全く笑えないG20「すし詰め」騒動【鈴木寛の「2020年への篤行録」第70回】

G20首脳会議中の大阪で中国の弾圧を訴える活動家(写真:UPI/アフロ)
 6月28、29日に主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)が大阪で行われましたが、G20では図らずも会場設営のことが妙な形で話題になりました。

 初日のメインセッションを前に行われたデジタル経済に関する首脳特別イベント。その会議室が狭く、各国首脳たちが企業の会議室にもあるような長机に「すし詰め」状態で座ったシーンが報道されると、SNS上でたちまち話題となりました。

 会場が決まった経緯について、外務省の担当者は産経新聞の取材に対しノーコメントだったそうですが、今回の会場となったインテックス大阪は、大阪市の人工島・咲洲にある西日本最大級の国際展示場でした。G20は、安倍総理肝いりであったことはもちろん、大阪にとっては6年後の万博を見据えた大型国際イベント。外務省も大阪府・大阪市も入念に準備を重ねてこの会場を選んだと思いますが、SNSやメディアの騒ぎは表層的に思えます。

 インテックス大阪の延べ床面積(70,000m2)は、東京ビッグサイト(95,000m2)、幕張メッセ(72,000m2)に次いで国内3番目の規模でした。しかし築34年と老朽化していました。万博準備やIR誘致に伴う再開発により、新しい施設の構想もあるそうですが、中国などアジア各国に行くと、その数倍の規模の施設がありますから、平成の30年で日本はここでもグローバル競争に遅れをとったことがわかるのです。

 今回の騒ぎを見ていると、数年前の国立競技場の建て替えに伴う迷走劇を思い起こします。計画変更は資材高騰などのやむを得ない事情もありましたが、税金が絡むとメディアの論調は「浪費」と決めつけるのがこの国の特徴です。オリンピック後を見据えた投資としてどの程度が適切なのか冷静に分析した報道や解説はほとんどありませんでした。

 計画を作り直した国立競技場にはエアコンがありません。夏場の大会の観戦環境として不安を残すだけではなく、IOC幹部や各国の政府高官などVIPの接遇の拠点として機能するのか、「安物買いの銭失い」になりそうで、大いに懸念を感じます。

 G20の会議場も、多少の投資をしていまの世界標準を意識した施設があれば新たなブランドを醸成できます。トランプ大統領や習近平主席が使った椅子に座れるとなれば、中国人観光客の見学コースにもでき、映画やテレビドラマのロケ地としても貸し出せたでしょう。国際的なイベントを誘致しやすくなります。

 今回の騒動は、浪費と投資の違いがわかる国民、メディアを育成することの必要性を改めて痛感します。「すし詰め」を笑い事で済ませていいのでしょうか。            


東京大学・慶應義塾大学教授
鈴木寛

1964年生まれ。東京大学法学部卒業後、1986年通商産業省に入省。

山口県庁出向中に吉田松陰の松下村塾を何度も通い、人材育成の重要性に目覚め、「すずかん」の名で親しまれた通産省在任中から大学生などを集めた私塾「すずかんゼミ」を主宰した。省内きってのIT政策通であったが、「IT充実」予算案が旧来型の公共事業予算にすり替えられるなど、官僚の限界を痛感。霞が関から大学教員に転身。慶應義塾大助教授時代は、徹夜で学生たちの相談に乗るなど熱血ぶりを発揮。現在の日本を支えるIT業界の実業家や社会起業家などを多数輩出する。

2012年4月、自身の原点である「人づくり」「社会づくり」にいっそう邁進するべく、一般社団法人社会創発塾を設立。社会起業家の育成に力を入れながら、2014年2月より、東京大学公共政策大学院教授、慶應義塾大学政策メディア研究科兼総合政策学部教授に同時就任、日本初の私立・国立大学のクロスアポイントメント。若い世代とともに、世代横断的な視野でより良い社会づくりを目指している。10月より文部科学省参与、2015年2月文部科学大臣補佐官を務める。また、大阪大学招聘教授(医学部・工学部)、中央大学客員教授、電通大学客員教授、福井大学客員教授、和歌山大学客員教授、日本サッカー協会理事、NPO法人日本教育再興連盟代表理事、独立行政法人日本スポーツ振興センター顧問、JASRAC理事などを務める。

日本でいち早く、アクティブ・ラーニングの導入を推進。