徳井健太の菩薩目線 第98回 よく理解していないまま、ひとまず「了解しました」と送る意味はあるのか、ないのか問題

 

“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第98回目は、「了解しました」をめぐる攻防について、独自の梵鐘を鳴らす――。

 時代の流れと言うべきか、昨今は自分がよく出演させてもらう番組の事前確認を、グループLINE経由で行うことが珍しくない。スマート化、デジタル化の波は、官公庁だけではなく芸人界隈にも届いているらしい。

 規模が大きい番組とは違い、インターネット番組を含めた小規模な番組であれば、関与している演者やスタッフの数は、せいぜい十数人。そのためグループLINEで一斉に通知した方が効率的だし、俺自身も不自由を感じることはない。

 例えば、進行のスケジュールなどが送られてくる。すると、十数人が「了解しました」的な簡単なレスポンスをする。ところが、これを良しとしない異端児が現れた。番組でSEを担当する20代の女性スタッフ・A子さんだ。彼女はSEという技術職ゆえ、A子さんにしかできない役割が多く、新人にもかかわらず番組製作上、重要なポジションにいる期待の大型新人といったポジションだ。

 親方であろう同じ制作会社の社長(40代)から、グループLINEを通じてさまざまな確認事項が送られてくる。しかし、A子さんは絶対に「了解しました」と返信しない。要するに既読スルーを貫く。ときには、社長に対してタメ口をすることも珍しくない。これがさとり世代、Z世代……なんて、俺は老婆心を丸出しにしてしまう。

 ある日の番組収録直前。日々のいらだちが募っていたのか、社長が先の件に言及し始めた。「お前さ、LINEの連絡に『了解しました』とかレスポンスしなきゃダメだろ」と、軽く叱責し始めたのだ。

 すると、彼女は「なんでですか? そんなことする意味ありますか?」とブチかまし、真正面からがっぷり四つに組みにいった――。こいつ死ぬ気か。

「あ、わかりました」なんて具合に、適当に流すと思っていた俺は面を食らい、しばらく二人に釘付けになってしまった。「意味あります?」の一点突破で社長を土俵際へと追い込んでいくA子さん。負けじと「意味あるだろ」と押し返す社長。世代を超えた大一番。番組収録直前に、場外乱闘で盛り上がるのはやめてほしい。

(A子)「十数人が『了解しました』って返していますけど、本当に中身を理解して“了解しました”と返している人が何人いるってわかるんですか? 私が『了解しました』と返したところで、私が本当に理解して了解しているのか、社長にはわかるんですか? そんな確認しようのない了解に、何の意味があるんですか? 意味あります?」

 強ぇ。正論といえば正論、いやド正論かもしれない。だが、たじろぎながらも社長も反撃する。世代的には俺と近い社長にシンパシーを感じてしまうものの、先の理屈はなかなか筋が通っている。一体、どう反論するんだろう?

(社長)「うちは小さい制作会社だからみんながきちんと共有しないとトラブルになる。既読スルーだと確認したかどうかがわからない。“読んだ”という意思表示の意味で『了解しました』でもなんでもいいから一言返事をよこせ」

 これも納得だ。既読と未読では天と地。既読で行き違いがあれば、「お前、きちんと読んだのか?」と言えるだろうけど、未読で行き違いがあれば大火傷に発展する可能性だってある。しかし、彼女はこの点を鋭く突き返す。

 (A子)「やっぱり分からないですね。『了解しました』とは打てますよ。で、打ったところで 、打つ前と打った後で何か変わることがありますか?」

 恐るべしA子。既読だろうが未読だろうが行き違いが生じれば、どのみち「トラブル」という結果にいたる。だからこそ、「本当に中身を理解して“了解しました”と返している人が何人いるかなんてわからない」の一言。理解していない了解に意味なんてないのか……。

(社長)「あるだろ! 例えば、『いま到着しました』って返信が返ってきたら、無事に届いたんだなって安心するだろ? それと一緒で応答は大切だろ」

(A子)「それはわかりますよ。私だって誰かが来なかったら『どうしました?』って言いますし、私自身が遅れていたらきちんと理由を述べて連絡します。でも、全員に向けたグループ LINE、その問いかけに応える場合の『了解しました』は意味がわからない。だから、送りたくない」

 名勝負とも泥仕合ともとれる様相を呈したまま、 本番はスタート。 俺は勝負の続きが気になって、それどころじゃない。番組が終了すると、なんとなくギスギスした雰囲気があたりを包み、議論は再開されることなく、結局、結論は水入りとなった――。

 翌月、もろもろの連絡が、再びグループ LINE に飛び込んできた。俺は火種の動向を見守った。もちろん最注目は、A子さんがどんな対応をとるかだ。なんせ「送りたくない」ってはっきり言っちゃったわけで、どうするのか気にならないわけがない。

 あの日、二人のバチバチを最前列で見ていた他のメンバーは、「よろしくお願いします。次回は●●で~」という具合にやたらと丁寧にレスを送るようになっていた。過去一、グループラインが仕事の連絡網っぽくなっていた。

 「了解しましたと打ったところで、本当に理解しているのかわからないから打つ必要がない」と主張したA子さんと、「スルーだと意思表示すらもわからない」と反論した社長の言い分、その良いとこ取りをしたような丁寧なレスポンス。みんな、感化されてしまっていた。

 だが、肝心のあの子はどうするんだろう? どんな表明をするのか、俺は固唾を飲んで、そのときを待った。

「確認しました」

 裏返っていた。しかも、きちんとその後に内容について記述している徹底ぶり。彼女がどういう思いで「確認しました」と返信したのかは定かではない。もしかしたら、嫌々応じているだけかもしれない。でも、その子の言い分は正論だったし、自分の主張を臆することなく、上司に伝えた姿勢は考えさせられるものがあった。

 そして俺も、これまで既読スルーし続けていたことを反省し、はじめてグループLINEに「了解しました」と送信した。

1980年北海道出身。2000年、東京NSC5期生同期の吉村崇とお笑いコンビ「平成ノブシコブシ」結成。「ピカルの定理」などバラエティ番組を中心に活躍。最近では、バラエティ番組や芸人を愛情たっぷりに「分析」することでも注目を集めている。デイリー新潮でも「逆転満塁バラエティ」を連載中。「もっと世間で評価や称賛を受けるべき人や物」を紹介すべく、YouTubeチャンネル「徳井の考察」も開設している。吉本興業所属。
公式ツイッター:https://twitter.com/nagomigozen 
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