〈赤ペン瀧川×山口ヒロキ対談 後編〉山口「AIはあくまでツールにすぎない」 瀧川「色眼鏡をかけまくった状態で見てもいい。きっと驚く。僕がそうだった」【AI映画の現在と未来】

俳優、映画プレゼンターという二刀流ならではの視点でAI映画について語る赤ペン瀧川(撮影・蔦野裕)

赤ペン瀧川「AIと実写がどういう形で融合すると一番お互いが幸せになるのか」

瀧川「スターウォーズの世界観をベースにした『マンダロリアン』という作品があって。それはグリーンバックですらもなかったんですよ。巨大LEDスクリーンに画像を投影して、カメラの位置を計算して影を全部作って俳優と背景を同時に撮る。LEDボリュームというんですがそういう技術を開発した。グリーンバックで後から画像を差し込むのではなくて、リアルタイムでカメラと同期している風景。だから例えば高速道路を走る車の中っていうのを同時に撮れるんですよ。前から撮っても横から撮ってもワークしても映像が同期してくれる。あの技術とAIが組み合わされば、もっと撮影環境が豊かになって、SFとかもスタジオで撮れちゃったりとかする。そうすると時間や制作費の節約になって、結果的にすごい超大作でも安い金額で撮れるという、撮影に関する革命が起きるんですよね。なんかそれとの相性が良さそうな気がしていて。グランマレビトの世界観であったり、その背景とかがすげー美しいし。あれを作るのに人だと絶対に大変だしっていうのをガツッと作ってくれるじゃないですか。あれはすごい可能性があると思うんですよ」

山口「グランマレビトの舞台になっている架空の町をCGじゃないのに作れるっていうのが、すごく楽しいです。まさにグシャノビンヅメ(2004年公開)の時に、それをやりたかったんですが予算がないから無理と言われてあきらめた。それができるようになった。そういうのがやりたくて3D CGとかも結構勉強したんですけどすごい難しくて。あれで映画を作るにはどうすれば…と思っていたらAIに出会ったんですよね」

瀧川「今度、プーチンの伝記映画が作られるんですけど、顔を本物のプーチンにするらしいですよ。それにはすごい賛否があって。俳優はどんな気持ちですか?っていうのもあるし」

山口「それはAIで?」

瀧川「デジタルダブルっていう技術なんですが、割とAIとギリな感じのもので。俳優さんは亡くなってしまったけどシリーズが続いているっていう時に、骨格の似た俳優さんの上に過去作品から映像を持ってきて作り直すとか、あとはスタントマンに顔の部分だけデジタルで張り付けるとか。そうすると危険なスタントでも顔出しで撮れるんですよ。バックショットで切り替えたら顔じゃなくて、顔を出したままアクションが撮れちゃう。その技術もいいところも悪いところもあって、倫理的な問題として亡くなった人のそういう新作を作っていいのかとか、スタントマンの意義は何なのかとか。それこそ俳優さんって何なのとか。プーチンの映画で顔をプーチンにして撮るってなった時に、そのプーチン役の俳優さんは2年間くらいプーチンの所作を学んでいるんです。でも顔だけ全部変えられちゃったら、それはどうなんですか?っていうことはあるじゃないですか。だから俳優の演技に干渉してくると急に“ちょっと問題がある”になるんですよね。背景とかセットとかだと問題なさそうなのに、実写と絡んだ時にいろいろな問題が起きてくるとなると、どういう形で融合すると一番お互いが幸せになるのかって思うんです。

 あと、AI技術が問題視されたエピソードとしては、今年公開されたエイドリアン・ブロディが主演の『ブルータリスト』という映画があったんですが、エイドリアン・ブロディが演技の中で訛りのセリフをすごい練習したんだけど、ある箇所をAIによって調整したっていうことを編集した人が明かしたんです。それで主演男優賞を取るってどうなん?って AIが絡んだ瞬間にパッと燃えたんですよ。イントネーションをAIによって修正したことが問題になったんです。じゃあそれで言うと『ゴッドファーザー』でカンペを読み続けただけで、アカデミー賞主演男優賞を取った俳優のことはどう思っているのかって話なんだけど(笑)。 相手役の胸にカンペを張って、それを読んでいて、アカデミー賞の主演男優賞を取ったんですけど、それとどう何が違う?と思うんですが、AIと聞いた瞬間にみんながすごく過剰に反応するんですよね」

 そんななかでもアメリカでは米俳優協会のモーションキャプチャー俳優がAI関連の労働者保護でゲーム会社と新たな契約を結び、約1年に渡ったストライキが終了したというニュースもありました。AIの急速な進歩からか、互いに落としどころを模索するフェーズに入ったようにも思えます。