大逆転のボル 【アフロスポーツ プロの瞬撮】

 スポーツ専門フォトグラファーチーム『アフロスポーツ』のプロカメラマンが撮影した一瞬の世界を、本人が解説、紹介するコラム「アフロスポーツの『フォトインパクト』」。他では見られないスポーツの一面をお届けします。

ミックスリレー最後の転倒シーン2023世界陸上ブダペスト大会 (2023年8月19-27日)撮影/文章:長田洋平
400mハードルスタート前の表情
400mハードルで金メダルを獲得
マイルリレー、ゴールに飛び込み仲間に迎えられる
スタジアムからの帰り道。終電間際のトラムに乗るとオランダの応援団が車両を占拠していた。
「あなたFemkeを知ってる?」近くに座るおばちゃんに聞かれて戸惑ったが「Femke? ボルのこと?」と
返すと、嬉しそうな表情を見せた。
ボルはその日400mハードルを制していた。
初日のミックスリレーではゴール直前に悲劇的な転倒をしたことで話題になっていて、そのせいもあってか会場での声援は一際大きかった。
印象的だったのはスタート直前の様子だ。彼女の柔らかい容姿からはイメージ出来ないような強烈なビンタを自分の頬に打ち込んでいた。もしかしたら初日の雑念を払っていたのかもしれない。
金メダルを獲得したボルは少女のようにあちこちを跳ねて走ってかわいらしかった。
 
ただ、ボルの大逆転はその日では終わらなかった。最終日、大会最終種目となった女子マイルリレー。
オランダは3走の時点で3位。これは難しいかもしれない、と思ったが、「ボルが逆転して優勝したら?」と思い直し、急いでゴール前の空いているスペースに移動した。
実はボルがバトンを受け取ってからの展開はほとんど見ていなかったが、台本があるかのようにゴールにはボルが先頭で飛び込んできた。しかしその直前、僕の前にジャマイカのカメラマンも飛び込んできた。見えない。ジャマイカも優勝争いをしている。選手さながらにカメラマンも必死だ。邪魔だ、どけ!と言いたくなったが優勝争いをしている国のカメラマンを無下には出来なかった。
視界のほとんどを遮られながらも何とか撮る事が出来た一枚は写真の1/4が暗く落ちていたが、逆に雰囲気を出してくれたかもしれない。
 
ボルは今大会、400mハードルとリレーの2冠。
ライルズが100m、200m、リレーの3冠を取ったのはすごかったが、ブダペストの人々の頭にはボルの活躍の方が色濃く刻まれているのではないだろうか。
今思うとあのバスのやり取りが無ければ、最後に動き直していなかったかもしれない。
撮影するまでの様々なことが自分の判断に影響を与えているんだなと思った。
 
■カメラマンプロフィール
撮影:長田洋平
1986年、東京出身。かに座。
早稲田大学教育学部卒業後、アフロ入社。
2012年ロンドンパラリンピック以降、国内外のスポーツ報道の現場を駆け回っている。
最近では平昌オリンピック、ロシアW杯を取材。
今年の目標は英語習得とボルダリング5級。
 
★インスタグラム★
 
アフロスポーツ

1997年、現代表フォトグラファーである青木紘二のもと「クリエイティブなフォトグラファーチーム」をコンセプトに結成。1998年長野オリンピックでは大会組織委員会のオフィシャルフォトチーム、以降もJOC公式記録の撮影を担当。
各ジャンルに特化した個性的なスポーツフォトグラファーが在籍し、国内外、数々の競技を撮影。放送局や出版社・WEBなど多くの報道媒体にクオリティの高い写真を提供し、スポーツ報道、写真文化の発展に貢献している。

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