音楽・服部百音×食・長江桂子の表現の世界「タイパやコスパを重視した先に本物の喜びはない」

常に挑戦を続けることがこの仕事の面白さでもある
長江「私がこの仕事をしていて楽しいと感じるのは、料理やお菓子が自分を表現する場であり、同時にメッセージを伝える手段だからです。ただ料理を作るだけではなく、例えば環境問題や生産者の方々の努力といった背景を伝えるストーリーテラーでありたい。東京は電話一本で何でもそろうし、三つ星レストランでは最高の食材を探し出すけれど、長野では常に生産者さんのところへ足を運んでいます。天候の影響で野菜や果物が手に入らないこともあれば、流通しないまま廃棄されてしまう食材も多く存在します」
服部「レストランに並ばない食材があるというのは、私たちで言うところの埋もれている名曲とまったく同じですね」
長江「その食材をどういうふうに扱ってあげればいいか、どうしたら廃棄しないで済むのか、それを見出すことは私に課された役割でもあります。『ピエール・ガニェール』のシェフパティシエ時代に世界各地でイベントを行ったのですが、パリでレシピを組み立てても現地の食材に合わせてアプローチやレシピの配合、プレゼンテーションなどを調整しなければ思い描いた完成形にはなりません。結果が伴わなければ自分の責任で、その判断を下すのも自分自身。そうした挑戦を常に続けることがこの仕事の面白さでもあります」
服部「自分が目指すものに到達するために、発想を変えながら絶えず挑戦することは、時には勇気も必要だけどすごく面白いですよね。今の私にとって一番大きな課題は、演奏家としての自分と人間として生きる人生のバランスをどう取るかということです。ヴァイオリンに打ち込むことはもちろん重要ですが、すべてがつながり合って互いに影響し合っているからこそ、バランスの取り方次第で人生の幸福度が大きく変わる。その幸福を保証してくれるのは、親でもパートナーでもなく結局は自分自身なので自分が何を選び、どうバランスを取るのかはここ数年常に考え続けています」