【今月の“人”】トム・ムーアさん

昨年9月のトム・ムーアさん(写真:REX/アフロ)
 英国で新型コロナウイルス対策に尽力する医療従事者らを支援しようと、約3300万ポンド(約47億円)の寄付を集めた退役軍人のトム・ムーアさんが2月2日に亡くなった。100歳だった。新型コロナに感染し、1月31日に入院していた。

 ムーアさんは99歳だった昨年4月、100歳の誕生日までに歩行器を押して英南部の自宅にある幅25メートルの庭を100往復すると宣言。自身の挑戦と引き換えに寄付を募った。当初は1000ポンドを集めることを目標としていたが、懸命に歩く姿がメディアで取り上げられると、国内外で賛同者が急増。150万人以上から約3300万ポンドが集まった。英王室のウィリアム王子らも寄付したという。

 ムーアさんが募金を呼びかけた昨年4月は、英国で厳しい外出制限を課す「ロックダウン(都市封鎖)」が初めて敷かれていた。国内で不安が広がる中、ムーアさんの行動は「希望の光になった」(英メディア)と称賛され、同年7月にはエリザベス女王からナイトの爵位を授与された

 ムーアさんは生前、新型コロナの感染拡大を戦時中と同じ深刻な状況だと認識し、「私たちは今、戦争をしているようなものだ」と指摘。逼迫(ひっぱく)する医療現場の最前線で奮闘する医師や看護師に敬意を示し、「彼らが今以上に良い仕事ができるように必要なものを補給してあげなければならない」と語っていた。
 ムーアさんの訃報を受け、ジョンソン首相は声明で「ムーア氏は真の意味で英雄だった」と表明。「大戦の暗黒の日々に自由のために戦い、(新型コロナという)戦後最も深刻な危機においても私たちを団結させた」とたたえた。英首相官邸はこの日、半旗を掲げ、女王も哀悼のメッセージを贈った。