名探偵、皆を集めて「さて」と言い–なんてことを申しますが

『粗忽長屋の殺人』著者:河合莞爾

 タイトルの「粗忽長屋」とは、古典落語の題名。この本は、4つの古典落語を取り上げ、その裏に隠された事件(?)を長屋のご隠居が名推理で解き明かすというもの。もちろん、実際の落語にはそんな謎や事件は出てこないのだが、噺のほうでおなじみの植木屋の熊さん、大工の八っつんにより持ち込まれた騒動の裏に、思いもよらない事件が関わっていたというところから物語は始まる。


 落語の「粗忽長屋」は、長屋に住む粗忽者の八五郎が浅草で行き倒れの死体を見かけ、同じ長屋の熊五郎だと言い出し、急いで長屋に帰って本人の熊五郎に自分の死体を取りに行けと言う。最初は死んだ心持ちがしないと言っていた熊五郎だが、説得されるうちに、その気になり浅草に死体を引き取りに。その死体を背負いながら“でも八っつん、分からなくなってきた。担がれているのが俺なら、担いでいる俺は一体誰なんだろう”というオチ。古典落語の中でもシュールだと言われているこの話には、実はある大掛かりな陰謀が隠されていた?! という。


 さて、その謎とは。そしてその死体は一体誰なのか。名作落語をもう一捻り、楽しさあふれるミステリー落語となった。表題のほか、「短命」が「短命の理由」、「寝床」が「寝床の秘密」、「紺屋高尾」が「高尾太夫は三度死ぬ」となり落語とは別の物語に。しかもその中にも、ほかの古典落語の筋が盛り込まれているので、落語ファンにはたまらない作品になっている。ミステリーとしても完成されているので、落語を知らない推理小説ファンも楽しめる。



『粗忽長屋の殺人』【著者】河合莞爾【定価】本体1500円(税別)【発行】光文社