音楽・服部百音×食・長江桂子の表現の世界「シェフパティシエにはチームをまとめる力が必要」

 若い頃から世界と渡り合ってきた天才は何を考え、どんな選択をしてきたのだろうか。音楽と食、それぞれの領域で活躍してきた2人の女性が語る仕事、海外と日本の違い、そして未来とは。SDGs17の目標達成のヒントとなる話題を各界の著名人やビジネスパーソンが語り合う「シリーズ:未来トーク」。今回はヴァイオリニストの服部百音さんと、パティシエで「クレソンリバーサイドストーリー旧軽井沢」総料理長の長江桂子さんに話を聞いた。(全3回のうち第2回/第3回へ続く)

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上:ヴァイオリニストの服部百音さん(左)、パティシエで「クレソンリバーサイドストーリー旧軽井沢」総料理長の長江桂子さん/下:演奏家としての評価は「公演本数でもチケットの料金でもなく、演奏した結果が人に伝えられたかどうかがすべて」という服部百音さん(撮影:蔦野裕)

私は目標に向かって自分を信じて進んできただけ

 まるで運命に導かれるように音楽と食の世界に入った2人。それぞれの分野のプロフェッショナルとして歩んできたが、ヴァイオリニストとパティシエを職業として選んだ意識はないという。

服部百音(以下、服部)「私は “ヴァイオリニストの服部百音” と紹介されますが、自分がヴァイオリニストであるとか、どういうヴァイオリニストになりたいという意識はなく、音を通じて “美しさのあり方” を伝えているにすぎないと思っています。世の中には数えきれないほど多くの作曲家や演奏家がいるけど、その評価は公演本数でもなければチケットの料金でもない。演奏した結果が人に伝えられたかどうかがすべてで、本質的な部分というのは目に見えないものです」

長江桂子(以下、長江)「私は弁護士を目指し勉強した後にお菓子の世界に入りましたが、多くの人は14〜15歳の頃から修行を始めているので、こうした経歴を持つ人間はまずいません。一般的に弁護士と比べてパティシエの社会的地位は低いとされていますから、特に欧米でインタビューを受けると、何度も “親に泣かれたでしょう” と言われました。

 当時はシェフがメディアに登場すること自体が珍しく、私が注目されたのは料理やお菓子の国家資格を持たず、日本人で女性でありながらわずか3〜4年の修行で3つ星レストランのシェフパティシエに抜擢されたから。多くのメディアから “なぜパティシエになったのか” と聞かれましたが、私は自分がやりたいことや目標に向かって自分を信じて進んできただけ。今はパティシエという仕事をしていますが、将来はまったく違う分野に挑戦しているかもしれません」

服部「その瞬間その瞬間に心地いいか、魅力を感じられるかという感覚だけで物事を選び続けるのは、実はとても難しいことですよね。なぜなら今は情報があふれていて、少しでも考えることをやめるとすぐに他の方向へ流されてしまうから。常に自分の感覚を信じて突き進むためには、孤独の中で自分自身と向き合い続ける必要がありますが、それを実際にやり遂げられる人はごくわずかです」

長江「私の場合は幸運にも良いタイミングで、良い場所で、良い人に恵まれたと思います。三つ星シェフのミッシェル・トロワグロは、シェフパティシエが他店に移るタイミングで通常なら2番手が昇格するか外部から迎えるところを、3番手の私に “やってみないか” と声をかけて『オテル・ランカスター』のシェフパティシエを任せてくれたのです。2番手のシェフは私と同い年ですがパティシエとしての経験は15年のうえ、長年勤務していてレストランの人間関係やお客様にも精通している人でした。

 さすがに驚いて彼にきちんと話をしたのか尋ねると、返ってきたのは “シェフパティシエには技術だけでなくチームをまとめる力が必要なんだ“ ということ。それだけの理由でたった3年しか経験のない私にチャンスを与えてくれたのです。突然訪れたチャンスに尻込みする人もいるかもしれませんが、私はせっかく扉を開けてもらったのだから一度そこに飛び込んでみたいと思いました」

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