ラグビーW杯、平尾さんと作りたかったレガシー【鈴木寛の「2020年への篤行録」第72回】

ラグビーW杯の代表メンバーを発表するジェイミー・ジョセフHC(写真:森田直樹/アフロスポーツ)
 ラグビーワールドカップ(W杯)日本大会がいよいよ20日に開幕します。日本は同日、ロシアと初戦に臨み、28日にアイルランド戦、10月5日にサモア戦、そして13日には前回大会で黒星を喫したスコットランドとの顔合わせとなります。強敵ばかりですが、開催国のプライドをかけて初の決勝トーナメント進出に期待したいと思います。

 自国開催のW杯という一生に一度あるかないかの大一番が近づき、胸がおどる一方で、やはりこの人と一緒に見届けられない無念もあります。3年前に亡くなられた元ラグビー日本代表の平尾誠二さん。「スポーツを通じて社会を変えたい」という同じ志を持ち、さまざまな活動をご一緒させていただきました。

 2017年3月の本欄でも書きましたが、阪神大震災に見舞われた神戸の街を、スポーツの力を通じて活気づけようと、2000年に総合型地域スポーツクラブSCIX(スポーツ・コミュニティ&インテリジェンス機構)を設立。神戸製鋼でGMだった平尾さんが理事長に。そして、神戸生まれとはいえ、当時、無名の大学教員に過ぎなかった私を副理事長に選んでくださいました。

 最初はラグビーから年代・性別を問わず、一緒にスポーツを楽しむことを通じて、コミュニティづくりをめざしました。私は政治家になる前から、市民が自立・自律・自発協働する場を作ることをライフワークとして実践し、教育分野ではコミュニティ・スクールを手がけてきましたが、スポーツの分野では、平尾さんとSCIXを立ち上げることで、それまで学校体育主導だった地域スポーツに一石を投じることができました。(なお、SCIXは、日本のNPOとしてスポーツ分野で国から認可を受けた初の事例でした)

 私がコミュニティづくりに力を入れるのは、日本社会はいつの頃からか、何か問題に直面し、直ちに解決できないときには、すぐ「お上」に頼るようになっていたことに危機感があったからです。しかし、まずは、自分たちの知恵や人脈を駆使して、解決策を探る「自治力」がなければ、持続可能な発展はあり得ません。それは、地方創生で地域ごとに明暗が分かれているのを見ればよくわかることだと思います。

 平尾さんは生前、「スポーツは新しいソーシャル・キャピタルとして、その存在意義がますます高まっている」と語られていました。今大会の会場、岩手県釜石市は平尾さんに影響を受けて、震災復興と地域活性の原動力に大会を生かそうとしています。私もその遺志を受け継ぎ実践したいと思います。
東京大学・慶應義塾大学教授
鈴木寛

1964年生まれ。東京大学法学部卒業後、1986年通商産業省に入省。

山口県庁出向中に吉田松陰の松下村塾を何度も通い、人材育成の重要性に目覚め、「すずかん」の名で親しまれた通産省在任中から大学生などを集めた私塾「すずかんゼミ」を主宰した。省内きってのIT政策通であったが、「IT充実」予算案が旧来型の公共事業予算にすり替えられるなど、官僚の限界を痛感。霞が関から大学教員に転身。慶應義塾大助教授時代は、徹夜で学生たちの相談に乗るなど熱血ぶりを発揮。現在の日本を支えるIT業界の実業家や社会起業家などを多数輩出する。

2012年4月、自身の原点である「人づくり」「社会づくり」にいっそう邁進するべく、一般社団法人社会創発塾を設立。社会起業家の育成に力を入れながら、2014年2月より、東京大学公共政策大学院教授、慶應義塾大学政策メディア研究科兼総合政策学部教授に同時就任、日本初の私立・国立大学のクロスアポイントメント。若い世代とともに、世代横断的な視野でより良い社会づくりを目指している。10月より文部科学省参与、2015年2月文部科学大臣補佐官を務める。また、大阪大学招聘教授(医学部・工学部)、中央大学客員教授、電通大学客員教授、福井大学客員教授、和歌山大学客員教授、日本サッカー協会理事、NPO法人日本教育再興連盟代表理事、独立行政法人日本スポーツ振興センター顧問、JASRAC理事などを務める。

日本でいち早く、アクティブ・ラーニングの導入を推進。