「卵子の老化は止められる」はウソ?卵子凍結を検討する前に知っておきたい正しい知識 【不妊治療専門院・浅田レディースクリニック院長インタビュー】

「凍結すれば安心」とは限らない

 身体の中に残り続ける卵子の機能後退は止められないが、卵子凍結すれば、より状態のいい卵子を残しておくことができる。しかし、卵子凍結にもいくつかの注意点があるのだそう。

「1つでも卵子を凍結できれば、いくつになっても妊娠できるというわけではありません。自然妊娠する方でも、卵子10数個につきやっと1回妊娠できるくらいの確率ですから、できるだけたくさんの卵子を凍結しておく必要があります。採卵する時にどのくらいの数が取れるかは運次第といったところもあるので、1度やれば安心、とも言い切れません。とはいえ採卵費用は高額なので、きちんとした刺激をして、1度の採卵でたくさんの卵子を採ることができるクリニックを探しましょう」

 浅田レディースクリニックでも、卵巣に残っている卵子数が少ない場合は、数度採卵を行う場合があるそう。それに、せっかく多くの卵子を凍結することができたとしても、私たちがまだ窺い知れないリスクもあるという。

「私のクリニックで行っているガラス化法という凍結方法では、受精卵の場合99%以上の確率で生き残ります。卵子は身体の中で最も大きい細胞で、いい加減に凍結すると解凍した時に細胞が死んでしまうんです。特殊な凍結技術が必要で、卵子凍結が世界的に実用的になってきたのは、2005年くらいのことでした。

 卵子凍結は、不妊治療技術の延長線上にあります。受精卵を凍結保存するため、停電時のバックアップ等が整っている施設を選びましょう。凍結された卵子の融解後の生存率が高く、体外受精できちんと結果を出しているクリニックを探すことが重要です。未成熟卵を採卵しても受精はしないため、体外受精できちんと結果を出している施設であれば、成熟卵を採卵できる技量があるといえます」

 不妊治療の保険適用化や助成開始によって、最近になって不妊治療を始めた、卵子凍結を始めたというクリニックも増えている。卵子凍結はクリニックによって費用感が異なるイメージがあるが、卵子凍結や不妊治療に関する症例数が少ないクリニックに行ってしまうと「想定外のリスク」に巻き込まれる可能性もあるので、注意したいところ。たとえば、地震や停電などで電力源が供給されなくなれば、せっかく凍結した卵子が解凍されてしまい、使いたい時に使用できなくなるというリスクも。凍結した卵子の保存環境について公式に公開されているかどうか、専門医が何人常駐しているか、不妊に関してどのくらいの知見があるクリニックなのかなど下調べをしてから、卵子凍結を行うクリニックを決めた方が良さそうだ。

卵子は「凍結して終わり」ではない。自身の妊活時期をしっかり見据えよう

それだけではなく、せっかく凍結した卵子を使わないままに、妊娠適齢期を過ぎてしまうというパターンも少なくないのだそう。

「凍結した卵子と健康な精子を顕微授精すれば、いくつになっても受精できる可能性はありますが、たとえば50歳を超えてくると、子宮内の環境が変化してしまうので、受精卵を子宮内に戻しても、早産や流産のほか、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病など高齢出産のリスクが高まります」

 せっかく卵子を凍結しても、結婚しないままに適齢期が過ぎてしまったり、結局使わずじまいになってしまうということも少なくないという。卵子を凍結した後も、凍結のためのランニングコストを払い続ける必要があり、たとえ助成金制度を使ったとしても、お金がかからないわけではない。卵子凍結をした後も、妊娠適齢期に合わせた妊活を意識したいところだ。

 最近は著名人にも「卵子凍結をしている」と公言する女性もおり、一気に認知が広がった卵子凍結。そのメリットは大きいものの、注意点がフォーカスされることはなかなかない、と浅田院長。「助成金が出るから」と気軽に考えすぎず、まずはAMH検査を受けたり、信頼性の高いクリニックを探して、今後の人生設計を踏まえながら検討しよう。

 

(取材と文・ミクニシオリ)

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