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大阪で大阪の俳優たちと制作 庭劇団ペニノ『ダークマスター』

2017.01.22 Vol.683

 この『ダークマスター』は1995年にヤングチャンピオンという青年漫画誌に掲載された漫画を原作とする作品。

 舞台は超一流の腕を持つが偏屈な人間性と極度のアルコール中毒のため、全く客が来ないマスターが一人でやっている小さな洋食屋。そこにある日、一人の若者が東京から客としてやってくる。マスターは「自分の代わりにここのシェフになれ」と提案するが、若者に料理人の経験はない。マスターは若者にイヤホン型の小型無線機を渡し、自分は二階に隠れ、無線を使って若者に料理の手順を伝えるというのだが…。

 かつて2003年に駅前劇場、2006年にこまばアゴラ劇場で上演されたこの作品。今回は3年間に渡り、タニノが大阪に足を運び、大阪の俳優とワークショップを重ねて制作。物語の舞台も大阪に変え、大幅に脚本も書き換えて昨年5月に大阪で上演した。

 もともとこの作品に「資本主義社会の支配/被支配体系をユニークに表現した作品」という印象を持っていたタニノ。この3年間の大阪は橋下徹大阪市長が活躍するなど激動の時期。そんな世相が作品にどのような影響を与えたのかといった点も注目して見てみたい作品。

2020年を控えた今の東京に微妙にシンクロ シアターコクーン・オンレパートリー2017+キューブ20th,2017『陥没』

2017.01.22 Vol.683

 Bunkamuraシアターコクーンで2009年に『東京月光魔曲』、2010年に『黴菌』と昭和の東京をモチーフとした作品を発表し、「昭和三部作」を目指したケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)。なにしろ多忙の身とあって7年の月日が経ってしまったが、このたび待望の完結編となる3作目が上演されることとなった。

 第一弾では昭和初期、第二弾は昭和中期ときて、今回は昭和の東京オリンピックを目前に控えた時代が舞台。

 敗戦からわずかな年月で復活を遂げた日本にとって、東京オリンピックはその輝かしい成果を世界に示す晴れの舞台だった。スポーツ競技とは別のところで道路、さまざまな施設やビルの建設、新幹線など発展していく街の様子を誇らしく眺め、これを機に一攫千金をもくろみ、成功した者もいた。しかしその一方で、その時代、その場所に居合わせながら時流に乗り遅れた者たちもいた。この作品はそんなオリンピックとの因縁に翻弄される人々を描いた群像劇。

 2020年のオリンピックまであと3年となり、何かと騒がしい現在の東京。物語と現在が微妙にシンクロしなにやら妙な気分になりそう。

「空気を読む」の正体に迫る 二兎社公演41『ザ・空気』

2017.01.08 Vol.682

 2014年に森鴎外をモチーフとした『鴎外の怪談』、2016年は女流作家・樋口一葉の生涯を描いた『書く女』と明治期を舞台とした作品が続いた二兎社だが、今回は日本の「今」を描く現代劇。それもテレビ局の報道現場というメディアの最前線で、実際に起こっているであろう問題を題材に、昨今の日本全体を覆う「空気を読む」という独特の現象の正体に迫る。

 舞台はある大手テレビ局の報道局の一角。その日の夜、局の人気報道番組で、ある特集が放送される予定だった。近頃では珍しい力の入った「調査報道」。デリケートな内容とあって、局内でも慎重に扱われてきた案件なのだが、放送数時間前になって局の上層部から突然の内容変更を命じられ、現場は大混乱に陥るのだった。
 テレビの報道現場という見知ってはいるが身近ではない場所を舞台に喜劇のスタイルで描くことで、観客には俯瞰した状態でこの現象の正体が提示される。ただそれは“向こう側”だけのことではなく、我々自身のことでもある。

 笑った後に「う?ん」とちょっと考えさせられる作品だ。

寺山の不朽の名作が新宿FACEによみがえる Project Nyx『時代はサーカスの象にのって』

2017.01.08 Vol.682

 新宿梁山泊の水嶋カンナが主宰するProject Nyxは演劇の枠を越え、音楽、舞踏、アートといったさまざまなジャンルのアーティストと融合し、不朽の名作、知られざる傑作といわれる作品を現代のパフォーマンスとしてよみがえらせる。

 本作は寺山修司がアメリカのロックミュージカル『ヘアー』をもとにベトナム戦争の時代をアイロニーたっぷりに描いた音楽劇。「ロックアンダーグラウンド爆裂シリーズ」と銘打つシリーズの第2弾で、前回同様、ロックバンドSHAKALABBITSが登場。寺山修司の詩で楽曲を作り、演奏する。

 また今回はさまざまな格闘技も開催される新宿FACEにリングを持ち込んでの公演。プレミアムリングサイドシートというリングサイドでの特別席も用意されている。果たしてどんな“見せ方”をしてくれるのかというのも気になるところ。

 アフタートークや宇野亞喜良舞台美術の閲覧ツアーなどさまざまな企画も用意されている。

せめてもの救いは当日券は毎回出ること「NODA・MAP第21回公演『足跡姫』〜時代錯誤冬幽霊(ときあやまってふゆのゆうれい)〜」

2016.12.25 Vol.681

 1年ぶりのNODA・MAPの新作公演。今回は江戸時代を舞台に、「肉体を使う芸術、残ることのない形態の芸術」について描く。

 これは野田秀樹にとって盟友ともいうべく十八代目中村勘三郎へのオマージュとなる作品。
 勘三郎は2012年12月に57歳の若さでこの世を去った。野田は、その葬式の弔辞で坂東三津五郎が語った「肉体の芸術ってつらいね、死んだら何も残らないんだものな」という言葉が脳裏から離れず、いつかそんな話を書いてみたいと思っていたという。

 キャストも宮沢りえ、妻夫木聡、古田新太という最近のNODA・MAPでは主役級の働きを見せる3人を一挙に投入。そして佐藤隆太、鈴木杏というNODA・MAP初出演の2人、実力派の池谷のぶえ、歌舞伎界からは、野田版歌舞伎で、勘三郎、野田との創作を共にしたことのある中村扇雀と“勘三郎へのオマージュ”というテーマを全うするにふさわしい強力な布陣となった。

 例のごとく物語が進むうちに、いろいろと気づかされることになるのだろうが、『足跡姫』というタイトルもそうだし、時代錯誤? 幽霊?と今回はいつも以上に想像力を刺激される言葉が並んでいる。

 

せめてもの救いは当日券は毎回出ること「Parco Produce ミュージカル『キャバレー』」

2016.12.24 Vol.681

 本作は1966年の初演以来、世界中で繰り返し上演されているミュージカルの傑作。1972年にはライザ・ミネリとジョエル・グレイの主演で映画化され、アカデミー賞を8部門で獲得するなど、世界的な人気を誇る作品となった。こちらもミュージカル映画といえばだいたい名前があがる作品なので、映画で知っている人も多いかもしれない。

 日本では1982年に初演。松尾スズキが2007年に演出を手掛け、今回は10年ぶりの再演となる。
 物語はヒトラー政権の台頭へと向かう時代を背景に、ベルリンのキャバレー「キット・カット・クラブ」のデカダンなショーと歌姫サリーをはじめとする人々の恋物語を絶妙な構成で描く。
 サリーを演じる長澤まさみは「女優としての新たな一歩を」ということでミュージカルに初挑戦。クラブのMC役の石丸幹二、サリーの恋の相手に小池徹平、ナチスに運命を翻弄される下宿屋の女主人を秋山菜津子が演じるなど豪華なキャストが揃った。

 

3年ぶり待望の再演 青年団国際演劇交流プロジェクト2016『愛のおわり』

2016.12.11 Vol.680

 平田オリザが芸術監督を務めるこまばアゴラ劇場とフランスの劇作家・演出家パスカル・ランベールが芸術監督を務めるジュヌヴィリエ国立演劇センターは2007年にランベールの『愛のはじまり』日本版を上演以来、緊密な交流を続けている。

 今回上演する『愛のおわり』は2011年のアヴィニヨン演劇祭で大ヒットし、2012年のフランス劇文学賞大賞、2013年のフランス演劇賞の主演女優賞および戯曲賞を受賞するなど、大きな話題を集めた作品。

 フランス国内外で、各言語バージョンも含め多く上演され、日本では2013年に初演された。

 その日本初演から今回は平田が積極的に台本作成や演出に関与。「日本版」ともいえる『愛のおわり』が完成した。

 キャストも初演同様、兵頭公美と太田宏。

 物語は男優と女優が稽古場で別れ話をするというものなのだが「なぜ2人は別れたほうがいいか」ということを前半は男が一方的に、後半はその逆に女が一方的に語っていく。

 初演時は見る者のそのとき置かれていた状況やメンタルによってずいぶんと感想や印象が違うとされた。続けて見た人に改めて感想を聞いてみるのも面白そうな作品だ。

【日時】12月22日(木)?28日(水)(開演は月火木19時、水金土日14時。開場は開演20分前。当日券は開演40分前)【会場】こまばアゴラ劇場(駒場東大前)【料金】日時指定・全席自由席・整理番号付 前売・予約・当日ともに一般3000円、学生2000円【問い合わせ】青年団(TEL:03-3469-9107=12?20時 [HP] http://www.seinendan.org/ )【作】パスカル・ランベール【翻訳】平野暁人【日本語監修】平田オリザ【共同演出】パスカル・ランベール、平田オリザ【出演】兵藤公美、太田宏

そうそう見られない企画 ハイバイ『ワレワレのモロモロ東京編』

2016.11.27 Vol.679

 今回の公演は「俳優が自分の身に起きたことを書き、演じる」という異色番外公演。

 ハイバイはもともと主宰の岩井秀人が「自分がひどい目にあったこと」を中心に取材し、現実に起こっている「面白ひどいこと」を主な題材として作品を作ってきた。いわば「私小説」ならぬ「私演劇」。

 ドラマは日常に転がっている、とはよく言うが、まさにそれを実際に行ってきたのが岩井の作品。

 ゆえに題材は「ひきこもり」「家族」「夫婦」「不倫」など現実の社会問題とリンクするものが多かった。

 そして岩井は2011年から全国の高校・大学・公共ホールなどで参加者が「自分で書いて、演じる」というワークショップを行い、そこで何本か作品を作ってきた。

 本作はそのワークショップを起とし、俳優たちが実際に自分の身に起きたことを出し合い、それを岩井が構成・演出し一本の作品に仕上げたもの。

 演劇というフィルターを通した時に、悲劇が喜劇に代わる時もあれば、その逆もしかり。演劇のダイナミックさを体験できる作品となりそうだ。

 すでに前売り券は完売なのだが、当日券は毎回必ず出すとのことなので、ぜひチャレンジしたい。
 15、16日には岩井のアフタートークもある。

ハイバイ『ワレワレのモロモロ東京編』
【日時】12月10日(土)?23日(金・祝)(開演は19時。17日(土)は14時の回あり。18日(日)と23日(金)は14時開演。月曜休演。開場は開演20分前。受付開始は開演40分前)【会場】アトリエヘリコプター(五反田)【料金】整理番号付自由席 前半割(10?16日)前売・当日共3300円/一般(17?23日)前売・当日共3800円、学生:前売・当日共2800円(受付にて要証明)【問い合わせ】ハイバイ(TEL:080-6562-4520 =10?20時 [HP] http://hi-bye.net/ )【構成・演出】岩井秀人【出演】荒川良々、池田亮、岩井秀人、上田遥、川面千晶、永井若葉、長友郁真、平原テツ、師岡広明

橋本愛の舞台初出演作、月刊「根本宗子」『夢と希望の先』前売り完売、追加公演決定

2016.09.12 Vol.674

 橋本愛の舞台初出演作となる月刊「根本宗子」第13号『夢と希望の先』(東京・下北沢本多劇場、9月28日~10月2日)の前売り券が全ステージ完売し、29日(木)14時開演で追加公演を行うことが決まった。
 チケットは各プレイガイドにて9月16日(金)10時より発売開始となる。

SPECIAL INTERVIEW 根本宗子 × 橋本愛

2016.09.12 Vol.674

 最近では演劇という枠を越えて活躍中の根本宗子が主宰する月刊「根本宗子」が『夢と希望の先』でついに本多劇場に進出する。本格的な稽古の始まる直前、本作で舞台初出演となる橋本愛と根本の対談が実現した。

コメディーなんだけど家族についてちょっと考えさせられる 舞台『家族の基礎〜大道寺家の人々〜』上演中

2016.09.09 Vol.674

 

 松重豊と鈴木京香が夫婦役で舞台初共演を果たした舞台『家族の基礎〜大道寺家の人々〜』が現在、渋谷のBunkamura シアターコクーンで上演中。

 本作はNHKのコント番組「LIFE!」の脚本、人気シリーズの舞台「鎌塚氏シリーズ」などを手掛ける脚本家で演出家の倉持裕が初のコクーン公演にあたり書き下ろしたもの。波乱万丈な運命をたどる風変わりな一家・大道寺家の人々の挫折と再生を軽妙なタッチで描く。

 夫婦の長女に夏帆、長男に舞台初出演となる林遣都、一家に長くかかわっていく大衆劇団の座長に六角精児と、豪華で芸達者なメンバーが揃った。

 劇中の回想シーンでの松重の半ズボン姿が話題を集めるなど、コメディー要素は多いのだが、物語が進むにつれ家族のあり方や家族の絆といったシリアスなことにもついつい考えを巡らすことになる。

 松重が初日前の会見で「この稽古の間に、鈴木京香さんと“疑似家族”を作りあげられた過程が幸せでたまらなかった。鈴木京香さんという女優さんというよりも、人間を、僕は本当に好きになりました」と語れば、鈴木は「松重さんは優しくて、穏やかで、とにかく全員に目を配ってくださっていた。おんぶに抱っこされたい、みたいな。頼り切ってしまいたい思いだった。頼もしく思っています」と返す。このやり取りが後から思い返されるような作品となっている。

 渋谷のBunkamura シアターコクーンで28日まで上演。その後、愛知、大阪、静岡でも上演される。

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