“この人だけで1本映画が撮れる”!「すばらしき世界」のすばらしさ!【黒田勇樹のハイパーメディア鑑賞記】

こんにちは、黒田勇樹です。


演出をやらせていただく舞台『白豚貴族ですが前世の記憶が生えたのでひよこな弟育てます』が絶賛稽古中です。


緊急事態宣言がまたまた延長になりましたが、その前から感染防止のためのいろいろなことをしながら、キャスト、スタッフ一堂、3月24日の初日に向け頑張っております。温かく見守っていただければです。


TOKYO HEADLINEでインタビューしていただきまして、ウェブのほうでもそろそろアップされるそうですので、ぜひお読みいただければです。


では今週も始めましょう。



黒田勇樹

 長澤まさみさん演じるドキュメンタリー番組のプロデューサーが劇中で発する「この人だけで1本番組が作れる!」と、いうセリフの通り、終始、役所広司さん演じる主人公、実在した人物をモデルにした男・三上を追っているだけで1本の映画を観た以上の“人生”というか、まさに“世界”を感じることのできる超大傑作でした。


 人生の大半を刑務所で過ごした、やくざ者の男が「今度こそ、かたぐぞ(カタギになるぞ)」と、決意するシーンから始まるこの映画。


 真面目にやろうとしたり、やっぱり荒くれてしまったり、人と出会ってまたやり直そうとしたり…三上自体は愛嬌はあるモノの本当に、しょうもないというか、落ち着いて考えたら身近にいたら正直付き合いたくない人が大半であろう危険人物。


 本人の生い立ちであるとか、日本における“社会復帰”の難しさ、マスコミの残酷さ、反社会的組織の実状など社会問題に切り込むような描写もあるのですが、それもトゥーマッチでも物足りないでもなく、大事なことほどセリフではなく「画で見せる手法」も相まって、すぅーっと心に入ってきます。


 ストーリーや演出のギミックを取り出して「ここが素晴らしい」と、書くのは簡単(と、いうかいっぱいあるのでいくらでも書けちゃう)ので、特筆するとすればここ。


「井戸の底から、空を眺める様な空気」


 全編に漂う、一番下の狭いところから上を見上げている空気、実際、作中でも後半「空」が非常に重要に描かれ、「空を見上げるといえば、あの歌」という曲も唄われる。


 監督もかなり空を意識して本作を作られたんだと感じます。


 上を目指しては沈み、上を目指しては沈み、下の方で、もがいてはまた上を目指す。


 そして、最後に訪れる感情は……。


「井戸の底も、この美しい空の下だったんだ」と。


 多分、後半1時間ずっと泣いてた。まあ、観てよ、いい映画は何文字もらっても語りつくせないや!!



©佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会

『すばらしき世界』


STORY:下町の片隅で暮らす短気ですぐカッとなる三上は、強面の見た目に反し、優しく真っ直ぐすぎて困っている人を放っておけない男。しかし彼は、人生の大半を刑務所で過ごした元殺人犯だった。一度社会のレールを外れるも何とか再生しようと悪戦苦闘する三上に、若手テレビマンの津乃田と吉澤がすり寄りネタにしようと目論むが…。三上の過去と今を追ううちに、逆に思いもよらないものを目撃していく…。


監督:西川美和 出演:役所広司、仲野太賀、六角精児、北村有起哉、白竜 他/2時間6分/ワーナー・ブラザース映画配給/公開中


https://wwws.warnerbros.co.jp/subarashikisekai/




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黒田勇樹(くろだ・ゆうき)
1982年、東京都生まれ。幼少時より俳優として舞台やドラマ、映画、CMなどで活躍。
主な出演ドラマ作品に『人間・失格 たとえば僕が死んだら』『セカンド・チャンス』(ともにTBS)、『ひとつ屋根の下2』(フジテレビ)など。山田洋次監督映画『学校III』にて日本アカデミー賞新人男優賞やキネマ旬報新人男優賞などを受賞。2010年5月をもって俳優業を引退し、「ハイパーメディアフリーター」と名乗り、ネットを中心に活動を始めるが2014年に「俳優復帰」を宣言し、小劇場を中心に精力的に活動を再開。
2016年に監督映画「恐怖!セミ男」がゆうばり国際ファンタスティック映画祭にて上映。
現在は、映画やドラマ監督、舞台の脚本演出など幅広く活動中。

公式サイト:黒田運送(株)
Twitterアカウント:@yuukikuroda23