岩井秀人 岸田戯曲賞受賞でも「変わらない気がします」

祝 岸田戯曲賞受賞

 演劇界において新人劇作家の登竜門的な性格を持ち、「演劇界の芥川賞」ともいわれる『岸田國士戯曲賞』の受賞者が15日、発表された。第57回となる今年は赤堀雅秋『一丁目ぞめき』と岩井秀人『ある女』の2作品が選ばれた。現在、俳優として本多劇場で上演中のG2produce最終公演『デキルカギリ』に出演中の岩井に早速インタビューした。

 同賞の過去の受賞者を見ると、そうそうたる顔ぶれが並ぶ。古くは井上ひさし、つかこうへいといったところから、野田秀樹、岩松了、宮沢章夫…。最近では松尾スズキ、宮藤官九郎。このへんの名前を聞けばふだん演劇を見ない人でもこの受賞がどれほどのものか分かってもらえるかもしれない。

 実際のところ、このインタビューは受賞の翌日、16日の夜の稽古後に行った。まだ審査員の詳細な劇評が届く前。ただ速報的に選考委員の岡田利規と松尾スズキのコメントが流されていた。

「松尾さんの作品はお芝居も見ているし、エッセイなどの本もたくさん読んでいて、異常なくらい面白いことを考える人だなって思っているので、そんな松尾さんに“1ページに1回以上おもしろい”というコメントを書いていただけたというのは、僕にとっては受賞自体よりインパクトがありました。松尾さんの作品は、面白さにプラスしてある種の悲惨さも描いているんですが、僕は“悲惨なのに笑える”というのはものすごく価値のある面白さだと思っているんです。それをコンスタントに出せる人に思ってもみなかったことを言われたのでびっくりしました」
 受賞作の『ある女』は「不倫している女性たちの体験談」を一人の女の物語として集約させた作品。

「面白いものができたなっていう手応えはありました。笑わせることと悲惨な話のバランスがちょうど良かったという記憶はあります」

 岸田戯曲賞はその年に発表された多くの戯曲の中から、最終選考に8作品ほどが残る。それを審査員が読み、それぞれ意見をぶつけ合って選出する。昨年は審査員が大幅に入れ替わったこともあり、30年ぶりの3作受賞だった。岩井は今回、初ノミネートでの受賞となった。

「僕はそういうのを期待したり、いろいろ心配したりする時間がホントに無駄だと思っているので、なるべく忘れるようにしていました。当日も忘れているくらいがいいなと思っていて、なにもチェックしてなかったんですが、会う人会う人に“2月15日なんですよね”って言われて、結局自分の中にインプットされてしまっていましたね」

 岩井は昨春には映像のほうで、NHK BSで放送された『生むと生まれるそれからのこと』という作品で『第30回向田邦子賞受賞』も受賞している。

「向田邦子賞もいただいたんですが、賞とかいうタイプじゃないだろうなという気持ちは自分でもありました。賞というものがよく分からないというか…。みんながおもしろがるという価値以外、僕には分からないので」

 岩井が主宰するハイバイという劇団は再演が多い。いわば再演を重ねて作品を熟成していくタイプで、さほど新作を量産するタイプではない。

「あまり意識はしていなかったんですが、以前、オリザさんに“年に1本は書いておいたほうがいい”って言われたんですね」

 オリザさんとは青年団という劇団を主宰する平田オリザ。岩井は青年団の演出部にも所属している。

「松井(周)くんも柴(幸男)くんも取っているし、岩井くんも絶対取れるからって。セリフのこともよく褒めていただいていて。年に1本書いておけば可能性が生まれるのに書かないのはもったいないって言われて、ああそうかもなって」

 最近は外部からの脚本の依頼も増えている。現在TBSで放送中の深夜ドラマ『終電バイバイ』の脚本も担当。今回の稽古中も別の脚本の締切を抱えている。

「これからは自分の好きなことができるぞって思ったんですが、よく考えたら今までもそうだったんで(笑)、賞をもらって何か変わるかなって考えたんですが、あんまり変わらない気がします」

 作家としての話に終始してしまったが、岩井は俳優としても評価が高い。昨年は映画『桐島、部活やめるってよ』では演劇部の顧問役で存在感のある演技を見せれば、テレビのバラエティー番組では完全アドリブで迫真の演技を見せ、周囲を驚かせた。3月3日まで本多劇場での舞台に出演中なので、ぜひこちらもチェックしておきたい。

 ちなみに授賞式では受賞者が何か余興のようなものをやる慣例があるみたいですが。
「そうらしいですね。やらなくていい方向にできませんかね(笑)」
(本紙・本吉英人)

次回、岩井秀人さん公演 
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