世界初の線虫がん検査「N-NOSE」発明から10年 広津崇亮氏が語る挑戦と未来への決意
「がんは怖い病気という思いをなくしたい」。そんな思いから生まれた世界初の線虫がん検査「N-NOSE」が発明から10年を迎えた。少量の尿で全身のがんリスクを調べられるこの革新的な検査は、累計80万人が受検し、多くの早期がん発見に貢献している。技術開発から事業化、そして世界展開への道筋まで、すべてを自ら切り開いてきたHIROTSUバイオサイエンス代表取締役社長の広津崇亮氏に、10年間の歩みと今後の展望について聞いた。

生物の力を信じて踏み出した第一歩
N-NOSEの発明のきっかけを改めて教えてください。
「もともと私は線虫の専門家として大学で研究していました。当時からがん検査の状況が気になっていて、精度が高いものは高額で、安価なものは精度が低い。さらにがん種ごとに別々の検査が必要で煩雑です。これらすべてを解決する検査があれば、もっと多くの人が受検するのではないかと考えました。
そこで生物の嗅覚に着目したのです。がん探知犬の存在を知り、線虫にも犬に匹敵する優れた嗅覚があることを思い出しました。線虫なら育成コストもほとんどかからず、雌雄同体なので繁殖も簡単です。機械では真似できない微量物質の検知能力を生かせば、安くて精度が高く、全身網羅的な検査が実現できると確信しました」
発明から事業化まではどのような道のりでしたか。
「最初は企業との連携を模索しましたが、新しい技術への理解や意思決定にはどうしても時間がかかり、スピード感をもって社会実装を進めるには自ら起業するしかないと判断しました。大学教員職を辞めるのは大きなリスクでしたが、自分で開発した技術だからこそ確信が持てましたし、リスクのないところに成功はないと思っていました。
ただ、すぐにサービスを開始するのではなく、4年間を臨床研究に費やしました。科学者として、証明が終わっていない技術を世に出すわけにはいかなかったからです。証明に専念していた時期は収益のない期間でしたが、その間も技術の可能性に共感してくれるパートナーたちの支援に支えられ、着実に歩みを進めることができました」