実録!3年間前髪を伸ばし、切るまでに感じたこと。 BALZACの偉大さ、そして女性に対する尊敬の念と!〈徳井健太の菩薩目線 第276回〉

平成ノブシコブシ 徳井健太

“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第276回目は、伸ばした前髪のあとに残ったものについて、独自の梵鐘を鳴らす――。

 僕が3年間、前髪だけを伸ばした理由――。前回、パンクバンド「BALZAC(バルザック)」にあこがれたからだと説明した。そして、切る決心をしたとも。

 髪を伸ばした男性が、どのタイミングで切ればいいのか分からなくなるという話を聞いたことがあった。「切りたいときに切ればいいじゃん」なんて外野にいたときは思っていたけど、いざ自分が当事者になると、「なるほど」。先人たちの証言は腑に落ちた。

 人間というのは、本当に身勝手な生き物です。髪の毛を切るかどうか悩んでいる人を目の前にしたら、きっと僕は「そう思っているんだったら切ったほうがいいよ」と想像もせずに助言をするに違いない。だけど、いざ伸ばしてみると、そんな簡単な話ではないことに気が付く。なかなか踏ん切りがつかない。だから僕は、息子の誕生日を迎える3月に、毎年、家族写真を撮っているから、その写真を撮り終えたら「前髪を切ろう」。そう決めた。

 すると、別れを惜しむかのように、前髪について触れられる収録が続いた。今までそんなことは一度もなかったのに。

 一つは、『ダウンタウンプラス』の「芯くったら負け!実のない話トーナメント コンビ対抗タッグマッチ」。この収録のとき、ダウンタウンの松本さんから。そして、もう一つが『ゴッドタン』の「腐り芸人セラピー」。劇団ひとりさんやおぎやはぎさんから。

 大好きな芸人さんたちから前髪をいじられ、そして、その理由についても説明できたことで、3月に切ろうと思っていた決心は、より強固なものへと変わった。この髪型と‟さよなら”することに躊躇はなくなった。

 せっかくいじってもらったんだから、「そのまま伸ばしていれば、また誰かから話を振ってもらったり、いじってもらえるかもしれないのに」と指摘する声もあると思う。でも、僕はキャラ付けのために前髪を伸ばしたのではなく、やり残したこと―― BALZACの髪形をやりたかっただけだから。笑いに変えるつもりなんてなかったのに、最期に笑いにつながったのだから万々歳じゃないですか。

 それに、髪を伸ばしてみたからこそ分かることも多々あった。例えば、ラーメンを食べるとき。普通の髪の長さであれば難なく食べられるけど、長いとめっちゃ食べづらいんです。味噌汁を手に取って飲もうとすると、前髪が汁にインしかける。汁系は天敵なんです。世の女性の多くが、こんなにも‟髪が長い”ことで生じる不都合と向き合っていたのかと思い知った。

 しかも、僕は長く伸ばした髪の毛のケアをあまりしていないから、インチキロン毛と言っていい。毎日ドライヤーをかけていたら、10分20分という時間を髪の毛に捧げなきゃいけないわけで、女性たちがヘアメイクに時間とお金を捧げていることを身をもって痛感した。ワックスをつけると首の後ろがかゆくなる人もいるだろうし、夏は多分暑いだろうし。前髪が邪魔して、スマホの顔認証ができなかったことも一度や二度じゃない。好きでやっていることなのに、とにかく煩らわしい。

 だからこそあらためて思いました。BALZACが、この髪型のままバンドを続けているということのすごさを。僕はたったの3年間……前髪が本格的に自分の生活に支障をもたらしたのは、ここ1年半くらいだけど、BALZACは何十年も貫いている。絶対に前髪を切った方が煩わしくないのに、生活に支障をきたし続ける。それ自体がパンクだと感じたし、リスペクトすべきことだなって。

 社会から求められていないであろうことを、自分のイズムのために捧げる。本当に尊いことだと勝手に学ばせていただきました。周りはみんな、「切った方がいい」と言ったし、「気持ち悪い」とも指摘してきたけど、誰よりも一番自分がそう感じていました。やっている本人が一番そう思っているってことを、世の中はもっと知ってほしい。「好き」って叫ぶのは、そういうことなんです。そのことを、この菩薩目線で叫ぶことができただけでも、僕は3年間前髪を伸ばした甲斐があったと思う。

 BALZACの皆さんには、あこがれが成就できたとともに、断髪してしまったことに対する申し訳なさもあります。ごめんなさい。でも、本当にありがとうございました。

 今は、「鳥谷さんの髪型にしたら似合うんじゃない?」という奥さんのアドバイスに従って、元プロ野球選手の鳥谷敬さんの髪型にしています。From BALZAC to TORITANI。

 実際に前髪がカットされた瞬間は、不思議な感覚だった。変な話だけど、女の子の気持ちがわかったというか、特別な日になったというか。ただのカットが‟別れ”に感じる。髪を伸ばすことで分かることって、意外にたくさんあるんです。自分のやり残したこと向き合う気持ち。皆さんも大切にしてください。

【プロフィル】
1980年北海道出身。2000年、東京NSC5期生同期の吉村崇とお笑いコンビ「平成ノブシコブシ」結成。「ピカルの定理」などバラエティ番組を中心に活躍。最近では、バラエティ番組や芸人を愛情たっぷりに「分析」することでも注目を集め、22年2月28日に『敗北からの芸人論』を発売。「もっと世間で評価や称賛を受けるべき人や物」を紹介すべく、YouTubeチャンネル「徳井の考察」も開設している。吉本興業所属。
公式ツイッター:https://twitter.com/nagomigozen 
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UC-9P1uMojDoe1QM49wmSGmw
講演依頼:https://www.speakers.jp/speaker/tokui-kenta/
     https://www.sbrain.co.jp/keyperson/K-19533.htm
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