新生KENZI & THE TRIPSがロックなフルアルバム【Special interview with KENZI】

 ケントリことKENZI & THE TRIPSが、フルアルバム『アキラメナイ歌』をリリースした。バンド再結成、そして新体制への移行を経て、最初のオリジナルフルアルバム。「これが…手ごたえがあっちゃうんだよねぇ!」。バンドを率いるKENZIは会心の笑みを浮かべたと思えば、バンドブーム時代のとがった一面も見せて……。

KENZI(撮影・蔦野裕)

「やっぱり俺、ほっとけないんだよね」

 KENZI & THE TRIPS(ケンヂ・アンド・ザ・トリップス、以下ケントリ)は1980年代の空前のバンドブームのなかで生まれたパンクバンドだ。数えきれないバンドがデビューし、それぞれの音楽でぶつかりあった時代のなかで、ケントリも確かな爪痕を残した。しかしバンドは1989年に活動休止。その後、メンバーは、バンド、ミュージシャン、プロデュースワークなどそれぞれのやり方で音楽を追求、今もなおそれは続いている。

 そんなケントリが新たな顔ぶれで再スタートしたのは2015年だ。

「2014年に、30周年で、オリジナルメンバーで集まって1回やってるんだけど、それはその時だけだった。どこかで1回やっとかなきゃなって気持ちがあったからさ。バンドをやる、ケントリをまたやるのもいいかもしれないなっていうインプットはあったかもね、無意識なところでさ。それがあって、今のメンバーでのケントリがある。始まりは、ダサイ企画だったんだけどね、ご当地ケントリっていう(笑)」

 各地でケントリをプレーし続けている人たちと一緒にツアーしてしまおう——。言ってしまえば、ちょっと無茶な企画。

「でも、それが良かった。今のメンバー、俺以外みんな、その時のメンバーだからね。ケントリをやっていこうって風が吹いてきた気もする。何よりも、バンドをやりたい気持ちになってるから」

 昨年9月にミニアルバム『別れの為のブルース』をリリースし、ツアーも行った。そして、新生ケントリとして初のフルアルバム『アキラメナイ歌』も完成した。「これがさ、デモができたときから、アレンジができたときからかな、手ごたえを感じちゃったのさ。すごいロックアルバムになるぞって」と、KENZI。

「このアルバムはね、アレンジをギタリストのUKIにすべて任せたんだよ。明確な理由もないんだけど、任せたくなっちゃった。そしたら、すごいものが上がってきたんだよ。UKIは俺とは違ってハードロックに影響を受けているからだと思うんだけど、キメとかリフが、すごい新鮮だったね。それに、すごいロックだけど、ポップでもあるっていうのにも驚いたし」

 アルバムには12曲を収録。今よりも少しでも良くなればいい、少しでも進めればいいと歌う『アキラメナイ歌』、いざという時には黙っていないと叫ぶ『イザとなったら』など、シンプルかつ突き刺さるフレーズが連なる。

 KENZIが作る曲の原点には「ほっとけない」という思いがあるという。

「俺はさ、思ってることをそのまま書くの。このアルバムを作ってるときも安保とか原発の問題とかがあって、それは今も続いてるんだけど、……ほっとけないから書いただけなんだ。歌詞ができるとメロディーもついてくるって感じで、最近は作詞や作曲で難しかったなんてこと、ないね。そりゃ音楽をやってきたなかで苦しかったときもあるよ。でもそれは、曲先(曲に合わせて歌詞を書く方法)をやってたとき。詞から書くようになったら、苦しくなくなったんだ」

 その変化のためか、それとも年齢も経験も知恵も重ねたからなのか、KENZIのメッセージには何とも言えない説得力がある。

「年取ったからっていうのは、理由としてあるだろうね。だけど、思ったことをそのまま書くのも、“ほっとけなさ”で書くっていうのも変わらないし。今だから書けるそんな歌詞も曲もないし。…変わってもいいのにね。これだけ言っておきながらだけど、ほっとけばいいのにねと思うところもあるんだよ(笑)。リスクも伴うからさ。でも…やっぱり、ほっとけないんだなあ。ケントリの曲、自分たちで作った音楽が、ちょっとでも誰かのためになったらいいなって思いがどっかにはあるからさ……だから、思っていることを歌い続ける、自分たちはスタイルを変えずにやっていこうと思ってる」

 音楽と出会い、ずっと歌い続けてきたKENZI。これからも“ほっとけない”をアキラメナイ。(THL・酒井紫野)

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