主催に才能やカリスマ性、責任感と話題性があれば、お笑いでも音楽でも福袋的ライブは成功するはず〈徳井健太の菩薩目線 第267回〉

平成ノブシコブシ 徳井健太

“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第267回目は、シークレットライブについて、独自の梵鐘を鳴らす――。

 前回の『菩薩目線』で、ライブはもっと福袋的な見せ方があっていいと触れました。例えば、「ライブハウスの店長オススメのバンド3組」とか、そのライブハウスにゆかりのある有名アーティスト〇〇がオススメする「今、見るべきバンド3組」とか。その際、演者の名前はあえて出さない。「この人がオススメするんだから面白そう」というお客さんの興味、その一点突破に思いをかける。

 昨今、ハズレを引きたくない人が増えているから、こうしたシークレットライブは悪手になるかもしれない。だけど、音楽ファンを信用するという意味においては、やってみる価値はあるのではないかと思うんです。というのも、お笑いの世界では、昨年8月に似たようなことを実際にやっているから。

 きっかけは、はんにゃの金田と小薮さんの口論だった。といっても、酒の席で金田が一方的に「東京の方がすごい」とまくし立てた結果、小藪さんが「だったら白黒つけようやないか」と腰を上げただけなんだけど。その一部始終は、YouTubeチャンネル『ざっくりYouTUBE』で確認できるので、まだご覧になっていない方は時系列を追ってみると面白いと思います。

 ベロベロとはいえ、「大阪すごいですけど、東京の方がすべてにおいて上なんで」などと言ってのける、金田のよく分からない根拠はどこから来るのか分からないけど、こうして去る8月、『東京芸人vs大阪芸人 どっちがおもろいか見てるお客さんの投票で決める!!』と題したライブが、ルミネtheヨシモトで行われることになったのだ。

 このライブは、先鋒戦から大将戦まで――つまり、東京から5組、大阪から5組が登場し、対戦するというものだった。しかも、東京からは「くまだまさしさんが参戦する」「大阪からは天竺鼠が参戦する」という情報以外はシークレット。当日、残りの8組は誰が登場するのかまったく分からないままチケットが売り出されたにもかかわらず、飛ぶ鳥を落とす勢いで完売。この背景には、YouTubeで小薮さん、そして金田が定期的に「東京VS大阪」を煽っていたことも大きいけど、何にしてもやり方次第でシークレットライブは、話題性や購買力を向上させることができる――。物語に加え、小藪さんと金田というブランド力があるからこそ、秘匿性が話題性へと裏返ったのだ。

「一体、誰が登場するんだろう?」。そんなワクワクが渦巻いている中に登場したのが、我々、平成ノブシコブシである。金田から直接オファーがあって、僕らは受けることにしたものの、実は僕たちですら誰が東京代表として選ばれているのか、そして小薮さんが誰を大阪代表にしているかも知らなかった。だからなのか、僕らも妙な緊張感を抱えながらルミネに向かったし、何とも言えない高揚感を覚えながら出番を待っていた。

 幕が開けると、大阪代表はチュートリアル、笑い飯、NONSTYLE、ちゃらんぽらん富好、天竺鼠。瀬下にいたっては、このライブが本格的な復帰の場というサプライズ。対して、東京代表は僕たち平成ノブシコブシ、ザ・パンチ、インポッシブル、くまだまさし、品川さんと脇田さんの即席コンビ・シナガワッキー。どう考えても弱すぎます。僕だって、こんなこと言いたくない。でも、小藪大阪最強打線に対して、我々金田東京軍の線の細さったらない。金田、そりゃないって。東京代表の芸人は、みんな、「たぶらかされた」と思ったに違いない。

 大将戦は、シナガワッキー VSチュートリアルだった。M-1王者であるチュートリアルさんに、即席コンビが立ち向かうって……。竹やりを持たされた品川さんと脇田さんのことを思うと、僕らは袖で、無能な指揮官をうつろな目で見つめるしかなかった。金田ぁ、金田よ。

 金田はひどく反省していた。でも、結果的に金田の小薮さんに対する根拠のない一言がなければ、この興行は実現しなかったわけで、その一点だけでも金田はスーパーファインプレーをしたと思う。当日、誰が登場するかも分からないのに、たくさんのお客さんが来て、「面白い」と言ってくれたのは、金田の野心があったからじゃないか。

 それに、このフォーマットはいろいろなことができそうじゃないか。小薮さんがオススメする大阪若手5組VS金田がオススメする東京若手5組の「東西若手死闘編」とか。あるいは、「テレビ向きじゃないけど見て損のない東西芸人地下闘技場編」とか。そういった可能性があることを示したという意味で、僕は『東京芸人vs大阪芸人 どっちがおもろいか見てるお客さんの投票で決める!!』はとても素晴らしいライブだったと思うし、その第一回目に登場することができてうれしかった。

 それなのに、金田はそこまで考えていないから困った。しかも、ひどくダメージを負ったようで、「もうやりたくない」らしい。自分で始めた物語を、自分で終わらすスピードが早すぎるだろ。お前の無鉄砲の発言が奇跡みたいなライブを作ったんだから、そんな簡単にやめるなんて言うなよ。何も考えずにやってみたらいい。東京芸人の監督がはんにゃ・金田ってところを含めて面白いんだぜ。だから、次回はもうちょっと策を練ろうな。

【プロフィル】
1980年北海道出身。2000年、東京NSC5期生同期の吉村崇とお笑いコンビ「平成ノブシコブシ」結成。「ピカルの定理」などバラエティ番組を中心に活躍。最近では、バラエティ番組や芸人を愛情たっぷりに「分析」することでも注目を集め、22年2月28日に『敗北からの芸人論』を発売。「もっと世間で評価や称賛を受けるべき人や物」を紹介すべく、YouTubeチャンネル「徳井の考察」も開設している。吉本興業所属。
公式ツイッター:https://twitter.com/nagomigozen 
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講演依頼:https://www.speakers.jp/speaker/tokui-kenta/
     https://www.sbrain.co.jp/keyperson/K-19533.htm
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