バッファロー吾郎・竹若さんの大喜利回答を見て、自分の「尖り」は丸くなっていった〈徳井健太の菩薩目線 第133回〉

“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第133回目は、“尖り”について、独自の梵鐘を鳴らす――

徳井健太

今まで自身の成り立ちや、お笑い観について語ることのなかったくりぃむしちゅー・有田哲平さん。改名前のコンビ名である海砂利水魚として『ボキャブラ天国』で人気者となるや、その後は爆笑問題さん、ネプチューンさんらとともに関東芸人の雄として、今に至る。

 そんな有田さんから、お笑いの話をあまり聞いたことはない。プロレスや格闘技のときは、聞く者すべてを魅了してしまうくらい立て板に水で話してくれるのに、お笑いの話となるとシャッターを閉ざしている印象さえあった。有田さんはお笑いをどう見たり、考えたりしているのか――もし、そんな機会があったら、こんなに情熱的なことはないだろうな、なんて考えていた。

「徳井としゃべりたい」

 そう言ってくれたそうだ。東野(幸治)さんから、(デイリー新潮の)コラムの逆指名をしていただいたときもそうだったけど、うれしい悲鳴。もう、うれしすぎて嬌声。

 芸人たちが賞金を狙ってお笑いトーナメントに臨む『ソウドリ』。その中の「ソウドリ解体新笑」という企画内で、有田さんとお笑いについて話をする機会に恵まれた。

 有田さんから教えてもらった話は、示唆に富むものばかりだった。番組で放送された内容は、その後ネットニュースになって多くの人の目に触れたと思う。有田さんのターニングポイントが萩本欽一さんだったり、やっぱり話してみないと開けることのできない扉ってたくさんあるんだなと再認識した。

 つい数年前まで(今もかもしれないけど)、自分をお笑いナタリーだと思っていたため、有田さんにぶつけてみたい質問は、体の中から自然とわき出るものばかりだった。本当に俺が聞いてみたかったことばかり。だから、素直な気持ちで話を聞かせていただいたという心地よさがあった。

『ソウドリ』はお笑い業界関係者が、『ゴッドタン』同様、こぞって見ていることでも知られる番組。放送後、たくさんの業界関係者から声をかけていただいた。その反響の大きさに、あらためて今までどれだけ有田さんがお笑い論をクローズドしていたかをうかがい知る。

 ふと、自分の若い時代を思い出してしまった。あの頃は、ホントに尖っていた。

 何かを志して、青春の蹉跌を味わうまで、人はなかなか丸みを帯びない。こと芸人においては、尖っているか、尖っていないかは、売れるか、売れないかくらい、大きなテーマだと思っている。

『敗北からの芸人論』の大きなテーマにもなっているし、先の有田さんにおける萩本欽一さんの存在もそう。芸人にとって、尖りがどう削られ、丸みを帯びいくかは、岐路そのものだ。

 自分はどうだっただろう。おそらく10年くらい前から尖りが取れてきたような気がする。いろいろな要因が重なって丸くなる。その中に、とても印象的なことがあった。

 あるとき、バッファロー吾郎の竹若(元博)さんや、(千原)ジュニアさんたちとともに、大喜利をする機会があった。なぜか俺は関東代表として選ばれ、額に汗して参加したことを覚えている。

 記憶の奥底にあるから、具体的な回答は思い出せない。だけど、とにかく竹若さんの回答が面白かった。すさまじかった。

 竹若さんの横に並んで回答していた俺は、それなりに考えつくような答えを書いては、頭を悩ませていた。そんな俺を尻目に、竹若さんの答えはギョッとするものばかりで、ギアがまるで違うと痛感した。普通、車は徐々にスピードを上げていく。大喜利の回答も一速、二速じゃないけど、アイデアやインスピレーションには段階があって、次第に自分が面白いと思う回答にたどり着く――はずなのに。

 竹若さんは、創造力の初速が桁違いで、1秒後には時速80キロくらいに到達するような回答を連発していた。積んでいるエンジンが違うんだと、俺は爆笑しながら砂を噛んだ。でも、竹若さんは、ゆるい感じで笑って、「違うか~」なんて次の回答を書き始めていた。「あ、この人、まだ本気じゃないんだ」。木っ端みじん。ウサイン・ボルトと走ると、こんな感じなんだろうなと思った。

 竹若さんの他にも面白い芸人がたくさんいる。自分の回答に対してではなく、俺は心の底から「ダメだな」と天を仰いだ。大喜利はまだ続いている。だけど、大して面白くもないくせに、面白いフリをしていた自分が恥ずかしくなった。大きな壁を感じたとき、今までやってきたことがポーズだったんだなって気が付く。これからは“フリ”はやめよう。その日の大喜利は、自分自身に大きな回答を出したのだと思う。

 本当に美味しい食べ物を食べたことがないのに、通のふりをして寿司を食べるような、そんな見栄に自分自身で舞い上がって、踊ってしまう。かんぱちとぶりの区別もわからないような人間が、何を気取って、「このネタはこうやって食った方がうまいんだ」なんて悦にひたっちゃうのか。見栄と尖りは、表裏一体。

「とっても美味しいですね。この魚って何ですか?」

 たとえ知っていたとしても――。そう普通に言えるようになったとき、人は初めてスタートラインに立つことができるんだろうなって思う。

【プロフィル】
1980年北海道出身。2000年、東京NSC5期生同期の吉村崇とお笑いコンビ「平成ノブシコブシ」結成。「ピカルの定理」などバラエティ番組を中心に活躍。最近では、バラエティ番組や芸人を愛情たっぷりに「分析」することでも注目を集め、22年2月28日に『敗北からの芸人論』を発売。「もっと世間で評価や称賛を受けるべき人や物」を紹介すべく、YouTubeチャンネル「徳井の考察」も開設している。吉本興業所属。
公式ツイッター:https://twitter.com/nagomigozen 
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UC-9P1uMojDoe1QM49wmSGmw