【江戸瓦版的落語案内】首提灯(くびぢょうちん)

Rakugo guidance of TOKYOHEADLINE[ネタあらすじ編]

落語の中には、粗忽、ぼんやり、知ったかぶりなどどうしようもないけど、魅力的な人物が多数登場。そんなバカバカしくも、粋でいなせな落語の世界へご案内。「ネタあらすじ編」では、有名な古典落語のあらすじを紹介。文中、現代では使わない言葉や単語がある場合は、用語の解説も。

 増上寺周辺の芝山内、近頃追いはぎや辻斬りが毎日のように出没するという。そんな通りをこれから品川の廓に繰り込もうとしている町人が通りかかった。すでにいい具合にお酒が回り、酔っぱらってはいるが、人っ子一人いない真っ暗な道に差し掛かり、だんだん不安になってきた。「なんだかおそろしく寂しいところに出ちまったな。おや、芝の山内か? なんだか最近物騒な噂のある場所だよな…」それでも景気づけに「さあ出てこい辻斬り!」と大きな声を張り上げた。いわゆるから元気というやつ。

 すると「おい、町人」と突然声が。思わず飛び上がった町人だが、見ると背の高い田舎侍。安心したと同時に、脅かされた事に小さな怒りがわき上がる。「おじさん、何か用か?」「おのれ、武士に向かっておじさんとは、なんという口のきき方。…時に、麻布へはどう参るのか?」。ただの道聞きだという安心、田舎侍だから大したことはないという侮り、脅かされたむかっ腹、そして酔って大きくなった気の勢いで、「どこにでも勝手にいっちまえ、この丸太ん棒め。何を? 二本指しているのが見えないのかって? 二本差しが怖くて焼き豆腐食えるかってんだ。さあ斬りゃあがれ!」と悪態のつき放題。相手はただの酔っ払い、酒の上ならばと我慢していた侍だったが、紋服に痰を吐きかけられるに及ぶと顔色が変わり、堪忍袋の緒が切れた。刀の柄に手が掛かるや「えいっ!」。目にも止まらぬ早業で刀を鞘に納めると、謡曲を謡いながら去っていった。

 それでも町人、ますます意気軒高。千鳥足で、女郎のもとへ急ぐ。「あれ? 何だか変だよ。首がずれる。こりゃ、千鳥首だ。おっと、首が横を向いた」。首を正面に何度直してもだんだんとずれて横を向く。おかしいなと、首に手をやると血糊がベッタリ。「あッ、あの野郎、斬りゃあがったな」。達人の手練れの早業で痛くも痒くもなかったから気がつかなかったが、首が胴体から分離している。「えらいことになっちまったな。ニワカでつないだらもつかな」。すると行く手に火災。弥次馬たちが手に手に提灯をかざし駆け出していく。「こりゃ危ない。首を落としたら大変だ」と男、自分の首をひょいと差し上げ、提灯よろしく前にかざし、野次馬に倣い「はい御免、はい御免よ」