芸人たちの打ち合わせ論、台本論。テレビの向こうのバカリズムさんから教わったこと。〈徳井健太の菩薩目線 第137回〉

徳井健太

“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第137回目は、台本について、独自の梵鐘を鳴らす――。

 いろんなテレビ番組がある。その数だけ台本がある。

 台本をどう紐解くか。おそらく、タレントや芸人によって、その解釈の仕方は、これまたいろいろあると思う。

 台本がある。ということは、打ち合わせもある。その台本を確認しながら、番組ディレクターなどがあれこれと文字通り“打ち合わせ”をする。

 徳井健太の場合。楽屋に入ると台本が置いてあるので、必ず目を通す。流れを確認し、自分なりの答えを出し、収録に臨む。けど、その前に、打ち合わせがある。

 台本を一言一句追っていくような打ち合わせをすることがある。でも、それはすでに読んだ内容だから、正直なところ、もっとプラスアルファのある打ち合わせの方がうれしかったりする。

 たとえば、流れをかいつまみながら、特定の箇所を説明し、「ここでこういう盛り上げ方ができませんか?」などなど。せっかく大人が向き合っているのだから、写経のように、ただただ台本の文字をなぞるだけの打ち合わせは、気持ちがどんどん「無」に近づいていってしまうというか。写経だったら、それでいいんだけど。

 そんなふうに考えていたある日、それって「凡庸だったんだ」と気が付いた。

『ワイドナショー』を見ていると、打ち合わせはいるか、いらないかみたいな話をしていた。タイムリー。

 出演者の多くが、やはり杓子定規な打ち合わせであれば、あまり意味はないのではないかといった論調に傾いていた。バラエティでは、台本通りに書いてあっても、そうならないことが多々ある。どうなるかわからないことについて打ち合わせをするのは、“たられば”の世界。だったら、実際にやったほうが早いよねって。

 ところが、バカリズムさんだけは違う視点を持っていた。「打ち合わせは必要」。なんでだろう。

 めちゃくちゃ面白い台本、それこそ笑いを前面に押し出したようなバラエティの台本があったとき。その打ち合わせをするディレクターが、もしも台本を一字一句読んでいくタイプ、ものすごく真面目なタイプだったら、どうなるだろう。一見、お笑い風の番組だけど、実はそんなにバラエティ的な要素は求められていないのではないかと疑う、そうバカリズムさんは話していた。

 たしかに、バラエティ番組といっても多種多様だ。情報系もあれば、ゲストに俳優さんがくるバラエティもある。台本を開くと、とても楽しそうで、お笑い色が強いんだろうなとわくわくする。情報系だけど台本が面白いんだったら、俺は芸人感を出して収録に臨もうと決める。だけど、バッサリとカットされるというのは珍しいことじゃない。

 その逆もある。情報がメインなのに、ボケた部分が意外に使われていてびっくりするなんてこともある。そういうケースを振り返ってみると、打ち合わせをするディレクターが、台本に書いてあることをあまりなぞらずに、余白を感じさせるような打ち合わせをしていたような。

 バカリズムさんは言う。台本の内容と実際に打ち合わせをする人物とのシンクロ具合が重要なのであって、それを見極めるために打ち合わせという場は必要だ、と。目からウロコ。レベルが高い人の考え方ってすごい。

 たくさんの番組に出させてもらうようになると、芸人である俺たちは、打ち合わせで「面白いことやりましょう。どんどんやってください」なんて言われる。意気揚々とオンエアのふたを開けると、バッサリいかれ、よくわからない反省タイムへ突入する。「何がいけなかったんだろう」。でも、それは良い、悪いの話というより、合う、合わないの話でしかなく、そんなことを繰り返しているうちに、人間不信よろしく打ち合わせ不信になってしまう。「どうせ話が違うんでしょ」なんて思ってしまって、結局、自分なりの答えを出して、収録に臨む。言い方を変えれば、個人プレー。それでもいいかなんて走っていた。

 でも、番組はたくさんの人間がいて、作られている。理想を言えば、どんな番組でもチームプレーを心がけたい。その気持ちをズレさせないために、打ち合わせという場を有効利用し、フォーカスを合わせる。バカリズムさん、勝手に勉強させていただきました。ありがとうございます。

 芸人たちの台本論。芸人たちの打ち合わせ論。面白いかもしれない。

 たとえば、極楽とんぼの加藤浩次さん。伝説のバラエティ番組『めちゃ×2イケてるッ!』は、毎回ものすごい厚みの台本があったそうだ。めくると、命を懸けて、寝る間も惜しんで書かれていたことがわかるくらい真剣な台本だったという。だから――。

 加藤さんは、命を懸けてぶっ壊しにいったと話していた。命を削って作った台本VS命を削ってぶっ壊しにいく芸人。その死闘の数々が、極楽とんぼの名シーンとしてカメラに収まっているんだと思う。本気同士が対峙するから壊せる。ちゃんとしたものがあるから、壊す行為にカタルシスが生まれる。

 バラエティの現場って面白い。本気になるために、打ち合わせって大事なんだ。 

【プロフィル】
1980年北海道出身。2000年、東京NSC5期生同期の吉村崇とお笑いコンビ「平成ノブシコブシ」結成。「ピカルの定理」などバラエティ番組を中心に活躍。最近では、バラエティ番組や芸人を愛情たっぷりに「分析」することでも注目を集め、22年2月28日に『敗北からの芸人論』を発売。「もっと世間で評価や称賛を受けるべき人や物」を紹介すべく、YouTubeチャンネル「徳井の考察」も開設している。吉本興業所属。
公式ツイッター:https://twitter.com/nagomigozen 
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