婦「ルル」の愛と堕落を描くフランク・ヴェデキントの野心作。19世紀末の発表当時、何度も上演禁止となった問題作でもある。

「地霊」「パンドラの箱」はアルバン・ベルクのオペラでも有名で、日本では2005年に秋山菜津子がルルを演じている。

 今回は深作組作品の翻訳で第16回小田島雄志・翻訳戯曲賞を受賞した大川珠季が新たに翻訳し、演劇やオペラ、映像作品など多彩なジャンルで活躍する深作健太が、今までの作品同様、現代社会が抱える問題をえぐる挑戦的な演出で作品化する。

 出演は主役ルルに、深作組では『火の顔/アンティゴネ』(2023)などに出演した大浦千佳、ルルと兄妹のように育つアルヴァ役に、今作品が初舞台の人気声優・市川蒼、シゴルヒ役に映像や舞台で活躍する萩野崇、そして深作組常連の宮地大介、七味まゆ味、葉山昴、小田龍哉、小林風花が脇を固める。

黒田勇樹がジョン万次郎をモチーフに「世界は広くて美しい」ということを描く舞台が12月3日から上演

2024.11.22 Vol.760

三栄町LIVE×黒田勇樹プロデュースvol.17 『いつの日か、また会おう!』

 作家・演出家・映画監督、そして俳優として活躍する黒田勇樹が作・演出を務める舞台『いつの日か、また会おう!』の上演が12月3日から始まる。

 三栄町LIVEとは東京・四谷三栄町にある三栄町LIVESTAGEを拠点に年間20公演以上を行う企画団体。“観客、業界関係者との出会いやコンタクトの場”というコンセプトを掲げ、この現場を通じて次の仕事を勝ち取る役者を量産することをテーマとして掲げるという個性あふれる団体で、黒田と三栄町LIVEは2018年から「三栄町LIVE×黒田勇樹プロデュース」という形で舞台制作に取り組み、今回で実に17作目となる。

 この三栄町LIVE独自の姿勢と黒田のパイオニア精神がうまく噛み合い、他ではなかなか見られない作品を数多く生み出している。前作『GEMINIでございま〜す!』は実験演劇と銘打ち、AIに脚本を読み込ませ、コミュニケーションを取りながら修正を繰り返し演劇を作るという試みに挑戦。第1部では黒田が書いた脚本、第2部ではAIに書き直してもらった台本で演じるという摩訶不思議な世界を作り出した。

 もちろん、そういった突飛な試みばかりではなく、きっちりと物語性の強い作品も。今回は“日本に初めて民主主義を伝えた男”といわれるジョン万次郎をモチーフに「世界は広くて美しい」ということを描く作品。今年2月に上演の予定だったのだが、訳あって10カ月経って日の目を見ることとなった。さて、どのような作品に仕上がったのか。

【劇場に行こう!】主演・宮沢りえ『そのいのち』

2024.10.20 Vol.759

 本作は俳優の佐藤二朗がミュージシャンの中村佳穂の楽曲「そのいのち」(2018)にインスパイアされて12年ぶりに脚本を手掛けたもの。物語は介護ヘルパーとして働く山田里見と里見の雇い主である障がいを持った相馬花とその夫の和清の穏やかな日々と、あることをきっかけにその穏やかな関係が徐々に狂い始めていくさまを通じて「持つ者」と「持たざる者」の間にある埋めようのない「溝」を描くという。

 相馬花役は佳山明と上甲にか。佳山は脳性まひの後遺症がありながら、上甲は筋ジストロフィーという難病と闘いながら女優として活躍。ともに車いすのハンディキャッパーなのだが、8月29日に行われた制作発表会見で宮沢は「自由に体が動いている人の心が不自由かもしれないし、体が不自由でも心はとても自由で、健やかに生きようとする人がいたり。健常者と障がい者を区別することって何なのかなという疑問がさっきわいてきた。そういう意味でもお二人と作品を作るということは私にとって大きな経験になると思う」などと語った。

 東京公演後は11月22〜24日に兵庫県立芸術文化センター阪急中ホール、11月28日には宮城県の東京エレクトロンホール宮城でも上演される。

松永玲子、佐藤真弓、有森也実出演の舞台『片づけたい女たち』が18日から上演。人生の分岐点にさしかかった3人の女たちの物語

2024.10.15 Vol.759

 松金よね子、岡本麗、田岡美也子による演劇ユニット「グループる・ばる」の公演として2004年に初演された『片づけたい女たち』が10月18日から新宿シアタートップスで松永玲子、佐藤真弓、有森也実の顔ぶれで上演される。

 同作は二兎社主宰で劇作家・演出家の永井愛の代表作の一つで、今回は演劇プロデュースユニット「ムシラセ」の主宰・作・演出で舞台写真家としても活躍する若手クリエイター保坂萌が演出を手掛ける。

 登場人物は高校のバスケ部からの友人であるツンコ、おチョビ、バツミの3人。付き合いはもう30年以上で年齢も50歳を過ぎ、人生の分岐点にさしかかったところ。最近、電話もメールもつながらないツンコを心配したおチョビとバツミが新年の三が日もすぎた夜中、ツンコの家を訪ねると、そのマンションの一室はゴミだらけ。仕事始めを直前に控え、ツンコのピンチを放っておけないおチョビとバツミは、腕、膝、首の痛みに耐えつつ、片づけを手伝うことに。そんな時に限って思い出話は尽きることなく出てくるもので、ちょっとの片づけだったはずが、それぞれの生き方が見えてくる…といったお話。

 登場人物たちと同世代の人たちに限らず若い世代の人たちにも大きな共感を呼ぶ作品で、これまで120回以上も上演されたグループる・ばるの代表作。またる・ばる以外でもさまざまな劇団やユニットで通常の演劇公演として、そしてリーディング公演としても上演されているのだが、出演者や演出家によってそれぞれ違った趣を感じさせてくれており、今回の保坂と3人の女優たちがどんな作品に仕上げてくるのかにも注目が集まる。

 上演は24日まで。

劇団桟敷童子『阿呆ノ記』が6月4日から上演開始。生贄や人身御供といった風習や伝説が蘇る村の人々を中心とした群像劇

2024.05.29 Vol.758

 桟敷童子は1999年に結成された劇団で、作品の主だったものは演出を務める東憲司が幼少期に過ごした福岡の炭鉱の町・筑豊や霊場巡りで知られる篠栗での原風景をもとに、困難に立ち向かう人々の壮絶な生きざまを描いた骨太で猥雑な群像劇。

 旗揚げ公演は辰巳倉庫内特設劇場。以降、いわゆる演劇を上演するための「劇場」ではなく、倉庫、廃映画館、野外といった、本来、演劇とは縁遠い場所での上演を続けてきた。

 それは彼らが「追い求める風景」、つまりは東の作品の世界観を実現させるためで、劇団員たちは1週間から半月ほどの時間を費やし、総出で大掛かりな舞台を作り上げる。劇団が成長し、ザ・スズナリ、吉祥寺シアターといった通常の劇場で公演を行った際には劇場でありながら野外公演かと思わせるほどのリアリティーと迫力のあるセットを作り上げ、観客に「ここがスズナリか?」と思わせるほど。大掛かりな演出も変わらずで、とことん自分たちの色を貫き通す。

 そして公演当日はスタッフだけではなく、役者たちも衣装のまま観客たちを迎え、終演後にはそのまま外に出て観客たちを見送る。観客側からすると開演時間からではなく、開場時間から作品が始まっているかのような錯覚にとらわれ、会場に入った瞬間から強引に物語に引きずり込まれていく。

 今回は昭和初期の辺境の村が舞台。生贄や人身御供といった概念が否定された時代に、その風習や伝説が蘇る村の人々を中心とした群像劇が展開される。

劇団ONEOR8新作公演『かれこれ、これから』5月31日から上演開始。シェアハウスを舞台とした恋愛にまつわる悲喜こもごも

2024.05.29 Vol.758

 劇団ONEOR8は舞台芸術学院出身者で1998年に結成され、今年で26年目となる。

 作・演出を務める田村孝裕が主に描く世界はありふれた日常的空間。物語はそこで暮らす市井の人々のなんてことのない日常が淡々と進む。特別な大事件が起こるわけではないが、そこにはしっかりとしたドラマがあり、ONEOR8の作品を見ていると実は“つまらない人生”なんてものはないんじゃないかと思わされる。

 今回は約1年半ぶりの新作公演。作品の舞台はとあるシェアハウスで、ここに住む10数名の男女が織りなす必然的に生まれた恋愛にまつわる悲喜こもごもが描かれる。

 今公演のコンセプトは「若い男女がたくさん登場する」というもの。そのため、座長を務める恩田隆一はこの1年半、若い俳優を探すため多くの舞台を観劇し、実際に会って話をしたりという時間を過ごしてきたという。

 その結果、今回は10人の若い俳優たちが出演。さらに過去に出演経験のある保倉大朔、異儀田夏葉に富川一人といった小劇場界の実力派の中堅俳優3人を加え、旗揚げ以来最大人数となる16人での舞台となる。

 また1・2日14時、3日13時の回は終演後にアフタートークが行われる。

劇場に行こう!赤堀雅秋プロデュース新作公演『ボイラーマン』

2024.03.05 Vol.757

 劇作家・演出家で俳優でもある赤堀雅秋の書き下ろしの新作は、自らのプロデュースによる『ボイラーマン』。

 主演は赤堀と何度もタッグを組み、その存在感と演技力で赤堀作品を支えてきた日本演劇界に欠かせない俳優・田中哲司が務める。そしてヒロインに田中との本格的な共演は初となる安達祐実。意外にも演劇経験は少ないが赤堀ワールドで田中とどう絡みどんな新ヒロインを演じるのか注目が集まる。

 赤堀の作品は、時に無様な、時に滑稽な、そんな様をみせる人間たちの機微を独自の観点から描き出し、独特のユーモアを交えながら、あたかも観客が登場人物たちの日常をのぞき見しているような不思議な空間へと誘うもの。

 今回のストーリーはまだ明かされていないのだが、イントロダクションでは「素性を隠し慎ましやかに暮らす主人公、悪の組織に捕われてしまった悲劇のヒロイン、主人公の相棒は実は悪の組織から送り込まれたスパイ、主人公はヒロインの前でついに己の正体をさらすことに。その名は……という物語ではないことは確かだ」などと語られているように、いつもの赤堀ワールドが展開されるのは間違いないところ。

劇場に行こう!『時をかけ・る~LOSER~』

2024.01.19 Vol.757

 一つのテーマをグランドミュージカル、3.5次元、会話劇、殺陣ありエンターテイメント、ストレートプレイという異なる5つのジャンルで描き出すという新しい試みの作品が3月に上演される。

 テーマは「関ヶ原の戦い」で舞台は「タイムトラベル」ができるようになった近未来。国が選んだ歴史上の人物を調査することを命じられた歴史研究に励む5人の若者が5人の武将に着目する。その武将たちはすべて“敗者”。敗者の歴史を追うことで見えてくるものとは…。

 5つの作品の1つ目は、ストレートプレイで描く、安国寺恵瓊の物語『笑う怪僧』。2つ目は、裁判劇風の会話劇で描く小早川秀秋の物語『被告人 ヒデトシ』。3つ目は、エンタメ活劇で描く大谷吉継の物語『莫逆の友』。4つ目は3.5次元ミュージカルで描く直江兼続の物語『ラブミュ☆北の関ケ原』。そして5つ目がグランドミュージカルで描く真田信之の物語『ミュージカルNOBUYUKI!!』。

 公演は、この5つの物語のうち3つの物語と、研究員たちが発表する学会のオープニングとエンディングを組み合わせた内容で1演目として上演される。公演日によって組み合わせが変わり、客席もアリーナ舞台(舞台の周りに客席)で座る席によっても見える景色が変わり、何パターンもの変化を楽しめる内容となっている。

 演出は平野良、脚本の赤澤ムックが5人5色の濃密な歴史物語を描く。

「MITAKA“Next”Selection 24th」が9月1日スタート。今年は「劇団アンパサンド」と「排気口」の2劇団

2023.08.26 Vol.755

 三鷹市芸術文化センターの名物企画「MITAKA“Next”Selection」が今年で24回目を迎える。

 2000年代に出演した劇団を見回すと、猫のホテル、動物電気、ONEOR8、ポツドール、ままごと、サンプル、モダンスイマーズ…当時、新進気鋭といわれた若い劇団の名が並ぶ。今でも劇団として変わらぬ活動を続けている者たちがいれば、解散・活動休止し、それぞれがまた新しい劇団を作り活動を続けるといったケースも多く、この企画が日本の演劇界に与えた影響の大きさを感じざるを得ない。

 この企画はプロデューサー的な立場でかかわる三鷹市スポーツと文化財団の演劇企画員の森元隆樹氏が立ち上げたもので、出演する劇団については森元氏をはじめとしたスタッフたちが公演に足を運び、自らの目で見て、脚本や演出に優れていると思った劇団に声をかけ、出演してもらうというスタイル。

 そんな“目利き”たちが今年、送り出してくれるのが「劇団アンパサンド」と「排気口」の2劇団。

 劇団アンパサンドは2016年に作・演出を務める安藤奎が立ち上げた劇団。当初、構成員は安藤のみで公演の都度、俳優を集める形を取っていたのだが、2021年にはこれまでも多くの公演に出演していた俳優の菅原雪、深見由真が劇団員となった。コロナ禍で長く劇場公演を行えない時期には「渋谷コントセンター」で活動を続け、昨年は年3回の本公演を行った。

 安藤の作る作品は現代社会のスケッチの技巧と展開が予想できない独自の物語力が魅力。

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