マンガ『ちひろさん』に見る理想の生き方と人との接し方

 レディースコミックというと、ひと昔前、というか黎明期は嫁姑やご近所ものといった内容で、主婦のひまつぶしなんて思われていた時代もあった。

 しかし、どうやら最近ではそういう認識は改めなければいけないようだ。むしろ青年誌に近いテイストの作品も増え、その中から名作も生まれている。

 以前は、家に置くスペースがないから、高いから…などという理由で女性誌=単行本が売れない、と考えられることが多かったが、手元に残しておきたくなるような作品も多くなっている。

『ちひろさん』(秋田書店刊 650円=税込)という作品もそんな一冊だ。

 同作は『ショムニ』を描いた安田弘之がかつてモーニング(講談社)の増刊号などで連載していた『ちひろ』の続編にあたる作品。

『ちひろ』は風俗嬢のちひろと、夜の街に生きる人々を描いた物語だった。人気ナンバーワンなのにふらりと店をやめ、お客をしばりつけることなく、野良猫のように生きる彼女は、熱狂的な読者を獲得した。

 今回、10年以上の時を経て新たに描かれる『ちひろさん』は、そんなちひろが海辺の小さな弁当屋で働いているところから始まる。

 元風俗嬢であることを隠さず、マイペースな接客をする彼女のもとにはかつてソープ嬢だったころと同じようにさまざまなお客が訪れる。

 人間関係、恋愛、仕事、家庭…さまざまな問題を抱えながらも、彼女と接することで新たな生き方をたぐり寄せる登場人物たち。そんなエピソードを通じて、読者も癒される。

 レディースコミックでは読者が自分を主人公に置き換えられるようなものが主流なので、少年誌や青年誌のようにキャラが立ちすぎた主人公の作品は受け入れられにくい傾向がある。そんな意味でも、この『ちひろさん』は異例な作品。

 編集部にも20〜50代と幅広い読者から「ちひろさんの生き方にあこがれる」といった感想も多く寄せられるという。

 テレビ朝日やテレビ東京の深夜枠でドラマ化したらものすごく人気が出そう、そんな作品。