女性向けアダルトグッズメーカーの代表へ話を聞いてみた〈前編〉【SOD女子社員・負け犬女の働き方改革】#11

 この連載では毎回「働き方」をテーマに自分自身を見つめなおしてきた。
 その過程で、同じ業界で働く女性たちの「働き方」を知りたいと思うようになった。
 そこで今回からは、不定期ではあるが、同じアダルト業界(またはその周辺の業界)の女性に「働き方」について考えていること、感じていることを伺い、私自身が勉強させてもらおうと思う。

「なんでこの業界で働いているの?」「なんで女性がアダルトに興味を持ったの?」というところばかりがクローズアップされがちな私たちの職業だが、それを越えた働き方に対する考え方や、生きていく上で大事にしていることなどを、お伝えしていきたい。
2007年に行われた社内行事「100キロウォーク」での一コマ。左が今回お話を伺う綱島さん。右は入社1年目の田口です

今回の話し相手:綱島 慶乃(つなしま よしの)さん


株式会社ドリーミィー代表取締役。
アダルト商材流通会社にて約9年勤務の後、現職。現在は代表として女性のみで運営するラブグッズのネットショップ「LOVELY POP」の運営及びオリジナル商品の製造・販売に携わっている。
LOVELY POPショッピングサイト http://www.lovelypop.com/


 GIRL’S CHでも人気商品である「エクスティック」シリーズのバイブを製造・販売しているメーカー「LOVELY POP」の代表でもあるが、もともと新卒で入社したのはソフト・オン・デマンド(以下、SOD)だ。
 実は私の一個上の先輩で、新卒時代から仕事ではもちろん業務外でもお世話になっており、現在はサイトとメーカーという立場にはなったが、引き続き協力的に仕事をしている。


―――私もそうですが、綱島さんも迷いなくSODに入社していますよね。綱島さんの場合はもう一社内定があったと前に飲んでいるときに話してくれましたが。

 そう、SODともう一社内定をいただいて悩んでました。
 もともと大学で理系学部にいて、研究職に就くことも考えていたんだけど、たくさんの頭のいい人たちに揉まれてその中で一生食べていくとか、学問として面白いと思ってやってきたものを職業として一生やっていけるかというとその自信がなくて。
 そんな時に、高橋がなり(SOD創業者)さんがブログ形式で更新していた人生相談が面白くて。そこで新卒募集していることを知って、応募して内定をいただきました。
 それで、SODともう一社、研究を活かせる一般企業の内定をいただいて迷っていたんだけど、一般企業のほうに「どこと迷っています?」と聞かれて「SODです」と答えたら…「そんなところと迷うような方はお断りさせていただきます」って。SODに行きたい気持ちのほうが強かったものの、家族の気持ちとか考えて決めかねていたのを、思わぬ形で迷いを断ち切られたので、かえって踏ん切りがついてすっきり入社しました(笑)。

―――せっかくなんで、私しか聞けない話を聞いてみたいんですけど。我々の入社当時のSODと言えば「新卒の会」じゃないですか。

 そうだね。

―――部署を越えて新卒入社のメンバーだけで構成された組織で、業務外のイベント、たとえば全社員が参加する「軽井沢合宿(※)」とか「仕事始めの会」とかの仕切りがかなり大変だった記憶があります。

 朝まで毎日毎日残ってやってたじゃないですか、いろんな作業を。たしかにきつかったけど、嫌だとか、それで辞めたいとか思ったことはなくて。
 むしろ、一番自分が学んだって思うのって、あのイベントの業務だと思っています。


 ※軽井沢合宿……当時年に1度開催されていた、SOD社員やグループメーカー社員が参加する、2泊3日の大運動会。一時期には200名以上の参加があった。また、騎馬戦や相撲など危険な種目も多く、けが人が出ることもあった。


―――新卒の会のことで何か印象に残っている出来事ってありますか?

 当時、野本さん(現在のSOD代表取締役。同じく新卒入社で我々の先輩にあたる)と一緒にイベントの仕事をすることが多かったんだけど、軽井沢合宿のときに、「旗を持ってると人は集まってくる」っていうのを教えてもらったの。
 その時、私はイベントを運営する立場として、同じチームの人たちを集合させるために、どうやって誘導したらうまくいくんだろうっていうのが分からなくて悩んでて。すると野本さんが、「同じ色のTシャツをバスの中で着てもらうだろ、そのTシャツと同じ色の旗を持っていると、人間はなぜかそこに集まってくるもんなんだ」って言われてはっとして。
 イベントの仕事だけじゃなく普段の業務でも、広告を打つとか、販売企画を立てるとかも、動かされたと思わずに人を動かすことが仕事なんだなって、自分が「仕事ってすごい、おもしろい」って思ったきっかけになった印象深い出来事ですね。
 それが、すべての仕事の基本になってるかもしれない(笑)。

―――この前、飲み会の場で話していたときに、「欲求は人に押し付けるものじゃない」って言っていたのが印象的だったんですけど、それも、メーカーから商品をごり押しするわけではなく、ユーザーが自然に選ぶようにする方法を考えるというようなことでしょうか。

 そう。仕事してると、売りたいし買って欲しいし、どうしても売り手側の「何々してほしい」という思いが強くなってしまう。でもそうじゃなくて、人が自然に、自分がしてほしい方向に動いてくれるにはどうすればいいんだろうっていうのを考えるのが仕事であって。そういうときにいつも野本さんの言葉を思い出して考え直すから、すごく大きい一言だったなと思っています。

―――だいぶ新卒の会で話が盛り上がってしまいましたが、現在のお仕事の話を聞いていきたいと思います。今は、どういう役割で、どんな働き方をしているか教えてください。

 弊社には大きく分けて2つの事業があって、ひとつの通販事業のほうは、店長の渡辺さんに販売企画や出荷作業はある程度任せています。もうひとつ、オリジナルグッズの卸売事業は営業会社さんに委託してマンパワーを補いつつ、主に私の方で担当しています。
 仕事内容としては、代表とはいっても、スタッフが少ないのもあって、全ての業務に関わっています。人手がなければお客様のお電話も取りますし、出荷作業もしています。
 会社の営業時間の10時から19時までは、データを集計したり指示を出したりコラムを更新したり、基本的に実務ですね。

―――いろいろな作業があると思うんですが、たとえば頭の中で、営業マンとして何%、経営者として何%、というように割合は意識したりしていますか?

 会社で実務作業をしてる時間以外はずっと経営のことを考えてます。プライベートと言われる時間でも。
 経営者は雇用されてる側じゃないから、時間で区切れる仕事じゃない。8時間でこの業務をやってこれだけ成果をあげてください、っていうのがたぶん雇われている側だと思うんだけど。さっきの野本さんの旗の話みたいに、「あそこに行こうぜ」って旗を立てるのが、経営者の仕事だと思っていて。
 私、SODの入社面接を受けたときに、「社長になりたいです」って言ってしまったんだけど、偉くなりたいとかお金がほしいとかそういうことではなくって。部長には部長なりの、課長には課長なりの、社員には社員なりの、みんな見ている世界があると思うんだけど、社長になれば、すごく違う世界が見えるんだろうなって単純に思ったんですよ。
 リスクをとる分、人が見られないものを見られるのが、一番醍醐味なのかなって私は思ってる。だからそれにまつわるすべてが楽しくて、ずっと仕事のことを考えていられますね。

―――今ちょうどコロナウイルスの影響で働き方も変わってきているかと思いますが、御社では何か対策や取り組みはしていますか?

 会社としてはリモートワークと、時差出勤は2月から取り入れていました。ウイルスの正体がよく分からない状況で、社員を守るっていうことを考えたときにそうするしかなくて、そのためお問い合わせ対応時間も短縮させてもらったり、お客様にもご迷惑をかける部分もあったんですが、ただサービス内容としては、あえて変えないようにしています。
「何かをする」っていうことを、あえてしなかった。あえていつも通り淡々とやるということを、意識してやっていたかな。業務も発信する内容もいつも通りで、メッセージや商品のこと以外の情報を伝えることはしなかった。それは、うちの店に対して、世の中から求められている価値じゃないと思っているので。

―――そのあたりはGIRL’S CHも同じ立場をとっていると思います。専門家ではないのでウイルスに関しての情報や意見を出してお客様を混乱させたくないし、何か動画を見たくなったときやAVで楽しみたいときに、そこにあり続ける存在でありたい。あくまでお客様の気持ちがあって、必要となったときに寄り添わせていただく。そんなつもりで、引き続きこれまで通りの発信を続けていますね。私の場合は、前よりも発信量自体は増えましたが。


 というわけで、今回は株式会社ドリーミィーの綱島慶乃さんに、アダルト業界への就職のきっかけと、働く上で大事にしていることを伺った。
 次回、アダルトグッズの買いづらさと女性の欲求について、さらに深堀りしたいと思います。(後編は6月12日に掲載)

田口桃子(たぐち・ももこ)
GIRL’S CHプロデューサー。2007年、新卒でソフト・オン・デマンド(株)に入社。
営業、マーケティング等の部署を経て、2012年よりGIRL’S CHの立ち上げに携わる。
以来現在まで、GIRL’S CHの現場リーダーとしてサイト運営をしつつ、オリジナル動画ではレポーター出演等をすることも。
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