鏡をつきつけられているかの様に濃厚な2時間!ヒュージャックマン最新作、映画『The Son 息子』【黒田勇樹のハイパーメディア鑑賞記】

『The Son/息子』 3月17日(金)TOHOシネマズ シャンテほか 全国ロードショー 配給:キノフィルムズ © THE SON FILMS LIMITED AND CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2022 ALL RIGHTS RESERVED.

 映画を始めとする創作物は、一度しか人生を歩めない人類が“誰かの人生を疑似体験しようとする悪あがき”の様なものだと思っているのですが、今回鑑賞した映画「The Son 息子」は、その純度がとてつもなく高かったです。

 ヒュー・ジャックマンが、再婚して赤ん坊のいる家庭を持つ仕事盛りの弁護士を演じるのですが、そこへ前妻との間に生まれた、心の問題を抱える17歳の息子が訪れることから始まるストーリー。

 メインのキャラクターは父と息子、前妻、今の妻の4人で描かれるのですが、それぞれの「関係の矢印」が、凄い。

 1例をあげるとすれば、前妻の息子を受け入れようとする奥さんと、それに喜ぶ息子の中に「赤ん坊に何かされないだろうか」という不信感や「妻のいる男を寝とった女」という目線が混在している。
 登場する全ての相関図に、こういった複雑な矢印が存在していて、更に“明確には”語られない。

 どちらかというと、議論する場面が多いので、台詞も鋭い言葉のやり取りが続くのですが、物語の本質は、その間の登場人物たちの表情によってだけ語られていくという印象。

 離婚の理由とか、最近の流行りだと「酒!暴力!金銭感覚!セックス!」みたいに、言葉として提示しがちですが、そういうことは、一切しないで「この話をしているときの顔を見る限り、お互いになにかしらあったんだろうなぁ…」と、胸に刺さる。
 この“表情たち”の中に、何を感じるかこそが観客の得るものであり、複雑な家庭環境の話ではあるものの、全ての人が自分を振り返ってしまう「鏡を見せ続けられているかのような映画」でした。

 特に印象的だったのはヒュー・ジャックマンが自分の父親に会う場面、父を演じるのは名優アンソニー・ホプキンス。
「わーい!ウルヴァリンとレクター博士がしゃべってる!」なんて、思う暇は一切なく、途端にティーンエイジャーの様な表情を見せるヒューに、愛しさと切なさで、心臓をがんじがらめにされてしまいました。

 重い内容の映画ではありますが、人生の悪あがきを体験したい方には、是非オススメの1作です。

© THE SON FILMS LIMITED AND CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2022 ALL RIGHTS RESERVED.
<人生相談の宛先はこちら>

黒田勇樹に相談したい方はメールにて相談内容をお送りください。メールには「ニックネーム、性別、年齢、ご相談内容」をご記載ください。宛先はコチラになります。相談お待ちしています。


黒田勇樹(くろだ・ゆうき)
1982年、東京都生まれ。幼少時より俳優として舞台やドラマ、映画、CMなどで活躍。
主な出演ドラマ作品に『人間・失格 たとえば僕が死んだら』『セカンド・チャンス』(ともにTBS)、『ひとつ屋根の下2』(フジテレビ)など。山田洋次監督映画『学校III』にて日本アカデミー賞新人男優賞やキネマ旬報新人男優賞などを受賞。2010年5月をもって俳優業を引退し、「ハイパーメディアフリーター」と名乗り、ネットを中心に活動を始めるが2014年に「俳優復帰」を宣言し、小劇場を中心に精力的に活動を再開。
2016年に監督映画「恐怖!セミ男」がゆうばり国際ファンタスティック映画祭にて上映。
現在は、映画やドラマ監督、舞台の脚本演出など幅広く活動中。

公式サイト:黒田運送(株)
Twitterアカウント:@yuukikuroda23
夢しか詰まってない!『映画おしりたんてい さらば愛しき相棒(おしり)よ』の、謎を解いてみた!【黒田勇樹のハイパーメディア鑑賞記】
届かないはずの声が届いてくる『52ヘルツのクジラたち』は、凄い映画だった!【黒田勇樹のハイパーメディア鑑賞記】
ハズレ無しのドラえもん映画が、また大当たりを出してきた!『映画ドラえもん のび太の地球交響楽(シンフォニー)』!!【黒田勇樹のハイパーメディア鑑賞記】
人間は、愚かでワガママで美しい『パスト ライブス/再会』は、究極の恋愛映画だった!【黒田勇樹のハイパーメディア鑑賞記】
スピンオフと思うなかれ!国民的アニメ「ワンピース」の前日譚でもある『MONSTERS 一百三情飛龍侍極』をネットで観てみた!【黒田勇樹のハイパーメディア鑑賞記】
現代劇と時代劇のハイブリッド!『身代わり忠臣蔵』は、予想を超えた凄い映画だった!【黒田勇樹のハイパーメディア鑑賞記】