「9月入学」頓挫でも残った宿題【鈴木寛の「2020年への篤行録」第81回】


 新型コロナウイルス感染対策による一斉休校の長期化を受けて急浮上した「9月入学」移行ですが、少なくとも今年度や来年度からの導入については、結局1か月ほどで見送りの公算になりました。

 私は前回のコラムで大学の議論と小中高の議論を分けるべきと申し上げました。そして特に影響の大きい小中高については、保護者、児童・生徒、教職員の意見も十分に踏まえ、当事者である校長先生に、意見を集約してもらうべきと申し上げました。休校中だったので、子どもたち、保護者の意見がどこまで出てきたかは微妙なところですが、全国連合小学校長会は5月14日、声明文を出して拙速な議論に事実上の待ったをかけ、全国知事会でも、長野県の阿部知事が冷静に議論をリードされました。

 5月中旬にNHKが「9月入学」に賛否を尋ねた世論調査では賛成41%、反対37%とほぼ二分する状況に。ただでさえ大きな制度変更には世論の力強い後押しが不可欠です。世の中全体がコロナの第一波をしのぎ、経済社会活動の再開が最優先という中では、時間がなさすぎました。

 この決着で、賛成派も反対派も、お互いほっとしてもらっては困ります。今、一番、検討しなければいけないのは、大学入試のタイミングです。私は、今の入試のタイミングを遅らせて、高校卒業後の4月とか5月に合格発表とすべきだと思います。
 大学の入学は、慶應のSFCはじめ春・秋併用となっており、学部ごとに各大学の学長が定めることができることとなっていますので、高校関係者と大学関係者が協議して、大学の秋入学枠の定員を大幅に増やすべきだと思います。秋の入学までの時間は、学力が十分な人たちは、ギャップ・タームにして、様々な実地経験を国内外で積んでいけばいいですし、学力が十分でない人は、改めて、大学での学びについていけるような、学び直しを秋までにやり直すことにあてていけばいと思います。

 さらに、高校の修得主義の要素を増やして、学力修得が不十分な場合は、卒業を半年のばして、3年半の通学を可能にすることも検討すべきです。一方で、学力修得が確認できれば、授業時数にかかわらず単位認定を行い、2年半での早期卒業も認めるべきです。現在は、定時制だけが修業年限を3年以上としており、9月の卒業も認めていますが、全日制も同様に扱いにすべきです。ぜひ、こちらの議論もしっかりと行ってください。(東大・慶応大教授)
東京大学・慶應義塾大学教授
鈴木寛

1964年生まれ。東京大学法学部卒業後、1986年通商産業省に入省。

山口県庁出向中に吉田松陰の松下村塾を何度も通い、人材育成の重要性に目覚め、「すずかん」の名で親しまれた通産省在任中から大学生などを集めた私塾「すずかんゼミ」を主宰した。省内きってのIT政策通であったが、「IT充実」予算案が旧来型の公共事業予算にすり替えられるなど、官僚の限界を痛感。霞が関から大学教員に転身。慶應義塾大助教授時代は、徹夜で学生たちの相談に乗るなど熱血ぶりを発揮。現在の日本を支えるIT業界の実業家や社会起業家などを多数輩出する。

2012年4月、自身の原点である「人づくり」「社会づくり」にいっそう邁進するべく、一般社団法人社会創発塾を設立。社会起業家の育成に力を入れながら、2014年2月より、東京大学公共政策大学院教授、慶應義塾大学政策メディア研究科兼総合政策学部教授に同時就任、日本初の私立・国立大学のクロスアポイントメント。若い世代とともに、世代横断的な視野でより良い社会づくりを目指している。10月より文部科学省参与、2015年2月文部科学大臣補佐官を務める。また、大阪大学招聘教授(医学部・工学部)、中央大学客員教授、電通大学客員教授、福井大学客員教授、和歌山大学客員教授、日本サッカー協会理事、NPO法人日本教育再興連盟代表理事、独立行政法人日本スポーツ振興センター顧問、JASRAC理事などを務める。

日本でいち早く、アクティブ・ラーニングの導入を推進。