【インタビュー】トニー賞ノミネートの問題作が日本初上演。高畑淳子「人生の選択について考えさせられる作品」

ヘアメイク・井手奈津子
 振り幅のある変幻自在な演技で舞台、ドラマ、映画に引っ張りだこの高畑淳子。圧倒的な演技力と存在感で見るものを引き付ける。

「すごく飽きっぽいんですよ」と高畑。「ある役をやったら、次はそこから一番遠い役をやりたくなる。そして次もまた一番遠い役って。変な役が好きなんです。変な役のほうが上手かも知れない。上手というより、まともな役が下手って言ったほうがいいかも知れませんが(笑)。若い頃に犬とかカエルとか手とか、そういう役をやっていたので、普通の人間が上手にできなかった。どうしても犬やカエルになってしまうのですが、段々年を重ねてきて今は少しずつ人間になりつつあるのかな(笑)」

 そんな高畑が9月の舞台で演じるのは、元・物理学者。鶴見辰吾、若村麻由美との3人芝居だ。

「物理学者というときっちりしている人のようですが、結構面白い役です。若村さん演じる古い友人が、私が演じるリタイアした物理学者の家に突然訪問してくるのですが、私はその訪問の目的が分からず振り回される。その狼狽ぶりも滑稽なんですが、時間になったら自分が決めたルーティンはきちんとこなす。あたふたしているけど、几帳面という実に人間っぽく愛おしい女性です」

 同作は弱冠30代前半のイギリスの女流作家の作品で、2018年のトニー賞BESTPLAY賞にノミネートされた注目作。今回、日本で初上演される。

「地震による津波の影響で原発事故が起き…という3.11の福島をモチーフにしているので、難しそうなお芝居だと思われる方がいるんですけど、それだけじゃないんですね。妙齢な男女3人の会話で進行していくんですけど、演劇の国であるイギリス人作家らしく、セリフはウイットに富み、ユーモアや毒っ気を含んでいます。そこに人間くさいところも見えますし、抱えている問題は大きいのですが、日常生活の事で、ああでもない、こうでもないと右往左往する人間のドラマでもあります」

 鶴見、若村とは意外にも初共演だとか。

「鶴見さんも若村さんも映像のお仕事ではご一緒したことがあるのですが、舞台で共演するのは初めてです。今回の芝居はセリフ量が多いのと、作家さんの指定が多いので、異例ですが、すでに読み合わせをしたんです。セリフの言い方やタイミング、込められた心情まで細かくカッコやスラッシュで指定していて、こんなに記号の多い台本は見た事がない。稽古に入る前に読み合わせをするのも初めてなら、本番の2カ月前からセリフを暗記するのも初めてです。そんな事もあって、ポスターを撮る時もずっと3人で、この芝居の事を喋っていました。みんなすごく喋るんですよ(笑)。その時にラインのグループを作ったんですが、若村さんは原子力の論文とかを送ってくる(笑)。すごく探求心が強くて、物理学者の役なので、原子力や世界の状況を知っておきたいという思いがあるんですね。鶴見さんはとても物知りな大人。2人のじゃじゃ馬のバランスを取る役になりつつあります(笑)」


『チルドレン』というタイトルの意味は。

「意味深なタイトルですよね。でもお芝居を見ていただければはっきりと分かります。そしてとてもふさわしいタイトルだということも。昔、同じ原発で一緒に働いていた3人の元物理学者が、残された人生をどう生きるか。自分たちの作ったものをこのまま後世に残すのか、未来に何をどう引き継ぐのか。人生の選択について考えさせられる作品です。それを会話でユーモアを交えつつ、ロジカルにストーリーを構築していく。すごい作品だと思いますね」

 何を残すのか、何を手放すのか。必ず訪れる人生の終わりに高畑自身は何を残したいのか。

「30年以上前ですが、これが最後という覚悟で“セイムタイム・ネクストイヤー”という作品に出演したんです。30歳までに、役者としてやっていける目途が立たなければ、田舎に帰る約束だったので、本当にその芝居をラストにやめるつもりでした。ありがたいことに、今でも女優を続けていますが、そのお芝居を見たという方が、たまにいらっしゃるんですね。その方がいなくなったら無くなってしまう記憶ですが、そういう写真や映像には残っていないけど、どなたかの記憶に残るというのはすごい事かなと。ですから、今度のお芝居の事をどこかで目にした時に、不思議なタイトルにひかれ、足を運んでみたら、何だか思い出に残るお芝居だったなと思っていただければ、うれしいかなと思いますね」

『チルドレン』は、9月8日(土)、9日(日)に彩の国さいたま芸術劇場大ホールで、9月12日(水)~26日(水)に世田谷パブリックシアターで上演される。他、豊橋、大阪、高知、北九州、富山、宮城にて公演あり。