〈赤ペン瀧川×山口ヒロキ対談 後編〉山口「AIはあくまでツールにすぎない」 瀧川「色眼鏡をかけまくった状態で見てもいい。きっと驚く。僕がそうだった」【AI映画の現在と未来】

 全編生成AIで作られた映画『generAIdoscope:ジェネレイドスコープ』が8月29日から東京・吉祥寺のアップリンク吉祥寺にて公開される。公開を前に映画監督・映像ディレクターの山口ヒロキ監督と俳優と映画プレゼンターという二つの顔を持つ赤ペン瀧川がさまざまな視点からAI映画について語り合った。(全2回 後編)

赤ペン瀧川(左)と山口ヒロキ監督(撮影・蔦野裕)

AIが作り出す脚本やテキストはあまり面白くない!?

 前編では山口監督がAIで映画製作をするに至った経緯と作業工程を明かしたうえで、問題点などについても言及した。後編ではより深く瀧川が突っ込んでいく。

瀧川「脚本も全部AIでできるのかなと思ったんですけど、脚本はやっぱりそうじゃないですよね」

山口「脚本用のツールもあるんですけど、僕は使っていないですね」

瀧川「では使っている人もいるんですね」

山口「ChatGPTでもできると思います。“こういう脚本を考えてくれ”と指示すれば出てくると思うんですけど、一度やってみてあまり面白くなかったのと自分で作りたいという思いがありますから、脚本は人間が書いています」

瀧川「脚本からAIにしちゃうと“クリエイターとは何か”という話になってきますよね。作りたい映像とか作りたい物語、作りたい世界観があってそれを叶えるためにAIがあるのは分かるけど、そこをAIに任せちゃうと…。スタートが人間でなくなっちゃうと、ちょっと違うなって」

 ライターでもAIで原稿を作る人もいると聞きます。そういう話を聞くとちょっとなと思います。

瀧川「僕、映画のネタ紹介の時にChatGPTを一度試してみたんですよ。“この映画を赤ペン瀧川風に紹介して”って。そうしたらChatGPTが赤ペン瀧川のことを知っていて。でも出てきたものが、まあ大して面白くない(笑)。全然僕を超えてこない。そうじゃないなっていう感じ。やっぱり過去のことを学習してそのデータを持っているけど、今感じていることであったりとか今作りたいもの、現代に生きてこれからの人に見せたいものを作りたいという時に、走っている僕には圧倒的に追いついてこないんだなってことが分かったんですよ。それっぽくはなるんですけど、やっぱりそこは超えないんだなと思ってすげえがっかりしたんですよね。“こいつが僕を超えてくれたら僕の仕事がすげえ助かるのに”と思ったんですけど超えてこないなーっていう(笑)。ありそうだけど僕の中の60点ぐらいのネタ構成でやっぱ追いつかないんだなと思って。だから元となるドラマであったり最初の脚本っていうのは山口監督発信で、それを叶えるためにAIが必要だってことなんですよね。で、音楽に関してはどうなんですか?」

山口「結構、音楽にもこだわっていて、シーンごとにたくさん作っています。それを作るために“このシーンはこういう感じ”“楽器はこんなものが入っていて”みたいな指示を出して作って、これももう何十曲も作った中から選んでいくっていう感じです」

瀧川「その後に台詞ですか?」

山口「AIツールは英語のほうが発達しているので、この作品は全部英語なんです。演技もある程度してくれる。プロンプトで“ここは怒った口調で”といった指示を出します。話すスピードも調整できます」

瀧川「英語を使っている理由は何なのかなと思ったんですよ。データ量が違うんですね。英語のほうがデータがたくさんあるから表現の幅が広いということなんですね」

山口「あと感情表現みたいなことが上手い。ただ、上手いとは言いつつも演技力みたいなものがまだまだなんです。だからまだ結構、棒読みチックなものが多い。そして作った声をもう一度、動画のAIに読み込んでリップシンクをやります。唇だけを作り直すみたいな作業をここでやって、それをまた編集ソフトのほうに戻してという作業をします」

瀧川「リップシンクがバチッと合ってないなというところもありながらも、割としっかり合っていて、これはどうやってるの?と思ったんですよ。動画を作って、音声を作って、“喋らせた時の口を作れ”と指示して口の動きを作るということですね」

山口「これを作った頃が去年の秋から今年の頭ぐらいにかけてなので、まだまだ弱いんですよ。そこからまた半年以上経っているのでリップシンクなどはもっと性能がすごくなっています」

瀧川「この映画の中で割と長尺のレーザーの剣を使ったアクションシーンがあるじゃないですか。あれはすごく大変そうなんですけど、どういう指示を出してあれができているんですか?」

山口「あれは初めにむちゃくちゃなことをやろうとしたんです。いつも実写を作っていた時のアクションコーディネーターの人に実際に台本を元にVコン作ってもらったんですよ。そのVコンをもとにちゃんとワンカットずつ作っていこうとしたんですけど、めちゃくちゃ大変でこれは無理だと思いながらやっている中で、使っているAIツールの新たな機能が出てきまして、あのシーンを作ることができました」

瀧川「ここもプロンプトで指示を出していると思うのですが、言語化するのは大変そうですね(笑)」

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