〈赤ペン瀧川×山口ヒロキ対談 後編〉山口「AIはあくまでツールにすぎない」 瀧川「色眼鏡をかけまくった状態で見てもいい。きっと驚く。僕がそうだった」【AI映画の現在と未来】

山口監督「予算がなくて20年前にできなかった表現ができるはず」
今回の作品は3人の監督によるオムニバスです。同じようなツールを使っていると思うのですが作風が全然違います。やはり同じ道具を使ってもその人のプロンプトによって仕上がりは全然違うということですよね?
山口「全然違いますね。まず初めの画像を作る時点で全然変わっちゃう」
もっと言うと、例えば山口監督の脚本を使って、3人が同じ作品を作ったとしても全く別の作品になるということですよね? というふうに考えると人間の頭の中で考えていることと同じようなことがAIの中で行われているというふうに思えます。
山口「今、瀧川さんにお話しした、この工程を説明しないと本当に“作って”って言ったらすぐにできたと思われてしまう。工程を説明すると本当にただの道具だということを分かってもらえるかと思います」
瀧川「AIツールを使うことによって、今までできなかったことで今後できるようになることがあるとするとどういうことですか? 僕はこの15分の短編を見て、作りたいものはいっぱいあるんだけれども、お金がないといった理由で作れなかった人が、その夢を叶えていけるんじゃないかと思ったんですよ。お金がない、時間がない、ツテがない、技術者がいない、俳優がいないとかっていうことをAIのいろいろなアプリが叶えてくれたら自分が作りたいけど作れなかったものが作りやすくなっていくんじゃないかなと思うと、そういう映像作家がだーっと出て来るんじゃないかなって」
山口「SFとはすごく相性がいいですよね。僕はずっとSFを作りたくて、実写で無理やり頑張ってやってきたんですが、予算がなくてできなくて断念していたことがいっぱいあった。でも去年ぐらいからそれができるようになっているという状態です。可能性がすごく広くなりました。それで約20年前に撮った『グシャノビンヅメ』という作品をリメイクしようと思って準備しています。あの時にできなかった表現が多分できるはずなので」
『グシャノビンヅメ』はもともと日本語のセリフの作品ですが、この場合は日本語でできるんですか?
山口「それもできますが、全部変えてしまおうと思っています。やり直したい部分がたくさんあったので、全部作り直しちゃいたいっていう気持ち。それに海外の映画祭に出したいので英語で作ったほうがいろいろと都合がいいんです」
瀧川「一本丸々生成AIで映画を作って、AIと実写を融合させるにはどういうやり方があるんですか? AIの良いところを実写と融合させるとしたらどの部分?」
山口「実際にいる俳優さんにグリーンバックで演技をしてもらって撮ったり、写真1枚あればそこから動かせるので、全部の演技を撮らなくてもよくなるかもしれません。一部分の静止画だけ撮っておいて、普通の人にはできないようなすごいジャンプをさせるということもできます。その辺はもう続きは全部AIでできるようになります」
瀧川「クリストファー・ノーラン監督の『ダンケルク』という作品があって。浜辺に何千人という兵士がいる絵を撮りたいんだけどお金がなくて兵士が足りなくて、最終的にクリストファー・ノーランなのに段ボールか何かで書き割りを作ったんですよ。遠くは書き割りで何とかしますって。“ノーランが書き割り?”みたいな信じられないエピソードがあるんですが、そういうのはAIでできるってことですよね?」
山口「それってノーランがCGは嫌だから書き割りにしたんですね」
瀧川「CGが嫌で書き割り。いや、CGでいいじゃんって(笑)。実写にこだわるってそうじゃないからっていう。実写にはこだわっているけど、それが書き割りでいいわけないでしょ、みたいな(笑)。そう考えるとその実写とAIを融合させるときにすぐに思いつくのは背景や景色とかですよね」
山口「現実には撮影しづらいような景色とかなら本当にAIが一番やりやすいですね」