福島第1原発の処理水海洋放出問題がやっと動き出すも…

敷地内には処理水の入ったタンクが並ぶ(写真:ロイター/アフロ)

 政府は東京電力福島第1原発のタンク群にたまり続けているトリチウムを含む処理水を海洋放出する方向で最終調整に入った。


 処理水の海洋放出による安全性については、経済産業省の「処理水小委員会」がすでに確認済み。廃炉の重要工程となる、溶融した燃料(燃料デブリ)の取り出しには処理水が入った約千基のタンクを片付ける必要があり、事故後10年を経て廃炉作業が大きく前進する可能性が出てきた。


 第1原発では、事故で溶け落ちた燃料デブリを冷やすための注水などで現在も処理水が増え続けている。東電は、処理水の保管タンクの容量が令和4年秋ごろには満杯になると説明しており、処理水の処分は待ったなしの状況となっていた。


 こうした現状を踏まえ、政府は当初、昨年10月に関係閣僚会議を開き、海洋放出を決定する段取りを描いていた。しかし、風評被害を懸念する漁業者らの意見もあり、決定を先送りにし、関係者との意見交換を重ねてきた。


 仮に処理水の海洋放出が決まったとしても、放出に向けては設備工事や原子力規制委員会の審査が必要で、放出開始までさらに2年程度かかるとされている。


 また処理水の海洋放出にはまず風評被害への懸念を持つ全国漁業協同組合連合会(全漁連)の岸宏会長や地元漁業者の理解を得られることが大前提となる。


 菅義偉首相は4月7日、首相官邸で岸会長と会談し、海洋放出を念頭に理解を求めたが、岸氏は「反対という考えはいささかも変わらない」と強調した上で、政府側に風評被害対策の充実などを求めた。


 岸氏は「漁業者や国民の理解が得られない専門家の提言については絶対に反対だ」と述べた。そしてその上で(1)処分方針について漁業者への説明(2)風評被害への対応策(3)処理水の安全性の担保(4)漁業者支援(5)処理水の保管タンクの増設などの検討−について要望した。