サステナブルな食環境の実現に向けたシンポジウムが3月17日、東京・新宿区の早稲田大学先端生命医科学センターで開催。食料安全保障をテーマにしたパネルディスカッションでは、食料価格の高騰や世界的な供給不安を背景に食の安全保障への関心が高まる中、外食大手やフードテックのスタートアップなどの識者が議論を交わした。
ムーンショット型農林水産研究開発事業と早稲田大学未来食産官学共創コンソーシアムによる合同公開シンポジウム「食の安全保障に資する基礎研究、実用化研究、グローバル競争力を強化するためには」。その一部として行われたパネルディスカッション「食料の安全保障にどう貢献できるのか、すべきなのか、したいのか?」では、各界の識者が行政・企業・アカデミアの立場から“食の安全保障”についてディスカッションした。
食料安全保障とは、国民が必要な量と質の食料を安定的に入手できる状態を確保することを指す。
早稲田大学の下川哲教授はまず「食料安全保障については、いかに供給するかといった生産面が注目されがちだが、消費者行動が与えるインパクトは大きい。消費者がどのように食と向き合うかを考えることは重要だ」と語り「“食の安全保障”と“食の豊かさ”は切り分けて考える必要性がある。最低限の食料供給は政府が責任を負うべき領域であり、公的支援も必要。一方で、食の豊かさは消費者が対価を払って好きな食べ物を楽しむもの」と解説。
外食大手の視点では、ロイヤルホールディングス会長の菊地唯夫氏が、企業は今“無限の成長”よりも、有限な資源の中でいかに企業の存在意義を示せるかという意識がステークホルダーからも求められていると語り「例えば次世代食をおいしく提供して広めるなど、飲食店も今後はいろいろな役割を果たしていかないといけないと思う」と意欲。
最先端技術によるモジュール式農業を展開するSquare Roots Japanの横山洋樹代表は、環境の影響を受けにくい安定供給手段として室内農業の可能性を語りつつ「最新技術によって栄養価を調整することや、10年後の気候変動に対応した作物の研究なども可能。また都市型農業として、担い手不足の問題にも貢献したい。都市で、家からも通えて、若い世代なども短期の訓練で従事でき、前向きに参画できる、新たな農業のかたちを広めていきたい」と語った。
野村證券でフード&アグリビジネスのコンサルティングに携わる石井佑基氏は「日本の食料政策はこれまで質を重視してきたが、今後は量の確保にも目を向ける必要がある」と指摘しつつ、消費者側も「とくに穀物などはローリングストックを意識したり、プラントベースフードのような新たな食材も取り入れる意識が求められてくると思う」。
国際連合食糧農業機関(FAO)駐日連絡事務所の代表・日比絵里子氏は「現在、世界の飢餓人口は11人に1人とされており、3人に1人が十分な栄養を得られていない。そういった食料・栄養不足をもたらす大きな要因が気候変動、紛争、経済停滞」と解説し、新たな技術や取り組みによる環境保全と食の安全保障の両立に期待。さらに「世界の裏側で起きた紛争によって、食の安定供給に影響が出る時代。世界共通で、一種類の食料や一つのサプライチェーンに依存しないことが重要。“こういうものも食べられるんだね”と視点を広げていく必要がある」とし「また食は、その生産から流通、販売まで、あらゆる分野が関係している。今や食の問題は一つの分野だけで解決できることではなくなっている」と分野を超えた議論や連携の重要性を訴えた。
気候変動や人口動態の変化など、食を取り巻く環境が大きく揺らぐ中、登壇者らは分野横断的な連携と、消費者を含めた社会全体の意識改革の必要性を共有。持続可能な食料供給に向けた課題と可能性を再認識する場となった。

