SearchSearch

村竹ラシッド選手と高嶋先生、教え子と恩師の関係は時空をも超える〈徳井健太の菩薩目線 第257回〉

2025.10.20 Vol.web original

“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第257回目は、選手と恩師について、独自の梵鐘を鳴らす――。

 皆さん、『世界陸上』を観ましたか?

 34年ぶりの東京大会。いやはや、ものすごい盛り上がりでした。僕もテレビに釘付けになった一人ですが、中でも男子110メートルハードルで5位入賞を果たした村竹ラシッド選手の活躍が忘れられません。

 村竹選手は、決勝5位という記録を達成しながらも、メダルを逃した悔しさからインタビュー中に涙を流しました。「何が足りなかったんだろう」「何が間違っていたんだろう」と自問しながら、言葉を紡いでいく姿は、なんだろう……何か大切なものを呼び覚ましてくれるような飢餓感を覚えたほどでした。

 後日、『ひるおび』で村竹選手と中学校時代の恩師である高嶋先生との交流が放送されたのですが、これがまた素晴らしくて。物語には、幕間があるんですよね。

 番組では、村竹選手が中学時代の指導を振り返り、とにかく「厳しかった」と。番組スタッフがそのことを高嶋先生に伝えると、「そうだったかな。特段、厳しくした気はない」とやんわり否定。否定というか、覚えていない雰囲気すら漂っていて。村竹選手は練習量がエグすぎたというけど、先生は「いやいや別に」とひらりとかわす。

 記憶というのは、本当にあいまいなものです。誰にでも、そうした思い違い、記憶のすれ違いはあるはずです。『アンパンマン』の映画で、僕は確かに観たんです。後世に伝えたくなるような名シーンを。ところが、あらためて同じ映画を観てみたら、そんなシーンはまったくなかった。「あのシーンがいいんだよね」と興奮気味に語っていた僕を、不思議そうに見ていた理由が分かった。そんなシーンはないんだから、心配してくれていたんです。

 記憶の差異こそあれど、村竹選手にとって、高嶋先生は恩師と呼べる存在に変わりはない。

 あの日、村竹選手は、今までの記憶がフラッシュバックしながら、ハードルを飛び越えていったのかもしれない。高嶋先生は、TBSの石井アナウンサーがインタビューをする、その少し後ろで激走を終えた村竹選手の姿を見守っていた。

「何が間違っていたんだろう」

 その言葉を聞いた瞬間、高嶋先生は当たり前のように「全然間違ってなかったよ」と返していた。ささいなやり取りだけど、この何気ない言葉の返し方と、彼が発した感情を受け入れる広さに、‟恩師”という存在を見た気がした。

『世界陸上』の放送では、高嶋先生の言葉は乗らない。これは『ひるおび』のカメラが高嶋先生越しに、とらえたインタビューの映像だから、この特集でしか聞くことができない答え合わせが、たくさん詰まっていた。先生は、「泣いているってことは悔しいってことだよね。じゃあ、その気持ちがあるんだったらいいよね」と話すと、「まだ続けるんでしょ」と声を掛けた。

 届かなかった選手に、この言葉を伝えることは、ものすごく残酷だと思う。先生は分かっているはずなのに、あえてそう言った。その言葉を聞いて、村竹選手は、「自分の脚がもつかぎり、何年かかってもメダルを取りたい」と誓いを立てた。恩師である高嶋先生がいたから、村竹選手は、生きている言葉を吐き出せたのだと思う。時空を超えた関係に、僕は感動した。

 選手の数だけドラマがある。だけど、勝者と敗者に分かれてしまう。陸上競技は、それがほんの数秒で決まってしまうこともある。だから、マインドの整え方とか、日ごろのルーティンが、めちゃくちゃ大切なんだろうなとも思う。たしかに、ノア・ライルズといった超一流選手は、みんなルーティンがあって、大舞台であっても、常人には説明のつかない安定感を、オーラとともに発していた。

「それでいったら、M-1の決勝に立つ芸人もすごいよね。たとえば、ミルクボーイなんて、あの年はほとんどテレビ出演がない状況下で、M-1で漫才を披露した。噛んだり、飛んだりしてもおかしくないのに、どうして大舞台であんな高いパフォーマンスができるの?」

 隣で耳を傾けていた、「菩薩目線」の担当編集A氏が尋ねてきた。言われてみれば、たしかにそうかもしれない。A氏の言葉を聞いて、昔、綾部が話していたことを思い出した。

 綾部は、ある後輩に自分の立ち居振る舞いを語っていて、僕はたまたまその場に居合わせた。後輩は、僕らも認めるくらい面白い。ライブでは過激な発言もいとわなく、トーク力もある。だけど、テレビではその尖がった部分が影を潜めてしまって、いまいち迫力に欠ける。一言でいえば、ムラがあるのだ。綾部はこう言い切った。

「お前は、舞台とか人によって変えるから良くないんだよ。お前が日ごろ使っている過激なフレーズ。『アメトーーク!』でも言えばいいじゃん。でも、お前は言わないで、借りてきた猫みたいな言葉をしゃべる。それじゃ俺に勝てるわけない。どんな小さなライブでも、『アメトーーク!』に出ているような気持ちで話せよ。普段からそうしているから、大きな番組でもそれができるんだよ」

 綾部は売れるべくして売れたのだと思った。その通りだ。どんな場所にいても、大舞台でやるように振る舞う。そういう人が、人々の気持ちを掴むんだ。

村竹ラシッド・12.92【アフロスポーツ プロの瞬撮】

2025.09.10 Vol.web original

 スポーツ専門フォトグラファーチーム『アフロスポーツ』のプロカメラマンが撮影した一瞬の世界を、本人が解説、紹介するコラム「アフロスポーツの『フォトインパクト』」。他では見られないスポーツの一面をお届けします。

陸上男子110m障害で村竹ラシッドが5位入賞。「来年の世界陸上では必ずメダルを獲りたい」【パリ五輪】

2024.08.09 Vol.Web Original

「パリ2024オリンピック競技大会(パリ五輪)」の大会14日目となる8月8日(現地時間)、陸上の男子110mハードルの決勝が行われ、村竹ラシッドが13秒21のタイムで5位入賞を果たした。

 村竹は7日に行われた準決勝で全体8位のタイムで決勝に進出。日本選手がこの種目で決勝に進出するのは今回が初めてだった。

 9レーンからスタートした村竹は1台目のハードルを倒したものの、2台目以降は落ち着いた走りでスピードを上げ、5着に食い込んだ。1着は12秒99のグラント・ホロウェー(アメリカ)、2着は13秒09のダニエル・ロバーツ(アメリカ)、3着は13秒09のラシード・ブロードベル(ジャマイカ)だった。

136連勝のレスリング藤波朱理が金メダルかけてジェペス グスマンと対戦【パリ五輪】

2024.08.08 Vol.Web Original

「パリ2024オリンピック競技大会(パリ五輪)」の大会14日目となる8月8日(現地時間)、日本勢は多くの選手がメダルに挑む。

 レスリング女子53キロ級の藤波朱理は決勝でエクアドルのルシア ヤミレト・ジェペス グスマンと対戦する。藤波は1回戦でドミニク・パリッシュ(アメリカ)に準々決勝でフラン・バトフヤク(モンゴル)にいずれもフォール勝ち。準決勝では東京五輪の銀メダリスト龐倩玉(中国)に10-0のテクニカルスペリオリティ勝ちを収めた。藤波は公式戦での連勝記録を「136」に伸ばしている。

 陸上の男子110mハードルでは村竹ラシッド7日に行われた準決勝で全体8位のタイムで決勝に進出。この種目では日本選手が決勝に進出するのは初めての快挙。

 卓球の女子団体は準決勝でドイツと対戦する。早田ひなが左腕を痛め万全な状態ではない中、平野美宇、張本美和がサポート。1回戦はポーランド、準々決勝はタイをともに3-0のストレートで破り、準決勝に進出。ここで勝てばメダル獲得が決まる。男子は団体準決勝でスウェーデンに敗れて、9日に行われる3位決定戦に回っているだけに、一足お先にメダル獲得を決めたいところだ。

Copyrighted Image