柔の美獣 渡辺華奈【ジョシカク美女図鑑 第6回】

8・26「DEEP 85 IMPACT」で初のケージマッチに挑む

 女子格闘家の素顔に迫るインタビュー企画「ジョシカク美女図鑑」。第6回は「DEEP 85 IMPACT」(8月26日、東京・後楽園ホール)に出場する渡辺華奈。

 渡辺はかつて柔道で全日本指定強化選手に選ばれるなど、将来を嘱望された柔道家。それが昨年12月に総合格闘家として「DEEP JEWELS」でプロデビュー。腕十字固めで一本勝ちを収め、観戦に訪れていたRIZINの榊原信行実行委員長に年末の大会への出場をアピールし、プロ2戦目にしてさいたまスーパーアリーナのリングに立った。

 RIZINでは判定ながら日本の女子格闘技で長く活躍する杉山しずかに勝利を収めるなど、派手な戦歴に目を奪われがちなのだが、実はデビューから1年経っていない。今年はまだルーキーイヤーなのだ。

(撮影・蔦野裕)

柔道と総合格闘技の試合会場の雰囲気の違いにびっくり
 まずデビューしてからここまでを振り返ってください。

「最初のほうはけっこう思うようにできたことが多かったんですが、やはり最近は総合格闘技の難しさを感じています。でも、もともとそんなに甘くない世界だとは思っていましたし、やはり一つひとつの積み重ねが結果につながっていくと思っているので。そう感じるのは当たり前かなとは思います。この数カ月は格闘技としっかり向き合う時間というか、もう一段階上に行かないといけない時期なのかなと感じています」

 やれているところとやれていないところは見えている?

「すべてが見えているわけではないと思うんですが、自分の課題は打撃であったり、レスリングであったり。本当にすごく多いですね(笑)」

 次の試合の赤林檎選手は打撃系の選手。若干苦手感がある?

「そんなことはないです。自分が強くなって成長していくためには、必ずやらなければいけないタイプの相手だと思っています。」

 今回はDEEP本戦への出場。そして初めてのケージでの試合。

「ケージ、初めてですね(笑)。けっこう楽しみなんです。今までリングでしかやったことがないので、ケージの試合がどういう感じなのかというのはあまり想像がつかないんですけど、やっぱり柔道技はケージのほうが生きるのではないかなって感じています。前回の試合では相手の体がロープの外に飛び出ちゃったりして試合が止まる場面もあったので、今回はしつこくねちっこくいけるかなとは思います」

 ケージ対策は?

「パラエストラ浦安で練習させていただいていまして、そこにはケージはないんですが、壁際の練習をしたりプロ練や柔術の練習などにも参加させていただいています。あとはGENスポーツアカデミーではケージやリングでやる練習をさせていただいていますね」

 柔道家からすると柔術は?

「抵抗はあまりなかったんですが、やはり勝手というかやり方が全然違うんです。柔術のほうが頭を使うという言い方をするとちょっと語弊があるんですが(笑)。柔道って試合の中で寝技をやる時間というのはそんなになくて、10秒あったら“待て”になってしまうんです。とにかく短い時間でガッとやるというのが主だったんですけど、柔術は頭を使って長くやるので、そこがすごく難しかったです(笑)」

 柔道だと自ら下の体勢になるというのは少ないのでは?

「ないことはないですけど、基本的には下になるとよほど寝技が得意でないかぎりは不利ですし、寝技での攻防が少ないので、どちらかが亀になれば待てがかかって最初からということが多くなります。だから最初は寝技になると仰向けになるより亀になる癖が出てしまっていたので、そこがちょっと苦労しました」

 そういう癖ってなかなか直らないのでは?

「だいぶ直りました。最初からそこは意識をしていましたし、口酸っぱくも言われていたので。でもまだ完全には抜けていないので、そこは意識してやっています。あとは投げた後に気を抜いちゃったりということはありました。それは投げられた後もなんですが、柔道の場合は投げたり投げられたりすると1回切れちゃうんです。投げられたら“ああ~投げられちゃった”ってなっちゃうんですが、総合格闘技はそこからも攻防が続くじゃないですか。なので“その時間が無駄だ”とはよく言われていました(笑)」

 ジョシカク人気が高まっている。その中で柔道から総合格闘技への転向。環境が大きく変わったと思うのだが、肌で感じる部分はある?

「女性に注目が集まっているのはうれしいことで、すごく力をもらっています。まず柔道と総合格闘技って、プロとアマチュアの違いもあるんだと思いますが雰囲気が全然違います。柔道はスポーツの中でもちょっと硬いというか…例えば飲酒をしながらの観戦も駄目ですし、学生の時も社会人の時もなんですが、関係者は全員スーツでなければいけない。私は大学は東海大学だったんですけど、柔道部のスーツがありました。応援に行くときはそのスーツを着ていかなければいけないんです。試合に影響があってはいけないということなので、応援も相手選手をヤジるような応援をしたらもう…(笑)。セコンドが大きな声を出しても審判に“静かに”と言われたりもするので、なかなか盛り上がりにくいかもしれないですね」

 それは日本だけ? 世界的に柔道ってそういう感じ?

「私は何回か海外の試合に出たことがあるんですが、日本と全然雰囲気が違いました。海外の人は大きな声で盛り上がっていますね。でもオリンピックとか世界選手権といった国際大会ですと日本国内と同じような雰囲気です。セコンドは“待て”がかかって試合が止まっている間しかアドバイスをしてはいけないというルールなので、そこは世界共通だと思います」

 それはテレビでしか見ていないとなかなか気づかない世界ですね。

「そうですね。セコンドの方もスーツって決まっていますし」

 では最初にDEEP JEWELSの試合に出た時は結構な違和感があったのでは?

「めちゃくちゃ違和感がありました(笑)。リングの上に靴で上がったりするのはこちらでは普通なんですけど、柔道で畳の上に靴で上がったりすると大変なことになりますから。そういうところはまだちょっと慣れていないです。見ていて“あ、いいのか”とか思っちゃったりして(笑)。最初はセコンドの方もラフな服装なので違和感がありましたし(笑)」

 総合格闘技でセコンドがスーツだったら…。

「逆に、“あいつ何だ?”って感じですよね(笑)。競技性の違いはそんなにないように思っていたんですが、やってみたら試合もそうですし、取り巻く環境も多くの違いを感じました。道着がない状態での戦いだと、自分がやってきた戦い方のベースを変えなければいけなかったりしますし。難しいとは思っていたんですが、思っていたより全然難しかったですね」

 柔道の場合、女子選手は髪の色なども制約があったりした?

「基本的には黒髪です。会社によっては軽い茶髪でもいいところはあったようですけど」

 では総合を始めて、茶髪や編み込みなどができるようになったのは女性としてうれしいことなのでは?

「それは本当にうれしいです! やっぱり茶髪は憧れでした。大学を卒業して社会人になる間の2週間だけ茶髪にしたりしましたもん」

 髪の長さは?

「髪の毛をまとめているものなどが取れてしまうと減点対象で、何回か取れたら指導になってしまうんです。長いとばしっと留められるんですけど、中途半端な長さだと取れちゃう。なので私は髪は短くしていました」

 お化粧も?

「全然ダメです。なので総合をやるようになって、髪形も自由だし、お化粧もできるというのがとてもうれしいんです」

(撮影・蔦野裕)

「戦力外通告」からのMMA転身
 もともと柔道を始めたきっかけは?

「兄が私より先に始めていて、それを見て私もやりたいと思ったのと、母以外の父と兄と私の3人で“家族スポーツ”みたいな感じで始めたのがきっかけです。なんで家族で柔道なの?って感じなんですけど(笑)。それで週に1回、お母さんも一緒に道場に行って、家族で楽しくやるという感じでした」

 お父さんは昔柔道をやっておられた?

「やっていないです。幼稚園の時に友達がやっていたとか、“最近物騒だから護身術代わりに”という母の意向なども重なって、“じゃあみんなで柔道やろう”ってことになったんですけど、護身になりすぎちゃいました(笑)」

 そして総合格闘技に転向するきっかけは?

「昔から総合格闘技を見ることは好きだったんです。めちゃくちゃ詳しいというわけではないんですが、年末はテレビを見ていましたし、RIZINも何度も会場に観に行っていました。以前から“いつかやりたいな”という気持ちは持っていました。そんな中で柔道を続けていくうちに、所属していた実業団のチームから“選手ではなくコーチになってほしい”という形で戦力外通告を受けたんです。承諾してコーチをやっていたんですけど、やはり自分の中で選手としてやりたいという気持ちがすごく強くて、前々からやりたいという気持ちもあったので“総合格闘技という新たなジャンルに挑戦したい”という気持ちがどんどん芽生えてきたんです。それでもう、何も決まっていない状態で会社をやめたんです(笑)」

 その引退勧告があっての転向ということを考えると、総合格闘技界的にはとても良かったことです。

「本当ですか? うれしいです(笑)」

 現役生活においての目標は?

「やはり一つひとつの試合をしっかり勝って、総合格闘技のスキルを上げてちゃんとした格闘家になること。これが近々の一番の目標です。そして海外の選手とも戦えるような選手になっていきたいですね」

 将来的に海外でも試合をしたいということも?

「まだ1年も経っていないので、先のことはまだあまり考えていません。とりあえず、一つひとつのことをしっかりとやっていかないといけない。1年に一つのことをしっかりできるようになれば、というくらいの気持ちです」

 ついつい柔道時代のキャリアも含めて見てしまいがちだが、実はまだプロとしては1年未満。それでこの大きな期待というのはプレッシャーになっているのでは?

「プレッシャーに感じることはなくはないんですが、それはものすごくありがたいことですし、それだけ注目していただけているのはうれしいことなので、そのプレッシャーや期待に応えたいです」

 今後の人生設計とか考えてます?

「人生設計か~(笑)」

 そこは笑うところ?

「全然考えていないんです。今はとにかく格闘技のことしか考えていないです」

 ずっと現役? 体が動かなくなるまでとか?

「はい。そういう思いです」

 せっかく安定した会社を辞めてまで飛び込んだ世界。

「それもあるんですが、単純に格闘技が楽しくて、格闘技が好きなので、ずっとやっていたいです。体を鍛えるのも好きなので」

 体を鍛えるといえばデビュー時から小顔美人なのにそのアンバランスなまでの筋肉美が話題となっている。この体は柔道時代からのもの?

「柔道時代の後半くらいからです。私は最後は57kg級だったんですが、もともとは63kg級で階級を1つ下げたので、そのタイミングで肉体改造をしなければいけなかったりしていろいろ見直す機会があったんです。それにもっとフィジカルを強くしたいという思いもありました。それまではウェイトトレーニングはすごく嫌いだし苦手だったのであまりやっていなかったんですが、ウェイトトレーニングをしっかりやろうと思ったのが2~3年前くらい。もともとやってはいたんですが、ここまでしっかりはやっていなかった。言われたことを最低限やっていたという感じでした」

 戦うための筋肉をつけていった。

「そうですね。そして食事の改善も大きいです」

 女子の柔道は道着の中にシャツを着ており男子のように肌が見えることはないので全然意識したことはなかったが、筋骨隆々の女子の柔道家は多い?

「結構こういう感じの女子選手は多いですよ。柔道家の体の特徴としては、筋肉ががっちりついていて、その上にうっすら脂肪が乗っている。だからもうちょっとポチャッとしているかもしれないんですけど、結構みんなバキバキです」

 この体を維持するために、日々過酷な鍛錬をしているのかと思うんですが。

「でも格闘技のためにやっていることなので苦にはならないです。あとトレーニングが本当に好きなので、なんか趣味みたいな感じで暇なときとかにもやっています(笑)。みんなには“頭、おかしい”って言われています(笑)」

 甘いものとかも食べない?

「ある程度というか、だいぶ控えています(笑)」

 それはこの2~3年。

「そうですね、この2~3年ですね。柔道時代の食生活はひどかったです。もう本当に何も考えていなくて、ただ好きなものを食べていました。ラーメンもめっちゃ好きだったので、休みの日はラーメンマップを見て、1人でラーメン屋を2軒回ったりもしました。埼玉に行って食べ歩きとか(笑)。カップラーメンとかジャンクフードも食べていましたし。“そりゃ勝てないよね”って感じです(笑)」

 それが体の仕組みなどを勉強していくなかで…。

「こりゃやばいなって。ぱったりとやめたわけではないんですが、最初は自分でなんとなく太らないようにとか、肉を多めにとか考えていたんですが、やり始めるうちに徐々にもっと勉強してって感じです」

 他の選手に「どういうふうにしたらこの体になれる」ということは聞かれる?

「選手の方からはあまりないんですけど、一般の方とか友達とかには結構聞かれますね。やせたいんだけど、とか(笑)」

 今回の試合の結果次第では年末のRIZINに再登場ということもありそう。

「めっちゃ出たいです(笑)。この間も試合を見に行って、やはりいいなと思いました」

 一度あのリングに立って癖になった?

「客席で見ている時も感じてはいたんですが、自分が上がって改めて“すごい舞台だな”って感じましたし、気持ち良かったです」

 ちなみに最近、財布を落とされたそうで…。

「そうなんです。めっちゃいろいろなところを探し回ったんですけど、全く出てこないんです。悲しい…(笑)」

 その時にツイッターで「モヤモヤしたので走ってきた」とか書かれていましたが…。

「“悩んでいてもしようがない。走ろう!”と思って10キロ走ってきました(笑)。暑い…と思いながら。でもすっきりしました(笑)」

 柔道時代に「戦力外通告を受けた」というが、日本の女子柔道の層の厚さは相当なもの。そこで鍛えられたフィジカルと技術は生半可なものではない。そして現在も「とにかくトレーニングが好き」と体を鍛えることに手を抜かない。年齢的には遅い転向ではあるが、むしろ伸びしろしか感じさせない。自身が言うように柔道技が最大限に生きそうな今回のケージでの戦いは渡辺を大きく飛躍させそう。(本紙・本吉英人)