「これからが勝負」役所広司が明かす被災地支援への思い

20130415c.jpg 東日本大震災から2カ月後、宮城県南三陸町に"全員、素人"のラジオ局が誕生した。防災無線を失った地域の人々に向け、さまざまな情報を発信するべく期間限定で開局した災害ラジオ局・FMみなさんだ。そのスタッフ9人の奮闘と、彼らのラジオを通してつながる町の人々を追ったドキュメンタリー映画『ガレキとラジオ』が13日から公開される。俳優・役所広司が、ボランティアでナレーションに参加したことでも注目を集めた作品だ。


 完成した作品について役所は「自分たちも被災者でありながら町の人々のために、しかも笑顔で、情報を発信しようとするFMみなさんのスタッフたちの姿に、本当に胸を打たれました」と、語る。「自分のためではなく、人のために何かできることをしようと働く人の笑顔とは、こんなにも美しいものなんだな、と」。


 本作の監督は、CMのクリエイティブディレクターとして活躍する梅村太郎と、TV番組の構成作家である塚原一成。学生時代からの友人である2人が、震災後に現地に向かい、ラジオ局のスタッフたちと出会ったことから本作の企画がスタート。役所の参加について、梅村は「僕らは、本作のナレーションには役所さんしかいないと思いオファーしたんですが、役所さんは作品ができるかどうかまだ分からない段階から参加を表明してくださった。しかもボランティアでやっていただいたんです」と明かしている。


 ナレーションとして役所が紡ぐのは"街の人々を見守る者"の言葉。
「映像がとにかく良いので、ナレーションは潜ることもなく突出することもなく、うまく映像に溶け込むことができればいい、と思っていました。自分の大切な人がきっと見守っていてくれるという思いは、生きている人間にとって心強いものだと思うんです。役どころとしては難しかったのですが、知らずしらずのうちに街の人たちに力を与える存在として、演じることができれば、と思いました」


 その声は、優しいけれどしっかりと、登場する人々と鑑賞する人々をともに包み込む。見守る者として、そう語りかけることを意識したのだろうか?
「そういったことは特に意識しませんでしたね。普段、映画などで俳優としてアフレコをするときは完全に静かなところで録音するんですが、今回は、現地の音を聞きながらナレーションを録音しているんです。ヘッドフォンから聞こえてくる南三陸のいろいろな音が、すぐ近くにいるような気持ちにさせてくれるんです。街の人々に語りかけたり、気持ちを語ったりする感じで、その音の中に溶け込むことができればいいんだな、と思ったんです。それで、自然とああいった感じになりましたね」


 この作品に参加できて本当にうれしい、と役所は語る。
「少しでも役に立つことができればいいと思うんです。こういう企画に呼んで頂いたのは、俳優にとって本当にうれしいことで、俳優をやってて良かったなと思いました。下手なりにナレーションができてよかったな、と(笑)。本作はこれから公開になります。この映画を見て元気をもらうと同時に支援につながっていく、そうなれば参加した人間にとってこんなにうれしいことはないですね」


 これからが勝負。そう言う役所の顔に浮かぶのは、今回代弁した"見守る者"の声と同じ、前へ進もうとする人を力づけるような、温かく力強い笑みだった。
(本紙・秋吉布由子 撮影・野口卓也)

『ガレキとラジオ』はヒューマントラストシネマ渋谷他にて全国順次公開中。