たばこの税収は消費税1%分。これはどうするつもりなのか?【猪瀬直樹インタビュー後編】

 本紙では元東京都知事で作家の猪瀬直樹氏に受動喫煙問題についてうかがっているのだが、今回はその後編。前編では加熱式たばこというイノベーションによってタバコを取り巻く状況はどうなっているのかといった現状を踏まえたうえで、議論の進め方について語ってもらった。後編では税収という側面から受動喫煙問題について語る。

前編はこちら

(撮影・蔦野裕)

日本人は規則を守る。このままでは禁煙ファシズムになってしまう
 東京都がそれでも受動喫煙防止条例を進めていくのはなぜ?

「小池都知事も加熱式たばこは実害がないと思っているんです。ただ細かい論争になってくると遅々として進まなくなるので、取りあえず今は禁煙だと言っているわけ。でも黙って普及すればいいと思うんです。結局、タールがいけないわけですから。タールはアスファルトと一緒なので壁が黄色くなるし、肺の中も黒くなる。だから僕は加熱式に代えて良かった。昔は、朝起きた時にいつもタンが出ていたんです。それがなくなった。だから人の健康にもいいけど、自分の健康にもいい。イノベーションというものはすごいことなんです。それこそ小池百合子風にいえばアウフヘーベンしている。困ったら次のアイデアを考えていくというのが進化ですよね」

 イノベーション、税収といったことを考慮しないと議論は平行線ですね。

「とにかく解決するというのがすごく大事。それはさっき言った、普天間と辺野古と県外の話と一緒なんです。沖縄の人の感情はともかくなんですが。先日も普天間から飛び立つヘリコプターから窓ガラスが落下したというニュースがありました。辺野古だったらそういう心配はない。だからこれがセカンドベストということなんです。世の中に100%ということはないので、常にセカンドベストから動いていかないといけない。そうするとツイッターでも書いたんですが、増税案が出ているけれども、そこで加熱式たばこの税金を少なくするといった差別化を図ればこちらに移行しやすくなるじゃないですか。たばこ反対原理主義というのはもうどうしようもない。好き嫌いを言ったら議論にならない。平和共存で物事を考えないといけないということなんです」

 最近は嫌いという人の声が大きすぎる気がします。

「これは政治と同じ。与党と野党の関係なんです。政治も自民党が3分の2の議席を持っているからモリカケの問題があっても全部通ってしまうんです。それと同じ。たばこを吸う人はだいたい2割。結局、野党なんです(笑)」

 いつの間にか野党に…。

「ひと昔前は50%はいたんですよ。だから拮抗していた。政権交代が起きそうな雰囲気もあったんですが、今は完全野党。だから少数意見は無視されるという構造になってきている。でも好き嫌いで物事を決めちゃいけない。少数意見を尊重できるかが民主主義の課題なのです。さっき言った税金の問題でいうと、たばこを吸っている人は喜んで税金を払っていますからね。喜んで税金を払うなんてすごいことですよ」

 いつの間にか「分煙」を通り越して「禁煙」への動きが加速しているように思えます。

「もうひとつ大事なことは、反対派の人はよく“グローバルスタンダード”という言葉を使う。ところがニューヨークでは道に吸い殻がいっぱい落ちている。歩きながら吸っているんですよ。ホテルでは禁煙と書いてあるけど、ホテルの外側には灰皿が置いてあったりする。他の建物もそう。そうすると道で吸う。道で吸うのは自由なんです。ところが港区はアスファルトの上に“路上禁煙”って書いてある。そうしたら逃げ場がないじゃないですか。ようするにアメリカ、ヨーロッパの禁煙の話というのは基本的に建前なんです。あとは個人の自由。だけど一応、“さすがに病院の中で吸っちゃいけませんよね”とか注意はしている。そういう話なんです。ところが日本は禁止が好きなんです。そして規則を守る。サッカーの試合後にスタンドのサポーターがゴミを片付けたり、電車に乗る時もきちんと並ぶ。そんなこと外国人はしませんから。そういうことを日本人にやらせたら、完全に禁煙ファシズムになってしまうんです。その辺の国民性の問題もある。外国の映画を見たらたばこを吸っている。日本の映画はたばこを吸っていません。怒られるから。ところがちょっと前の日本の映画はみんなたばこ吸っていた。たばこを吸わないと場面転換にならないから映画監督は困っちゃう。外国の映画はいまだにたばこを吸って場面が変わっている。この間も『最強のふたり』というフランス映画を見たんですが、部屋の中でもたばこを吸っているんです。最近の映画ですよ。でもそんなことは日本映画ではできない。とにかく日本は禁止が好きな国なんです。順法意識が高いからその通りにやる。だからそこで禁止を増やしていくと息苦しくなっていってしまう」

(撮影・蔦野裕)

減る税収を加熱式たばこで確保していかないと大変なことになる
 秋葉原では日本人は吸わないのですが、外国人が吸ってポイ捨てがすごいらしいです。また新宿でも外国人の路上喫煙はすごい。

「それにたばこというのは昔からの文化ですから。“たばこは動くアクセサリー”というキャッチコピーもあったんです。なんかカッコいいですよね。あと“ベッドでたばこを吸わないで~”って歌もありました。いろんな恋愛の小道具でもあるんです」

 松田優作のカッコいい吸い方をみんなが真似したりしました。

「そうそう。お酒は飲んでいるのに、なぜたばこだけいけないのって話ですよ。酔っ払って暴行する奴はいますが、たばこを吸って暴行する奴はいない。ルールというものは、適度にハンドルの遊びみたいなものがないとダメなんですよ」

 ちなみにオリンピックに向けては?

「実害の少ない燃焼しないたばこを黙って吸ってりゃいいんじゃないですか(笑)」

 すごく同調できるんですが…。

「実害がほとんどないじゃないですか。ただ、グローを車の中で吸っていたら彼女が“におう”って言ったんです。だからグローは車の中では吸わなくなりました。そのへんはTPOをわきまえるということですよね」

 世間では喫煙者があまりにもいじめられすぎに見えます。

「2兆円ですよ、2兆円。どうするんですか2兆円。消費税1%分ですよ。何を考えているんだろうって思います。では代わりに消費税を1%上げますか?って。そういう議論を抜きに好きだ嫌いだって言っていてはいつまで経っても解決しない。むしろたばこをやめることで減る税収を、加熱式たばこで確保していかないと大変なことになる。あとは厚生労働省が禁煙禁煙って騒いでいる。だけどこれも医療費が増えるというんだけど10万人に対して肺がんが30人か10人かという優位さなんです。それと血管が老化するとかいっているんですが、全体で考えるとメンタルの部分がそれによって補われていると考えれば免疫力は高まるわけです。だから総合評価をしないといけない。直接的にいけないという被害があるという言い方と、全体の人間の心と体の全体で見た免疫力というものを考えなければいけない。むしろたばこをぷかぷか吸って90いくつまで生きている人はいっぱいいる。それはストレスがなくなっているということなんですよね」