柄本佑「この人は不倫に向いてない(笑)」泳ぐ目線、上ずる声… 柄本佑が演じる不倫夫の役作りがリアルすぎる!?

 結婚5年目の漫画家夫婦・佐和子と俊夫。しかし俊夫は佐和子の担当編集者と密かに不倫中。ところが佐和子が“不倫”をテーマに新作を構想。しかもその内容は現実とそっくりで…。不倫の真偽をめぐり夫婦が繰り広げる究極の心理戦に、世代を代表する実力俳優・黒木華と柄本佑が初共演で挑む! 佐和子の漫画に動揺する不倫中の夫・俊夫を人間味たっぷりに演じた柄本佑が語る「不倫に向いてない」人物像の役作りとは?

柄本佑(撮影・蔦野裕 スタイリスト・林道雄 ヘアメイク・星野加奈子)

ダメな不倫夫だけど…憎めない!?

脚本の段階から本当に面白いと思いました」と感嘆する柄本佑。本作は、映画作家・堀江貴大による、オリジナル作品の企画コンテスト「TSUTAYA CREATORS’ PROGRAM FILM 2018」準グランプリ作品。

「初めに脚本を読ませていただいて思ったのは、堀江監督は、老若男女を問わず楽しめるウェルメイドな映画を作ろうとしているんだろうなということでした。不倫をテーマにしつつも、サスペンスあり恋愛あり笑いもありという、ある意味、王道のエンターテインメントを作ろうとしているんだろうな、と」

 柄本が演じるのは、密かに不倫をしていたつもりが、妻・佐和子が“不倫”をテーマに新作漫画を描き始めたことで、バレているのかいないのかと動揺する夫・俊夫。

「最初に堀江監督から“一番悪いのは俊夫であることは間違いないんだけど、単純に、俊夫って悪いヤツだったね、という印象で終わらないようにしたい”と言われていました。確かに、不倫している俊夫が一番悪いんですけど、そんなダメなところに人間味が感じられるというか、親近感や温かみを感じられる人物像にしたい、と」

 やがて佐和子の漫画のストーリーは、夫に不倫されたヒロインが自動車教習所のイケメン指導員と恋におちていく展開に。実際に佐和子は自動車教習所に通っており、しかも以前とは打って変わって楽しんで通っている様子。もしかして“佐和子の不倫”も現実なのか…? フィクションであるはずの漫画の内容と、佐和子の言動にいちいち翻弄される俊夫。その姿は笑いと同情を誘い、自業自得とはいえ、なぜか憎めないキャラクターとなっている。

「要するに俊夫は“不倫に向かない男”なんです(笑)。僕自身、演じているときはそこまで理詰めで役作りをしていたわけではなかったんですが、それが核としてありさえすれば、監督が描いている俊夫像と重なるだろうなと思ったので、その辺りは常に意識しながら演じていました」

 確かに“不倫に向く男”だったら、相手を翻弄する側になっていたはず。

「もし俊夫が、不倫が上手にできるマメな男だったら、ただの“悪い男”になってしまっていたと思います。だから監督としては、そうでないところに俊夫像を落とし込みたい、ということでした。結果、自業自得だと思いつつしようがないな、こいつ…って思ってしまう人物になったと思います(笑)」

 監督のイメージに加え、現場で柄本自ら、細かな芝居にも“俊夫らしさ”を込めていった。例えばこんなシーン。俊夫が不安と疑心暗鬼にさいなまれるなか、佐和子が自動車教習所の指導員・新谷を伴って帰宅。俊夫はついに“疑惑の”新谷先生と対面する…。

「ところが佐和子が2階へ行ってしまい、俊夫は新谷先生たちと夕食を食べることになるんですが、食事しながら新谷先生から、佐和子が自分のことをどう話していたかを聞いて、俊夫はもう平静ではいられなくなってしまう。そこでやっと、ちゃんと佐和子と向き合おうとするんです。が、意を決して2階の佐和子のもとへ駆け出そうというとき、俊夫は箸でつまんでいたオクラをパクっと食べてから行くんです。実はあのシーンは、僕から監督に“いま箸でオクラをつまんでいるんですけど、これを食べてから向かうか、食べずに行くか、どっちにします?”と確認しました。すると監督も、思った通り“食べましょう”とおっしゃって。本来なら、そこは箸を置くべきなんです。オクラなんて食べてる場合じゃないんだから(笑)。だけど、この俊夫という男は、いよいよ夫婦の重大事に向き合うというときに、ちょうど手にしていたオクラをまず食べてしまう。そんなだから、妻の担当編集者と不倫もしちゃうんだろうな、という人間性が見える。映像的には、ただオクラを食べたというだけの行動なんですけど、後から思えばそういうところにも俊夫の人となりが現れていたんじゃないかなと思います。あれも台本にはなくて、現場で演じる中で生まれてきた俊夫らしさでしたけど、台本に書かれた平面の世界から動き出すものを1つでも作ることができたら役者としては、やってよかったと思います」

 ダメダメだけど詰めが甘くてなぜか憎めない。身近にこんな人がいる…という人も多いのでは。

「俊夫は、何の作為もなく、ただなんとなくそういうことをしちゃうんです。だから、どこか憎めない。お前、そういうとこだぞ、と言いたくなりますけど(笑)、見る人が身近に感じられる人物になったんじゃないかと思います」

 柄本にも“そういうとこだぞ”と言われがちな一面が…?

「人の話を聞かない、というところです(笑)。全然覚えてなくて“あのとき、わりと真剣に聞いていたよね!?”と驚かれることがたまにあります。おそらく、全然別のことを考えてしまっているんですよね。こればっかりは申し訳ないけどあきらめてもらうしかないかな…。しようがないな、こいつ、と思っていただければ(笑)」

 漫画家同士の佐和子と俊夫だが、どうやら現在、売れっ子の佐和子にひきかえ俊夫はスランプ中なのかまったく漫画を描いていない様子。そんな同業夫婦のすれ違いをどう見た?

「察するに佐和子と俊夫は、もともとは先生とアシスタントという関係。それが現在は逆転してしまっている。でも俊夫が漫画家としての嫉妬心から浮気に走ったという設定にしてしまうと、この物語が描きたいところからズレてしまうと思いました。僕が思うに、俊夫は漫画が描けないという問題を抱えつつも、佐和子のほうが売れているという今の状況自体は、わりとのんきに受け入れているんだと思います。もし、佐和子が自分よりも売れる漫画家になったことが面白くなくて担当編集に手を出した…ということになると、漫画家同士の妬みが軸になってしまい、この痛快さは出てこなかったと思います。同時に、奈緒さんが演じる俊夫の不倫相手である女性編集者・千佳がかなりサバサバしているのも、この作品の面白いところ。結局、一番楽しんでいたのはこの人だったんじゃないかな(笑)。俊夫との情事も遊びとして楽しんで、編集者としての成果もしっかり出してしまうという…」

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