BUMP OF CHICKEN、サンボマスター、WANIMA、粗品、オードリー、ボクはもっとキミやアナタに届けたかったのかもしれない!〈徳井健太の菩薩目線 第200回〉

平成ノブシコブシ 徳井健太

“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第200回目は、これからのお笑いに求められることについて、独自の梵鐘を鳴らす――。

 

 BUMP OF CHICKENは、ライブでファンに向けて何かを話すとき、“キミ”“アナタ”と呼ぶと教えてもらった。「キミに歌いに来た」、「アナタのために」―、そう伝えるそうだ。

 ミュージシャンのライブ映像を見ていると、ファンに対して“キミ”“アナタ”と呼びかけている人が多い。サンボマスターは“アナタ”と言い、WANIMAは“キミ”と伝える。

 お笑いじゃあり得ない。なぜ芸人はそう呼ぶことがないんだろう。

 僕たちお笑い芸人は、目の前のお客さんを笑わすことに必死だけど、その数が50人、100人、1000人と増えていっても、「お客さん」という感覚が変わることはない。数が多ければ多いほど、笑いのボリュームは大きくなって、僕らは快感にも似た手ごたえを感じる。

「爆笑」という言葉があるように、笑いは束になると爆発したように弾ける。そんな爆笑を求めて、僕らは人を笑わすことに夢中になる。

 音楽は、ストリートからスタートして、段々とステージを上げていく人が珍しくない。徐々にステップアップするという意味ではお笑いも同じだけど、僕らはウケた笑い声のボリュームに痺れ、気が付くと人の数よりも笑いの量に支配されてしまっている。目の前の人たちが感動してくれることに対して、鈍感になっているといってもいいかもしれない。

 少しずつファンが増えていくという意味では、芸人もミュージシャンも同じはずなのに、どうしてこうも異なるのか、やっぱり不思議に思ってしまう。

 たとえば、1万人に向けてパフォーマンスをするとき。お笑いは、演者が面白いか面白くないを重視するから、 1万人に向けてパフォーマンをしたとしても、「ウケる」というたった一つの解だけでいい。

 でも、音楽はそうじゃない。受け手であるお客さんの感じ取り方も1万通りあるだろうから、喜怒哀楽、全部の感情をごっちゃにして聴衆に響かせなきゃいけない。ある人は刺さるかもしれないし、ある人は刺さらないかもしれない。だから、まるっとひとまとめにしないためにも、“キミ”や“アナタ”といった言葉が自然とこぼれてくるのかな、なんて考える。

 先日、『オードリーのオールナイトニッポン in 東京ドーム』が行われたけど、ラジオはどこか、“キミ”や“アナタ”の世界に似たところがある。リスナー一人ひとりの受け取り方は違っていて、単に面白いだけではなくて、心に届くかどうかが問われる。

 ラジオ発のイベントだとしても、これからお笑いを考えたとき、こうした関係性がそこそこ大事なウェイトをしめてくるような気がするのは、僕の杞憂でしょうか。

 M-1を筆頭とした賞レースは、素晴らしくて尊い。一方で、そこだけにフォーカスを合わせると、なんだかお客さんを置いてけぼりにしてしまいそうで。賞レースで勝つってことは、「俺らが一番おもろいんだ」ってことを証明するためにやっているわけだから、お客さんの感情が入り込む余地はない。笑わせたら勝ち、笑わせられなかったら負け。そんな世界がだいぶ長く続いているから、芸人とお客さんの間に大きな空白地帯があるような気がする。

 コロナ禍を機にリモートが定着し、ネット配信が根付いたことで、間接的にその区間は縮んだ。直接反応が届くようになって、流れもなんだか変わった。

 粗品が、日本武道館で「チンチロ」を開催したとき、僕はちょっと感動した。自分のYouTubeチャンネルで人気の高い、ギャンブル4兄弟 (粗品・前田龍二・シモタ・大東翔生)が、ただチンチロをするだけ。

 ただ信じるだけ。舞台に上がる人間の熱量と、4兄弟の仲の良さだけで成立させてしまう。そして、それを目撃する武道館のお客さんが笑って熱狂する。粗品のライブは、本人が意識しているかどうかは分からないけど、「面白い」「面白くない」だけじゃない、形容しがたい人間の感情がだだ漏れて、ほとばしっている。お客さん一人ひとりに刺さる、何かしらの感情。やっぱり粗品は天才で、先頭を走っているって脱帽する。

 お笑いは、一方通行なんだと思う。面白い人たちがネタをやったとき、お客さんがそのネタに自分の思い出を重ね合わせることは難しい。回転寿司のような便利さと大衆性を備えているから愛されているけど、“キミ”や“アナタ”だけに向けた特別感って、もっとあってもいいんじゃないのって。

 いや――、そんなことを考えず、やっぱり「面白い」か「面白くない」だけの世界を駆け抜けた方がいいのかもしれない。だけど、これからはもっとお笑いの世界にも、“キミ”や“アナタ”の感覚が求められるような気がする。

【プロフィル】1980年北海道出身。2000年、東京NSC5期生同期の吉村崇とお笑いコンビ「平成ノブシコブシ」結成。「ピカルの定理」などバラエティ番組を中心に活躍。最近では、バラエティ番組や芸人を愛情たっぷりに「分析」することでも注目を集め、22年2月28日に『敗北からの芸人論』を発売。「もっと世間で評価や称賛を受けるべき人や物」を紹介すべく、YouTubeチャンネル「徳井の考察」も開設している。吉本興業所属。
公式ツイッター:https://twitter.com/nagomigozen 
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UC-9P1uMojDoe1QM49wmSGmw