ヤフー・LINE統合で変わる日本の人づくり【鈴木寛の「2020年への篤行録」第75回】

 ヤフーとLINEの経営統合というニュースは、さすがに私も驚きました。ただ「ビッグカップル」が誕生したからというだけではありません。

 そこまでしないとアメリカのGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)や中国のBATH(バイドゥ、アリババ、テンセント、ハーウェイ)との戦いに生き残ることができない段階になった現実を改めて突きつけられたことへの思いです。

 日本のネットサービスを代表する二つの巨人が経営統合となると、一昔前なら独占禁止法により、当局が待ったをかける可能性を思い浮かべた人もいるはずです。これについては楽観的な見通しが支配的なようですが、このまま予定通りに経営統合となれば、GAFA、BATHとの世界的な競争に生き残りをかけることが「国益」としても叶うと、日本国として判断したことを意味します。名実ともに、日本のネット業界が本物のグローバリゼーションに突入するのです。

 人づくりをする私からしても、新しく重たい宿題になります。これまで私のゼミを巣立っていった多くの学生が卒業後、ヤフーをはじめネット業界をリードする企業に飛び込んで行きましたが、近い将来、そうした企業の中枢で働きたいのであれば、アジア各国の優秀な学生たちとの競争に勝ち抜かなければならなくなるでしょう。実際、社内英語化で先行した楽天はすでに積極的にアジアの若者を採用しています。

「グローバル人材」は、語学力は必須条件に過ぎません。失敗をおそれず、何度も成功をめざすトライ&エラーにみられるマインドセットも重要です。

 先日、東京ヘッドライン主催のイベント『BEYOND 2020 NEXT Forum -日本を元気に! JAPAN MOVE UP!-』で、人材育成を議論しましたが、そこでも申し上げたように私は学生たちに「板挟みと想定外と修羅場に遭え」と言っています。苦悩をしても失敗を恐れず、もし失敗してもそれを糧にして前を進む…。日本ではまだまだ少ない、そんなマインドセットが当たり前という感覚を、学生が身に着けるだけでなく、教師、親御さんなど、理解できる大人も増やしていかねばなりません。

(東大・慶応大教授)
東京大学・慶應義塾大学教授
鈴木寛

1964年生まれ。東京大学法学部卒業後、1986年通商産業省に入省。

山口県庁出向中に吉田松陰の松下村塾を何度も通い、人材育成の重要性に目覚め、「すずかん」の名で親しまれた通産省在任中から大学生などを集めた私塾「すずかんゼミ」を主宰した。省内きってのIT政策通であったが、「IT充実」予算案が旧来型の公共事業予算にすり替えられるなど、官僚の限界を痛感。霞が関から大学教員に転身。慶應義塾大助教授時代は、徹夜で学生たちの相談に乗るなど熱血ぶりを発揮。現在の日本を支えるIT業界の実業家や社会起業家などを多数輩出する。

2012年4月、自身の原点である「人づくり」「社会づくり」にいっそう邁進するべく、一般社団法人社会創発塾を設立。社会起業家の育成に力を入れながら、2014年2月より、東京大学公共政策大学院教授、慶應義塾大学政策メディア研究科兼総合政策学部教授に同時就任、日本初の私立・国立大学のクロスアポイントメント。若い世代とともに、世代横断的な視野でより良い社会づくりを目指している。10月より文部科学省参与、2015年2月文部科学大臣補佐官を務める。また、大阪大学招聘教授(医学部・工学部)、中央大学客員教授、電通大学客員教授、福井大学客員教授、和歌山大学客員教授、日本サッカー協会理事、NPO法人日本教育再興連盟代表理事、独立行政法人日本スポーツ振興センター顧問、JASRAC理事などを務める。

日本でいち早く、アクティブ・ラーニングの導入を推進。