【インタビュー】2018年 注目の“ヒト”『西郷どん』&鈴木亮平 

 2018年の大河ドラマは『西郷(せご)どん』。明治維新のヒーローでありながら、最期は明治新政府と戦い、命を散らす。幕末維新の時代に活躍し、男にも女にもモテたという西郷隆盛だが、肖像画も残っておらず、実に謎に満ちた男。そんな男の生きざまが2018年に刺激を与える。西郷を演じる鈴木亮平にインタビューした。

 2018年の大河ドラマは『西郷(せご)どん』。明治維新のヒーローでありながら、最期は明治新政府と戦い、命を散らす。幕末維新の時代に活躍し、男にも女にもモテたという西郷隆盛だが、肖像画も残っておらず、実に謎に満ちた男。そんな男の生きざまが2018年に刺激を与える。西郷を演じる鈴木亮平にインタビューした。

「喜びというよりむしろ責任感のほうが大きくて、その責任感の大きさに身が引き締まる思いです」

 一昨年秋の『西郷どん』への主演が発表された会見で意気込みを語った鈴木の表情には緊張が走っていた。昨年夏にクランクイン。年が明けて、いよいよ放送もスタートした。

 西郷吉之助(隆盛)を演じ始めてから約半年。西郷への思いは深まりつつ変化している。

「目の前にいる人の痛みを自分の痛みのように感じてしまう、僕はそれを共感力って呼んでいるんですけど、その人間的な美徳が、何よりも西郷さんの魅力だったんじゃないかと思いながら演じさせていただいています。武士という、強くてどしんとしたイメージではなくて、すごく泣きますし、身体は大きいけど繊細な男です。20代の西郷さんを演じて思っていたより未熟な吉之助さんがいるなって思ったので、未熟な彼が成長して、人間力を持っている人間になっていくんだろうなって。今もワクワクしています」

 一般にも、西郷は人間力の人、偉業を成し遂げた人というイメージが浸透している。ただ、『西郷どん』では失敗する西郷、失敗する吉之助が描かれるという。

「吉之助さんは考えるよりも行動する、当たって砕けろ精神を生まれたころから持っている人で、すごくうらやましいなと思います。考えているよりもとにかく動いてみる、それを美徳とする精神が薩摩にはあるみたいで、実行力、行動力がすごいなと思います。そのために吉之助さんはすぐ安請け合いをしてしまったり、すごい身分の高い人にも当たっていって危ない目に会ったりもするんですけど、動かなければ見えてこない世界があり、動かなければ出会わない人がいて、それが後々の西郷さんの財産になっていくんですよね。僕も大学時代に自分でプロフィルを作って、いろんな会社に飛び込み営業をしたことがあるんです。それで嫌われることもありましたけど、やったことで生まれたご縁や広がった世界もすごくありました。今は30代になりましたけど、そういう熱さや勢いは忘れないで持っていたいと、吉之助さんを見て思いますね」

 そんな「とにかく動く」の精神は鈴木の中にもしっかりとあったようで西郷とも重なるが、この役が決まったときに危惧したこともあったという。それが、さまざまな資料や原作のなかでも記されている、西郷の目の力だ。

「目が異常に大きいだとか、黒目が大きくて吸い込まれそうだとか。かたや僕は正反対の目をしている。だから悩んだんです。でも、最終的には力強いとか、バチンとしたとか、自分が持ってないものを追いかけても仕方がないので、吉之助さんの慈愛に満ちた目というのを意識しながら演じようと思っています」 

 西郷は、男も女も惚れる男だといわれている。鈴木自身にもそんなところがあるようで、プロデューサーによれば、鈴木はいつも現場にいて、いつも人に囲まれているのだそう。そこには、座長ならではの責任感?

「それはあまり意識していません。現場が好きなので、他の人のお芝居を見たりして、ただ“いる”って感じなんです。リーダーとして意識していることがあるとすれば、格好つけないってことです。クールに装ってみたり、できる役者だと思ってもらいたいとか、そういう気持ちを出してもダメだと思うので、正直に自分のダメなところを見せていこうと思っています。それに、撮影は1年あるので、スタッフさんにも共演者にもバレます(笑)。リーダーっていろいろあると思っていて、僕はぐいぐい引っ張っていくとか、“よし、行くぞ!”っていうタイプじゃないんです。むしろちょっと頼りない。助けてあげたい!と思っていただければと思います」

 なんでも、鈴木は「すぐ衣装を汚してしまったり、トイレにすぐ行きたくなる」という座長なんだとか。「ちょっと頼りない」「助けてあげたい」ところでもあるし、プロデューサーやスタッフ、共演する面々が「スキがある」と指摘するところなのかも。

 そんな鈴木の脇を固めるキャストもすごい。下級武士だった西郷を抜てきした薩摩藩主の島津斉彬を渡辺謙、盟友で最終的には敵味方に分かれて戦うことになる大久保利通(正助)を瑛太、恩師ともいえる赤山靱負を沢村一樹が演じる。

「渡辺謙さんは、ずっと殿として接してくださるんです。僕を近寄らせ過ぎずに愛情を持って見守ってくださいます。顔合わせしたときの話なんですけど、謙さんは僕に一言だけと言って、“前だけ向いて突き進んでいけ。転んでもいいから。俺らが全力でサポートするから、心配事は俺らに預けて突っ走っていけ”とおっしゃったんです。終わって座るときにこそっと“お前とはしばらくしゃべらないからな”とおっしゃいました。殿としての緊張感を感じました。これぞ目指すべき道だとか尊敬できる先輩にまた改めて出会えて幸せだなって思います」

 赤山演じる沢村は、鈴木にとっても必要不可欠な“恩師”となったよう。

「クランクイン前、一人で九州を旅行したんですけど、『ひよっこ』の撮影の合間に来てくださって、いろいろ案内してくださいました。学生時代の同級生だという友人の方を紹介しても下さったし、薩摩言葉限定の飲み会を開いてくださったりもしたんです。愛にあふれている人です。僕への愛もそうですが鹿児島に対する郷土愛がある方です。初めてご一緒したシーンでは僕の鹿児島弁を完璧だなって言ってくださったのがうれしかったです。でも沢村さん……やっぱりエロ男爵でした(笑)。普段は封印しているそうですが、夜遅い時間帯の撮影になると出てきます。そういえば鹿児島でご一緒させていただいたお友達も、エロ男爵だったなあ(笑)」

 1月中には、赤山との別れがある。

「大きなシーンです。夏の鹿児島ロケで、キーになるシーンだなと思って演じました。自分が子供のときから教わっていた人が目の前で死んでいく。吉之助さんは初めて不条理な死っていうのを目の当たりにして、世の中には間違っていることがこんなにはっきりとあると自覚する。そういうシーンだと思っています」

 鹿児島弁と格闘し、本物のわらを使った草鞋で足の皮もめくれたりしながらも、撮影は続いている。少しずつ西郷も人間力をつけつつある。放送回数を重ねるごとに成長していく吉之助(隆盛)と『西郷どん』、それにがっぷり四つに組む鈴木亮平に注目だ。 

大河ドラマ『西郷どん』
NHK総合は毎週日曜午後8時、NHKBSプレミアムは毎週日曜午後6時から放送中。再放送もある。詳細は公式サイト http://www.nhk.or.jp/segodon/