長島昭久のリアリズム 第九回

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「海洋国家日本」の外交・安全保障戦略(その6)

 もちろん、このような中国による「アクセス拒否能力」の拡大を前に、米国が拱手傍観しているわけでは毛頭ない。この憂慮すべき将来見通しに立って、約10年に及ぶ中東でのテロとの戦いで疲弊した米軍を立て直し、アジア太平洋・ピヴォット(基軸)を改めて鮮明にした米国防戦略指針を年初に発表。一昨年2月に公表された「4年ごとの国防政策の見直し」(QDR)で、打ち出した新たな構想「エア・シー・バトル・コンセプト」(Air-Sea Battle Concept)をアップデートした。空と海における新たな統合作戦によって、中国が保有しつつある多様で大規模な「アクセス拒否能力」を無力化してしまおうという戦略だ。すなわち、米本国から長躯投入される米軍のパワー・プロジェクション(戦力投射)能力を再構築するもので、とくに「アクセス拒否」能力の前に脆弱な前方展開基地を「地理的に分散させ、作戦上の抗堪性を確保し、政治的に持続可能な」(2012年米国防戦略指針)ものにつくり変えて行こうというものだ。

 我が国の安全保障を考えるとき、当然のことながら米国の新戦略といかに連動して行くべきかが鋭く問われることになる。我々がこの努力を怠れば、まさしく孫子の教える「上兵は謀を伐つ。其の次は交を伐つ。次は兵を伐つ。其の下は城を攻む」の正しさを自ら証明してしまうことになりかねない。すなわち、近年中国が仕掛ける「三戦」(輿論戦、法律戦、心理戦)によって幻惑され(つまり、謀を伐たれ)た上に、劉華清の海洋強国戦略によって米国のパワー・プロジェクション戦力が寸断され(つまり、兵を伐たれ)、有事に米軍の来援が遅れたり断念されたりするような事態に直面した場合、同盟国たる日本や台湾で米国に対する不信や猜疑が巻き起こることは避け難く、やがて同盟関係は分断され(つまり、交を伐たれ)てしまうに違いない。これを避ける唯一の道は、米国のこの地域へのコミットメントを意思と能力の両面で確保すること。そのためには、我が国自身による国防と外交の両面にわたる特段の自助努力が死命を制することを決して忘れてはならない。

 そこで、次回最終回にあたり、本テーマである「海洋国家日本の安全保障戦略」の結論として、第一に、日本独自の努力について。第二に、日米同盟の深化に向けた課題。そして、第三に、すべての安全保障努力の前提として力を注ぐべき国際社会との外交的協調の在り方について考えてみたい。

内閣総理大臣補佐官(外交・安全保障担当) 衆議院議員 長島昭久