いま日本になぜ“子ども食堂”が必要なのか。映画『こどもしょくどう』

映画『こどもしょくどう』で主人公の少年少女を演じた2人と監督が思うこと
監督・日向寺太郎 ユウト役・藤本哉汰 ミチル役・鈴木梨央


 豊かに見えるこの日本にも、満足に食事をとることのできない子どもたちがいる。そんな子どもに無料や安価で食事を提供する“こども食堂”が3000カ所以上にまで増えているという。なぜ今子ども食堂が必要とされているのか。子ども食堂はどのようにして生まれたのか。『火垂るの墓』で戦火を生き抜く幼い兄妹の姿を描いた日向寺太郎監督と、『百円の恋』で日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞した脚本家・足立紳がタッグを組み、子どもたちのまなざしを通して、こども食堂がうまれたきっかけを描いた『こどもしょくどう』。日向寺監督、そして主人公の少年少女を演じた藤本哉汰、鈴木梨央が、映画を通して触れた希望を語る。
ミチル役・鈴木梨央

現代社会のひずみに苦しむ子どもたちを自然体で体現



 食堂を営む両親と妹と健やかな日々を過ごしている小学5年生ユウト。一方、幼なじみのタカシの家は育児放棄気味の母子家庭で、ユウトの両親はタカシを心配してひんぱんに夕食をふるまっていた。あるときから、ユウトとタカシは河原で車中生活をしているミチルとヒカル姉妹の姿を目にするようになる。2人の様子を見かねたユウトは2人を家に招き、いぶかる両親に食事を出してほしいと頼む。数日後、姉妹の父親が2人を置いて姿を消し…。

 切実な問題を抱える子供たちを目の当たりにし、それを見過ごし続ける大人たちに歯がゆい思いを抱える少年ユウトを演じた藤本哉汰と、幼い妹ヒカルとともに車中生活をする少女ミチルを演じた鈴木梨央。本作に出演しようと思った理由は? そしてどんな役作りを?

藤本哉汰(以下:藤本)「最初、ユウトは勇気が無くて幼なじみのタカシがいじめられていたりミチルたちの姿を見ても何も行動に移すことができないんですけど、だんだん勇気を出してミチルたちを助けようと行動するようになるところがかっこいいなと思って、自分もそんなふうにユウトと一緒に成長できたらいいなと、この役を演じたいと思いました」

鈴木梨央(以下:鈴木)「私は、もともとこども食堂のことはニュースで見たことがあるくらいで、そんなに知識も無かったので、こども食堂や貧困問題や虐待のこととかについて調べたりして、自分なりにいろいろ考えました。役作りとしては、撮影前に妹役の古川凛ちゃんと過ごす時間を監督に頂いたり、ミチルの気持ちになるために、家に帰ってからもなるべく部屋で1人になってあまり母と過ごさないようにしたりしました。台本を何度も読んでミチルの気持ちをたくさん考えました」

日向寺監督(以下:監督)「僕にとって役者は感情を表現するものなんですが、この2人はセリフやアクションが無くても、表情で感情を豊かに伝えることができる。今回、けっこうセリフは少ない方だと思うんですが、それでも観客にユウトやミチルが今どんな思いでいるのかを、芝居をし過ぎることなく自然体で伝えてくれる。この2人には本当にユウトがいる、ミチルがいるんだと思わせる力があると思います」

 とはいえユウトやミチルと同年代の2人とって難しい役だったはず。

藤本「ユウトがミチルたちのお母さんを探して帰りが遅くなって、両親と初めてケンカするシーンがあるんですけど、気持ちを吐き出すお芝居がすごく難しかったです。でもユウトが“お母さんたちは食事をタカシたちに出すだけで、それ以外は何もしてないじゃないか”ということを言っていて、確かにと思って。ユウトの気持ちに納得したら演じることができました。

監督「あのシーンは比較的早い段階で撮らなきゃいけなかったから、よけいに大変だったよね」

藤本「はい(笑)」

鈴木「私はどの場面というより、すべてのシーンで考えさせられたし難しいと思いました。ミチルの“…”という部分でユウトたちに何を伝えたいのかとか、ミチル自身が隠し持っている気持ちを、家や待ち時間のときにずっと考えていました。本当はユウトたちに助けを求めたいんだろうけど、口に出せない気持ちや、最初のほうの拒絶している気持ちを表現するのが難しかったです。たぶんミチルはこういう苦しい状況でもお母さんやお父さんに会いたくて、きっと帰ってきてくれる、と思っていたんだと思います」
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