男も女も見惚れる、小気味いいほど男前の女がいた!

『勝山太夫、ごろうぜよ』【著者】車浮代
【定価】本体640円(税別)【発行】白泉社 招き猫文庫

 江戸時代の敏腕出版プロデューサー・蔦屋重三郎をモデルにした「蔦重の教え」の著者による最新刊は、江戸前期に男装の麗人として一世を風靡し、今に語り継がれる太夫・勝山をモデルにした作品。浮世絵や江戸料理に関する著作もあり、江戸文化に造詣が深い著者が、謎の多い勝山太夫の物語を、江戸情緒たっぷりに生き生きと描く。


 主人公の勝山は、湯女風呂で働く、大柄で冴えない少女。ちなみに、湯女風呂とは、風呂やで働く女性で、客の髪を洗ったり、背中の垢を掻くなど、入浴の手伝いをするのが仕事。


 しかし、日中は風呂客の手伝いをしながら、夕刻になると宴席を設け芸妓や、下層の娼婦としても働いていたという。そんな環境に置かれた田舎訛りが抜けず、ボロボロの着物を着て、愛想のひとつもない少女が、吉原の伝説の花魁になるまでのサクセスストーリーだ。


 身なりを構わないものの、その少女・勝に何か光るものを見た細工師の銀次は「俺がおまえを変えてやる。誰もが振り向く、いーい女にな」と宣言。自分の元に置き、踊り、三味線、唄、読み書き、算盤など、一通りの教養を身に着けさせ、着物を与え、化粧を施し、外面、内面から変えていった。そこで誕生したのが、派手な小袖に、黒の着流しを重ね着て、細身の台小刀を差した行きな男姿の勝山だ。勝山の着こなしを真似するもの、そんな男装の麗人をアイドルのように追っかける女の子など、今をときめくファッションリーダーとして、有名になっていく勝山。さらにその人気を押し上げたのが、湯屋での酒競べ対決。娼婦として男性をとらない代わりに、自分を拾ってくれた湯屋に恩返しをしたいと、夜ごと酒豪自慢の男たちと酒飲み対決をし、世間の注目を集めた。女だてらに酒が強い勝山は、連戦連勝。何とか勝山に勝とうと武士までが客となり、その評判はうなぎのぼり、江戸一番の人気者に。しかし彼女の心の中には、常に振り払う事のできない暗い影が。自分を湯女風呂に置いてくれ、優しくしてくれた大好きな先輩・市野、自信の無かった自分を変えてくれた銀次、湯女で働く仲間たち、湯女風呂の主人らによる彼女を取り巻く環境で起こる、楽しい事、つらい事。そして忘れることのできない過去。それらを乗り越え、いかにして吉原一の花魁となったのか。どこか切なく、しかし痛快な勝山太夫の一代出世物語。