岸田政権発足:教育ビジョンなき政治の風景【鈴木寛の「REIWA飛耳長目録」第10回】

岸田氏と河野氏の間で決選投票が行われた(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 日本のリーダーが変わりました。昨年9月に首相に就任した菅義偉氏が自民党総裁選に出馬をせず、岸田文雄氏、河野太郎氏、高市早苗氏、野田聖子氏の4人で争われ、岸田氏が総裁に就任。第100代の内閣総理大臣に選出されました。

 話を総裁選に戻します。今回は四者四様、それぞれの個性がぶつかり合って、政策的な論戦はそれなりに盛り上がりました。年金制度のあり方について河野氏がドラスティックな改革案に言及すると、財源に関して他の候補者たちから増税の可能性を提起されて、選挙開始後に新たな「争点」として浮上したあたりは、何かと政策が後回しになり、数合わせに終始しがちだった歴代の総裁選と比べても興味深い出来事でした。

 あらかじめ想定されていた争点は、喫緊の最重要課題であるコロナの感染拡大防止策とコロナで打撃を受けた経済の再生でした。その一方で、総裁の任期は3年。総選挙で与党を勝利に導けば、さらにその先も見えてきます。何が言いたいかというと、出遅れていたワクチンの大規模接種が大幅に巻き返し、出口戦略が具体的に語られる段階です。つまり感染が収束した後の日本をどうするか。教育者としては10年後の人づくりについて、それぞれの候補者がどう考えているのか、論戦を気にしていました。

 報道を見る限りでは、奨学金制度の減免や卒業後の年収に応じた方式にするなどの改革案、学費や生活費で困窮する学生たちへの支援など、安倍政権時代に私が大臣補佐官を務めていたときに議論し、すでに着手した毎年7000億円を投じた苦学生への給付型奨学金や授業料無償化政策などを追認するような発言に終始し、新味に欠けていました。果たして、各候補は、すでに始まった支援策を知った上で議論しているのだろうか?という疑問すらわきました。これらの政策に加えて、今後、どうしたいのかを聞きたいところでした。

 岸田氏の公約集をみても分配政策の観点から、教育費の支援といった言及にとどまり、具体的な数字もなく、未来に向けた考えがわかりません。例えばAIが人間の知能を超えるシンギュラリティがあと二十年ほどで訪れる可能性がある中で、知識詰め込み型の旧来型教育からどう転換するのか、岸田氏の問題意識を知りたいところでした。

 正直、野党も似たようなもので中長期の教育ビジョンが全く語られていないのが実情です。衆議院の解散総選挙を前に永田町の光景を寂しくみている日々です。

 

東京大学・慶應義塾大学教授
鈴木寛

1964年生まれ。東京大学法学部卒業後、1986年通商産業省に入省。

山口県庁出向中に吉田松陰の松下村塾を何度も通い、人材育成の重要性に目覚め、「すずかん」の名で親しまれた通産省在任中から大学生などを集めた私塾「すずかんゼミ」を主宰した。省内きってのIT政策通であったが、「IT充実」予算案が旧来型の公共事業予算にすり替えられるなど、官僚の限界を痛感。霞が関から大学教員に転身。慶應義塾大助教授時代は、徹夜で学生たちの相談に乗るなど熱血ぶりを発揮。現在の日本を支えるIT業界の実業家や社会起業家などを多数輩出する。

2012年4月、自身の原点である「人づくり」「社会づくり」にいっそう邁進するべく、一般社団法人社会創発塾を設立。社会起業家の育成に力を入れながら、2014年2月より、東京大学公共政策大学院教授、慶應義塾大学政策メディア研究科兼総合政策学部教授に同時就任、日本初の私立・国立大学のクロスアポイントメント。若い世代とともに、世代横断的な視野でより良い社会づくりを目指している。10月より文部科学省参与、2015年2月文部科学大臣補佐官を務める。また、大阪大学招聘教授(医学部・工学部)、中央大学客員教授、電通大学客員教授、福井大学客員教授、和歌山大学客員教授、日本サッカー協会理事、NPO法人日本教育再興連盟代表理事、独立行政法人日本スポーツ振興センター顧問、JASRAC理事などを務める。

日本でいち早く、アクティブ・ラーニングの導入を推進。