HARASHIMA&男色ディーノ プロレスを通じた青春ドキュメント映画「俺たち文科系プロレスDDT」

SPECIAL INTERVIEW

今年の「東京国際映画祭」のレッドカーペットでひときわ異彩を放っていたのが『俺たち文化系プロレスDDT』の一団。そのレッドカーペットの直前に出演者である男色ディーノとHARASHIMAに話を聞いた。

(撮影・辰根東醐)

 最近、何度目かのプロレスブームが起きている。これまでとはちょっと違って、女性のファンが多く会場に足を運ぶようになった。そのなかでも今までの日本のプロレスにはなかったアプローチの仕方で大きな人気を博しているのがDDTだ。

 この映画は昨年夏に行われたDDTの両国大会で起こった“事件”をきっかけとした一連の出来事を描いたドキュメンタリー。DDTは毎年、夏に「総選挙」を実施している。この映画には2015年総選挙の時の映像もあるのだが、その時点で映画化が決まっていた?

ディーノ(以下デ)「いえ、映画化した後に知りました」
HARASHIMA(以下H)「ふだんから結構カメラを回されてることは多いんです」
デ「そう! ウチの強みは、映像班っていうものがあって、昔から何か事件があったときのために…」
H 「いつでもカメラを回せる状況になっているんです。よく、移動のバスでも回しているときがあります」

 完成した作品を見てどういう感想を?

H 「“こんなところも使われているんだ!?”という個所がたくさんありました。“よく撮っていてくれたな!”という感じ」
デ「私は松江監督との共作で良かった、って映画を見終わった瞬間、思ったの。多分マッスル坂井だけだと、ああいう構成になっていないはずなんですよ。この映画が始まってから終わるまでって、1試合が終わる20分前後の時間軸でしか動いていないんです。でもその20数分間のプロレスの1試合には1年、いやもっとよね、デビュー当時から含めると。それくらいのドラマが含まれている。映画では見せるべきドラマ性が大きいというか、詰め込むべきものが多かったから、たまたまあの試合に焦点をあてているだけで、1年の間に、ああいう試合はいっぱいある。私たちが普段こなしていることが、松江監督には新鮮に映ったんだろうな、と思いました」
H 「確かに。さすがだね」
デ「マッスル坂井だと、多分面白いところをどんどん足していっただろうけど、松江監督はその20分にこだわった。20分のなかに詰まっているものを分解していく作業としてのドキュメンタリーで、そこに詰め込んだというのは素晴らしいと思ったわ」

 映画の中で、すべてのきっかけとなったものとして、両国大会に出場した新日本プロレスの棚橋弘至選手がイラだって残したコメントがある。ああいうイラ立ちというのはレスラーからみると理解できる?

デ「“理解”だけでいうと一切できなかったわね」
H 「できないですね。僕は全くそれ(会見の様子)を知らなくて、後で知った。言ってしまえばこの映画で初めて見ましたから」
デ「だけど、まあ、言い方を変えると、あれがあったからあのドラマが生まれた部分はもちろんある。でも、それがいいか悪いかは別よ、もちろん。世の中って、いいことだけで回っているわけじゃない。仮に軽はずみに言ったことでも、それで問題が大きくなることも世の中にはもちろんあるわけで、あの瞬間はそれがプロレスなりの答えのひとつだったんでしょうね」

 ドキュメンタリー映画なので、あまりネタバレなことは言えないのだが、最後に大どんでん返しがある。

デ「あの試合はマッスルという興行の中での試合なんだけど、マッスルというのは坂井のものなの。だから、試合以外のものは全部、坂井に任せていたので、坂井しか知らないことのほうが多いの。それはもうあの興行だけではなくて過去にやっていたものを含めてね。私は“なにか企んでいるな”とは思っていましたけど、まさかああいう形でとは当然思ってなかったですよね」

 昔のディーノがすごい美少年。

デ「映画を見て一番の感想がね、私だけじゃなくって、“みんな細いな”っていうこと。年月っていうのは肉を積み重ねていくことなのね、って」

 主要人物である大家健も今のイメージとは全然違って新鮮だ。

デ「だから、いまの大家健を見ていると、“よくがんばっているな”と思うんです。大家はもともとはああいう奴じゃないの。本当にやばい奴なのよ。今ではいい面と悪い面をくっきりさせてるけど、昔はゴチャゴチャだったから、ただやばい奴だったの」
H 「今は彼のその“いいヤバさ”を伸ばしていて、それが受け入れられる世の中になっているよね」
デ「そうね。本当にそう。でもまあ、彼の浅はかな感じが、愚直で美しいのよね」
H 「彼は計算がない。生きざまが見えるんですよね。すべてにおいて」

「文化系プロレス」と聞いた時に「それなに?」って思う人もいると思うのだが。

デ「シンプルにいえば、“映画化できるプロレス団体”ってことね。映画って、モロ文化系でしょう。そういうことを普段からやっているの」
H 「体育会系のノリではないですよね。厳しい上下関係や不必要なしごきとか、そういう負の面はない。そしてみんなが“いいものを表現したい”という気持ちを持っている。そこは他とは違うと言い切れます」

 ディーノはかつて新日本プロレスの鬼軍曹と呼ばれた山本小鉄さんにそのファイトスタイルについて意見され、反論したという過去がある。

デ「あれはね、新日本プロレスさんは歴史もあって、規模も大きい。けれども、そうじゃないやり方でやってきた我々に対して、その規模、その歴史をそのまま押し付けられるのは “それは違うんじゃないか”と思ったの。結局、今回の映画はそこがスタートな気はしますね」

 インタビュー後のレッドカーペットでは大家が今成夢人にコブラツイストをかけるなど、プロレスをしっかりアピール。そしてディーノの右手にはこの日やむなく欠席となった坂井の化身とされるスーパー・ササダンゴ・マシンのマスクがあった。映画を見た後にこの場面を見るとより味わい深いものがあるので、よく覚えておいてほしいシーンだ。(THL・本吉英人)

「東京国際映画祭」でのひとこま(撮影・神谷渚)

「俺たち文科系プロレスDDT」
監督:マッスル坂井、松江哲明 出演:マッスル坂井、大家健、HARASHIMA、男色ディーノ、棚橋弘至、小松洋平/1時間14分/ライブ・ビューイング・ジャパン配給/11月26日(土)より新宿バルト9他、全国順次ロードショー  http://liveviewing.jp/obpw2016