話題のノンフィクション『つけびの村』は『ツイン・ピークス』なのか 映画史研究家・春日太一が読み解く、高橋ユキの作家性

この日が初対面という春日太一は高橋について「作家性が強い。あと5時間くらい褒められる」と大絶賛
春日:高橋さんが上手いのって「私の気持ちはこうです」ってまったく書かないのに、自分自身のその時のリアクションとか心情をそのままに書いて、結果的にいろんなことが伝わってくるようになっている部分。読んでいて、取材している人間の生々しさがそのままに伝わってきて、だから最後の判決の章に至る高橋さんの怒りとか、そういったものにも読者は自然に乗っかっていけるんですよ。ここまで付き合ってきて、高橋さんと一緒に見てきたので、その光景とか気持ちが分かるようになってくるんですね。

高橋:判決のところは、こんなに長々と入れていいのかなと、私自身もちょっとそういうふうには思ったんですが。

春日:よかったですよ。読んでいて、もう止まらなくなっている感じがしました。なぜかというと、読んでいる時にブレスの場所、息をつく場所がなくなってくるんです。これはひと息で書いているのかなという気がして、確かにこれだけ取材していろいろと分かってきた中で、この判決が出てきたら多分こうなっていくよねって。

高橋:ちょっと腹が立ったのは事実です。

春日:そうなっちゃいますよね。この本って、実は〈事件ノンフィクション〉であるとともに、高橋ユキという書き手の〈取材ドキュメント〉という側面も強くあって、だから数あるノンフィクションの中でも奇跡の一冊だと思ったんです。素材と書き手と「note」という媒体、さまざまなものがすごく面白い形で組み合わさったのかな、と。ひとつだけ不満があるとしたら、写真が162ページからの間に入っているだけなのがもったいないな。「note」には必ずキービジュアルがあったじゃないですか。

高橋:有料「note」はお金を払った人しかアクセスできない場所だから、村の写真を入れようと思ったんですけど、そうじゃないパブリックな場所に、あまりたくさん村の写真を置くのはちょっと……事件を起こした保見光成は犯罪者ですけど、村の方々は犯罪の当事者ではないですから。村が、変な見られ方をしてしまうのは嫌だなという気持ちもあって。

春日:このお墓の写真(166ページ)、保見家のお墓ですよね?  保見家が山から下りてきて、そこから始まっていくもろもろの物語。それがこのお墓にすべて象徴されている感じもします。この本って、そういうディテールがすごい。事件自体が迫力があるし、保見が持っている物語性もすごいんですけど、そこに頼らなかった高橋さんのある種の潔さというか視点のユニークさ。

高橋:ありがとうございます。こんなに褒められたことはあんまりなくて。

春日:いくらでも褒めますよ! まだあと5時間くらい褒められます。本当に感動したんですよ。これまでのノンフィクションライター、作家たちの常識と全然違うところから出てきているからこそ、扱えたテーマで1冊の本に消化できたのかなと思って。今日はお話を伺いながらもすごく勉強になりまして、僕の今後の作品の指針ができた気がして。

高橋:こちらこそです。春日さんの『黙示録』もすごく面白かった!
『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』(晶文社)
『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』
【著者】高橋ユキ【発行】晶文社【価格】本体1600円(税別)
【URL】https://www.shobunsha.co.jp/?p=5474
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