黒谷友香 映画「夢二〜愛のとばしり」で竹久夢二の妻を熱演

 大正ロマンを代表する画家で、数多くの美人画を残している竹久夢二の真実を描いた「夢二〜愛のとばしり」が公開される。主人公・竹久夢二を演じるのは「半沢直樹」など数々のドラマで注目を集める駿河太郎。美人画のモデルとなる妻・たまきを黒谷友香が演じる。作品を通して黒谷が感じた夢二とたまきの関係とは。

衣装:トップス、スカート、ネックレス/MOGA 撮影・蔦野裕

 竹久夢二といえば美人画が有名で、多くの作品を残しているが、それ以外にも本の挿絵、装丁、広告宣伝、日用品などのデザインも手がける、現在でいうグラフィック・デザイナーでもあった。

「夢二の作品は知っていましたが、その人生については何にも知りませんでした。映画に出演するにあたり、調べてみたら、いろいろな方と交際があり、波乱にとんだ人生を送っていたということが分かり、すごく意外な感じでした。当時は珍しい広告やグラフィック・デザインなどを手掛け、最先端の職業をされていて、才能にもめぐまれている。私が演じた妻のたまきも、そんなところに魅かれたんだと思います。ただ絵のモデルとしてだけではなく、自分を生かしてくれたのが夢二で、それにより彼女自身も自分をもっと開花させる事ができたんじゃないでしょうか。美しさを形にし、それを商品にすることで、彼女の世界を広げていく。逆にいうと夢二との出会いにより、平凡じゃない人生を送る事になったといえるかも知れませんが。普通の女性としての幸せはもらえなかったけど、何かひとつの世界を一緒に作る共同製作者としては幸せだったと思います。それゆえに、老いて枯れていく自分を意識し過ぎてあまり幸せじゃない人生になってしまった。最先端のクリエイターに認められていたはずの自分が、そういう部分で必要とされていないと感じるのは、耐えられなかったのかなと。そこから身を引いて、子どもを育てて暮らしていくという道もあったにも関わらず、そうはできなった。そのことがたまきと夢二の関係を崩壊させていく、きっかけになってしまう。終わってみれば、どこか同志のような腐れ縁でつながっていた部分はあったと思うのですが、別れる時は憎しみや不信感などに押しつぶされて、自分自身を精神的に追い詰めてしまったのではと感じました」

 衣装や髪形でも夢二の世界観を表現

「夢二の絵を参考にしているので、着物などの色彩も素敵です。ポスターなどにもなっている夢二の作品自体がすごくモダンで、今見てもとてもかわいい柄だったりするので、着物が好きな女性は、そんなところにも注目していただければ。髪形もすごく大変だったんです。カツラではなく、地毛でやっていたので、頭の中にあんこをいっぱい入れて大きくしていました。髪形も夢二の絵や当時の写真からヘアメイクさんがイメージして作っているので、大変だったと思います。たまきはおしゃれな人だったので、お店に出て働いている時は髪形も小さく、おしゃれをして出かける時は大きくなど、そういう細かい部分も再現しています。衣装や髪形のほか、多方面からスタッフさんが、夢二の世界観を大切に表現しようとして下さっていることを現場でも感じていましたし、出来上がった作品を見ても強く感じました」

 黒谷演じるたまきと暮らしながら、目の前に現れた運命の女性・彦乃に魅かれている夢二。

「夢二はとてもモテる人でしたし、彦乃に魅かれる気持ちも分からなくはない。だからどこかで仕方がない事だというのは分かっているんですけど、それでも私は夢二と一緒にひとつの世界を作ったんだというプライドがある。一緒に竹久夢二という人を作り上げたという揺らがない部分もあるので、最初はちょっと余裕すらあったと思うんですね。彦乃という存在で創作意欲がわくならいいわみたいな。ただ、それまでモデルとして表舞台にいたのに、いきなり裏にまわれと言われてもそうはなれない。徐々にだったらいいんですけど、たまきが気持ち的に了承していないまま2人の関係が進んじゃって…。しかも自分はモデルとして活躍していた頃に比べると老いてしまっているという現実も同時に突き付けられ、どうしていいか分からなくなってしまうという葛藤はすごくあったと思います」

 夢二との関係が崩壊し、決別するに至ることを表す印象的な場面がある。

「海辺で夢二にしつこく殴りかかったり、上に乗っかったりするシーンが結構長くあるんですけど、そこは逃げたい夢二と追いかけたいたまきの葛藤を描いていて、決定的に2人が決別するという象徴的なシーンでもあります。完成した映像でも結構長くやっていますが、撮影はもっともっと長く回していた。多分、そこでこの2人はもうないなという感じに見えなきゃいけなかったので、監督さんが長く撮っていたと思うんですけど、すごく引いて撮っているんです。夜の海辺ですし、何をやっているのか見えないぐらい引きで撮っていて、そういう作り方も新鮮でした」

 作品しか知らない人には夢二の意外な素顔が見られる。

「夢二の孤独、アーティスト、美術家としての苦悩、男としての闇が描かれていて、作品しか見たことがない人は、意外な素顔に驚かれるかも知れません。実際、私自身も絵を見るなど、表面的なところから勉強して入ったので、その他の資料や脚本を読んで、こんなに葛藤にもまれ続けた人生だったんだと、とても驚きました。ですから夢二の絵の世界観のきれいな部分だけを期待して見られると、少し重い作品だと感じるかも…。しかし逆に、すごく人間としての魅力といいますか、そんなに自分たちとかけ離れた存在じゃないんだということを感じていただけると思います。共感するというか、人間っぽさを感じるというか。ですから、この作品を見る前と見た後では、夢二の絵を見た時に、違って見えるのではないでしょうか。ただ美しい女性の絵を描くというだけではなく、その創作の裏には、彼を支えた女性がいた。そしてその女性たちと彼の間にあったさまざまな決して美しくない出来事も、彼に美しい絵を描かせていたのだと思うと、作品を見る目も変わってくると思います。夢二ファン、美術ファンに楽しんでいただけれる作品だと思いますし、着物女子もぜひコーディネイトの参考にしていただければと思います」(THL・水野陽子)

©2015映画「夢二〜愛のとばしり」製作委員会

『夢二 〜愛のとばしり』
7月30日よりシネ・リーブル池袋ほか全国順次ロードショー
【出演】駿河太郎、小宮有沙、加藤雅也/黒谷友香ほか
【監督・脚本】宮野ケイジ【URL】 yumeji-ai.jp