美人ママファイター 石岡沙織【ジョシカク美女図鑑 第2回】

「今年1年は私にとっても子供にとってもとても大切な1年になる」

 昨今、注目度が一気に上がっている女子格闘技(ジョシカク)のファイターに迫るインタビュー企画「ジョシカク美女図鑑」。第2回目の今回はRIZIN、DEEP JEWELSを主戦場に戦う美人ママファイター、石岡沙織にインタビュー。

(撮影・蔦野裕)

「空手の“武”の修行というものは、心の鍛錬も含めていくつになってもできるもの」
 石岡は「RIZIN.11」(7月29日、埼玉・さいたまスーパーアリーナ)で山本美憂と対戦。山本はレスリングの元全日本王者であり、山本ファミリーの長女として長くレスリング界では名をはせた存在。言わずと知れた格闘家・山本“KID”徳郁の姉でもある。まず対戦相手の印象は?

「レスリングの世界で王者になったようなトップアスリート。フィジカルもそうですがキャリアも大先輩。尊敬する選手ですので、しっかり対策を怠らないようにしたい。総合格闘技(MMA)のキャリアは自分のほうがあるんですが、だからといって油断をしてはいけない相手だと思っています」

 山本は2016年に総合格闘家に転向した。そのころから意識などは?

「当時はまだ全然、対戦することになるとは考えてもいなかったです。あの時は“すごい選手が参戦してきたなあ”という感じでした(笑)。RENA選手がMMAに参戦した時からなんですが、これで女子格闘技がもっと盛り上がって、取り上げてもえるようになるかなっていう思いはありました」

 石岡は昨年夏、主戦場とするDEEP JEWELSで「RIZIN女子スーパーアトム級トーナメント」の出場権をかけて浅倉カンナと対戦。惜しくも敗れ、それ以来の試合となる。

「ケガもあって間隔が空いてしまいました。以前はアマチュアの試合も含めて1カ月に2~3試合やったこともありました。試合をしまくって、その中で強くなるという時期もあったんですが、もうそういう時期は過ぎたと思っていて、今回は練習の中でしっかりと実力を蓄えてきました!」

 負けて、試合間隔が空く。この間、どんなことを考えて過ごしていた?

「原点に戻って、ただ強くなるということを考えていました。試合が決まると相手に勝つための練習になるんですが、そういうものではなく、ただ自分を強くするための練習をしていました」

 悔しさとか後悔なんかがずっと渦巻いていたりということは?

「そういうのは最初だけ。あの時にああすれば良かった、こうすればよかったというのは、だんだん練習の中で消化されていきます。今度の対戦相手の美憂選手も浅倉選手と同じサウスポーの似たタイプなので、前回出せなかったことや反省したことがしっかり生かせる試合だと思っています」

 2007年にプロデビューして、MMAではもう26戦のキャリアを持つ。長く格闘技をやってきたなかで、今、急激に女子格闘技の人気が高まってきた。率直に今の状況をどう思う?

「とてもありがたいと思っています。私はずっと女子格闘技を有名にしたくてやってきました。自分がその役目を果たしたかったんですが、大事なところで負けたり、勝ち切れなかったりといった心の弱い部分が出てしまったりしてできなかったんです。なので、他の選手が出てきて代わりに盛り上げてくれて本当にうれしいし、自分もその波に乗れることをうれしく思っています」

 そもそもなぜ格闘技を?

「きっかけは単純で、そこにジムがあったから。ストレス発散とか何か運動をしたいなと思っていたら会社の近くにたまたまジムがあった。もともと部活で柔道をやっていて、就職を機にやめていたんですが、始めるなら同じ“道”がつくスポーツがいいな、ということで、空手道」

“道”が付くスポーツがいいなという発想を聞くと、もともと格闘技向きの性格だった?

「そうかもしれませんね(笑)。どうせなら自分がずっとやってきたものを生かしていきたいなという思いもありましたし、もう自分の一部にもなっていたので、続けていきたいなって思ったんです」

 ファイターって気が強くないと務まらないと思うが…。

「まあ…強いと思います(笑)。でも学生のころはあまりそうでもなかった気がします。むしろ心の弱さをどうにかしたいという感じでした。どうしても隠し切れずに心の弱さが出てしまう。修行ですね、人生は……。でも空手は生涯スポーツとしてずっと続けていけるので、すごくいいなと思っているんです。総合格闘技の選手というのは50代60代になってはできないと思うんですが、空手の“武”の修行というものは、心の鍛錬も含めていくつになってもできるもの。そういうものに出会えたのはうれしいこと。なので、今は現役であることを“やり切る”ということはすごく大事なんじゃないかなって思っています。そこをやり切らずに辞めちゃったり、自分の中で消化しないまま終わっちゃうと、それを引きずったまま生涯の修行をしていかないといけない。そう思うと、今は自分の中でちゃんとやり切りたいなという思いでやっています」

 まだまだ引退という年齢ではないですよね。

「いえ、毎試合瀬戸際です。負けたらやはり“もう駄目だ”ってなるし、“この一戦で終わってもいい”という気持ちで毎試合臨んでいます」

昨年4月のRIZIN初参戦ではベスターレ・キシャーに1R2分11秒、スリーパーホールドで見事な一本勝ち(©RIZIN FF)

「子供に寂しい思いをさせていることに対して罪悪感を感じる日もあるんです」
 石岡は2012年に結婚し、男児を一人もうけている。そして現在は長野県上田市で、所属する空手道禅道会の常磐城道場で道場長を務めている。子育てもある中での生活パターンは?

「基本的には息子が保育園に行ってくれている間の午前中に自分の練習や務めているスポーツネットワークSAMというスポーツジムでフィットネスのインストラクターなどをやっています。それから保育園に子供を迎えに行って、一緒に空手の道場に指導に行っています」

 子供を連れて道場に?

「空手を一緒にやっているので(笑)。夜は自分の練習ができる日は練習をやります。その時は息子は道場の事務所でDVDを見たりゲームをやったりして待ってくれているんですが、やっぱり寂しい思いをさせていることには変わりないので、次の日はちゃんと遊んであげたりしています。来年、息子は小学生になるんですが、そうなると生活パターンがちょっと変わってくると思います。それに合わせて、自分が選手を続けていけるのかということを考えるタイミングになってくると思うんです。子供にとっても保育園最後の1年。だから今年1年は私にとっても子供にとっても、とても大切な1年になると思うんです。だから自分の中でも“しっかりやり切らなきゃ”という思いがあります」

 石岡は広島出身で東京に4年ほどいて、それから長野に。いま、長野での練習環境は? ハンディなどは感じる?

「昔からそんなに女子選手と練習をしていたわけではないので、ハンディのようなものは感じたことはありません。ただ、道場に若い選手が入ってこないなということは感じています。これは長野だからというわけではなくて、全体的に今の若い子たちが草食系といったら変ですけど(笑)、そんな感じなのかもしれないです。イケイケなのはマスターズ(笑)。やっぱり強さを求める世代というか、40代~50代の人たちはイケイケバチバチで強いですね。道場では軽量級の高校生の男の子と練習をすることも多いんですが、やっぱり高校生は生きがいいです(笑)。1週間で強くなる子もいて、成長具合がやはり違うなって思います。“すごいな。この野郎!”って感じです(笑)。こちらも負けたくないから完膚なきまでにやるんですが、女性にやられてしまって心が折れる子もいます。一方で、女性に負けたくないという気持ちを持って、空手を続けて残ってくれた子たちはすごく強くなりますよね。やはりプライドを一度折られるわけじゃないですか。それでも強くなりたいという思いを持っていれば、やはり一気に成長しますよね」

 選手を引退してからも指導者として格闘技と関わっていく?

「ずっと武の道には携わっていきたいと思っています。指導者として、選手の育成と人間の育成の両方をやっていきたい。そのためにはやり切ること、自分の中で完遂することはすごく大事だと思っています。子供に教える時もそうなんですが、やっぱりやりたくなくなる時ってあるじゃないですか。その時に辞めちゃうのか、それとも自分の目標、例えば6年生までやるとか黒帯までやるという目標まで続けることができるのかということで、今後の人生って変わってくると思うんです。試合の勝敗は置いておいて、そういうことを教えられる人になりたいと思っています」

 結婚して人生が変わった?

「それは変わりますよ(笑)。でも自分の場合は同業者なので、理解をしてくれる部分が多いのは助かっています。“今日指導してくるから、家のことはよろしく”みたいなことができるのはありがたいと思います。もちろん同業者ゆえの大変さもありますけど、自分の場合は同業の方と出会えたことはすごく良かったです」

 では子供が生まれて人生が変わったことは?

「変わりますね。子供にとって私はたった一人のお母さんなので、寂しい思いをさせていることに対して罪悪感を感じる日もあるんです。そんな思いをさせてまで自分は何をやっているんだろうって。負けたり練習でくたくたになった時なんかは、“こんなことよりも一緒にいてあげることのほうが大事なんじゃないかな”とか思う時もあるんですけど、“自分が頑張っている姿を見せることも大事なんじゃないかな”って切り替えることにしています(笑)。 “共に戦っていこう”というスタイルで(笑)。でも子供が我慢してくれているお陰でこの2時間の練習時間が取れていると思うと“やり切らないと”という思いで集中して練習ができるようになったかなと思います」

 練習もそうだが、人生の密度が濃くなっているように聞こえます。

「子供には感謝しています。でも、夜遅くまで練習して疲れて帰ってきても子供は寂しい思いをしていたから寝ないんですよね(笑)。そこで“早く寝なさい!”みたいに怒っちゃうことも時々あって。そこには罪悪感というか、申し訳ないなって思いがあるんですが、そういうことの繰り返し。そこに葛藤はあるんですけど…うん…」

 夫婦2人とも格闘家だと息子さんもそういう感じに?

「全然そうじゃないんですよね。ホントに文系。お絵描きや勉強が好きみたい。“一緒に野球とかサッカーをしようよ”って言ったら、“絵を描いているからいい”って言われますもん(笑)。3歳の時に“ちょっと英語の勉強がしたい”って言いだして、“えーっ? そんな話、どこで聞いてきた? テレビで見た?”って感じです(笑)」

5月29日に行われたカード発表会見で。石岡(右)は山本美憂と対戦する

会見では「私たちにしかできない試合をして、ママさんたちに勇気を与えたい」
 石岡沙織vs山本美憂の一戦はママファイター同士の戦いとなる。石岡は5月29日に行われたカード発表会見では「“ママファイター”同士の闘いができて大変うれしい。私たちにしかできない試合をして、ママさんたちに勇気を与えたい」と話した。美人ママ同士の対戦ということで注目を集めるが、会見では名前こそ出さなかったが、石岡にとっては勝てば今後への可能性が大きく広がる重要な一戦でもある。その一方で、またまだまだ老け込む年齢ではないのだが、石岡の場合はインタビュー中にも語った通り、子供の成長による生活パターンの変化が現役生活に大きな影響を及ぼすことになりそう。これからの1試合1試合は石岡にとってもファンにとってもとても大切なものになる。(TOKYO HEADLINE  本吉英人)