スペシャルインタビュー 野村万蔵(狂言師)× 南原清隆(コメディアン)

狂言に挑戦し、さらにそれを「現代狂言」というジャンルにし公演を行い、今年で9年目を迎えるという南原清隆。ともに古典と現代の笑いをつなげる狂言師・野村万蔵と芸について、そして10月7日に行われる舞台について語る。

 2人が取り組んでいる「現代狂言」というのはどういうものなのか。

野村(以下、野)「本来、僕たちが言う古典というのは江戸時代までにある演目です。明治や昭和になってからもたくさん新作が書かれていますけど、それは新しい話の狂言。でも僕が南原さんとやっているのは、それとも違っていて、もっと狂言という枠を飛び出している。西洋のものも含めた新しい楽器を使用したり、ミュージカルのようなものであったり、社交ダンスの要素もあったりとか。とにかくいろいろなものにチャレンジして、狂言とか能舞台というフィールドでどんなことができるのかなという試みです」

 もともと古典芸能が好きだったという南原が狂言に挑戦したきっかけは?

南原(以下、南)「番組で狂言を習ったのがきっかけでした。そこで習っていくうちに、ここに我々コメディアンの原点があるなって感じたんです。600年前から日本人はこういう間で、こういう表現をしていたんだと。例えば、感覚的に三段落ちっていうのは知っていましたが、それがどういうことか理論的には分かっていなかった。そういう漠然と心の中にあった疑問や謎がすーっと解けた」

 現代の要素を入れるとはいえ古典芸能に取り組むのは難しくはないのか。

南「そりゃ、難しいですよ。一番難しいのは能舞台って何もない。照明も変わらないし、セットも出てこない。体一つでお客さんに効果的に自分たちが表現したいこと、言いたいことを伝えるというのが、普通の舞台の何倍も大変ですね。普通の舞台だと注目させたい人に照明を当てれば、そちらに観客の視線もいきますし、ほかの人は目に入らない。しかも舞台の横にも客席があるので、正面のお客さんだけじゃなくて、横のお客さんも意識しなきゃいけない。だから立つだけで緊張感を与えたり、自分の姿を消したりしなきゃいけないんだから悩みますよね(笑)。しかも力量がそこまでいっていないので、もう悩みはつきません(笑)」

野「役者が丸裸にされる舞台ですからね。照明なしで自分でシャットアウトして存在消したり、暗転したりしている」
南「それを自然にできるからすごい。なんともないよって感じで(笑)」

野「いやいや、この世界にいるときは自然にやっているのかも知れませんが、南原さんとやったり、現代劇のことを知っったりすると、逆になんで僕はこんなふうに自信満々でただ真正面を向いて立っていられるんだろうって思いますよ(笑)」

 狂言を通して分かったことも多い。

南「たくさん勉強させていただいてます。声の出し方や相手へのセリフの渡し方とか。あと、笑わそうとする時って、僕らはギャグのほうに集中しちゃうんですけど、ギャグを出すタイミングより、その前のお芝居の部分で、登場人物の人間関係や気持ちに緊張の糸を張る。それさえ張っておけば、その糸を切るとすぐに笑いになる。それまでに何か始まるぞっていう緊張感を作ることが大切なんだということが理屈で分かりました」

 10月7日には「現代狂言」のメンバーと、『日本の笑い—古典と現代』を上演。

野「狂言はユネスコの無形文化遺産でもあるように、日本人が歴史的に絶やすことなく伝えてきたものですから、その素晴らしさをお伝えできればと思っています。同時に、日々変わりつつある笑いの現状とか作り方、現代と古典の笑いで合致しているものは何なんだろう、そして相容れないものは何なんだろうということをお客さんと一緒に探っていきたい。見るだけじゃなくて、探ることにより、体感できるような舞台を目指しています」

南「僕が狂言を習って良かったことのひとつは、日本人の本質って昔から変わらないんだという事に気づいたこと。随分昔の話だと思っていたけど、全然日本人って変わってないんですよ。主人と家来は現代の上司と部下に置き換えられたり(笑)。何百年も前の同じ話を今の人も笑って見られる。見る人の感覚も変わってないんですよね。当日は古典の狂言とコントをやるので、それを感じていただきながら、コントと狂言の違いを討論したいですね」

野「そうだね。優劣を競うんじゃなくて、ここが似てるとか、ここは違うとかね。それで両方素晴らしいって思っていただけたらうれしいですね」

南「両方楽しめる。対比もできるし、きっと面白い舞台になると思います。狂言とか古典に親しくなっておくと、楽しくなりますので、この機会にぜひ体験してほしいです」

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東京発・伝統WA感動「日本の笑い—古典と現代」
【日時】10月7日(火)18時30分開場/19時開演【会場】国立能楽堂【出演】野村万蔵、南原清隆、佐藤弘道、ドロンズ石本、エネルギー(森一弥・平子悟)ほか【入場料】一般2500円、学生1500円(全席指定)【主催】東京都、アーツカウンシル東京・東京文化発信プロジェクト室(公益財団法人東京都歴史文化財団)、東京発・伝統WA感動実行委員会【問い合わせ】東京発・伝統WA感動実行委員会事務局 TEL:03-3467-5421(平日10〜18時)